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教師も哲学をもとう

「哲学」というと、「難解なもの」「抽象的なもの」というイメージもあるかと思いますが、ここでは、「判断のもととなるような原理・原則」と考えて頂ければよいかと思います。

 私が所属する早稲田大学教師教育研究所の藤井千春先生から聞いた話です。
 藤井先生が教え子のアルバイトが、
 A 仕事の内容が、詳細にマニュアルに定められているファストフード店
 B 企業理念を伝えて、その企業理念に則って仕事について判断するようにするコーヒーチェーン店
の二通りがあったそうです。もちろん、Bにもある程度のマニュアルはあります。ただ、それは最小限です。
 Aは効率がよく、誰でも、すぐに一定のレベルの仕事ができるでしょう。Bは、仕事がすぐにできるというわけには、いかないでしょう。
 ここで、マニュアルにない事態が起きたときには、どうなるでしょうか。Aの場合は、マニュアルにないことは対応しません。Bは、企業理念に従って、アルバイトそれぞれが判断し、行動することになります。

 ニュース等でも話題になりましたが、海外でAのタイプの店で、ある人が、マニュアルにないからと入店できなくて問題になりました。同様のケースで、Bのタイプの店は対応して称賛されました。
 具体的に書くとどのチェーン店かわかりますので、創作しますと、
 Bの企業理念に「お客の幸せを最優先する」とあったとします。
 マスク過敏でマスクが付けられない人がいたとします。コロナですので、Aの店は入店を拒否しました。Bの店では、企業理念の「お客の幸せ」を考慮して、そのよう事情があるのならば、入店はできないけれど、店外で受け渡しをした、という対応をしました。
 というようなケースです(繰り返しますが、創作です)。

 このBの対応が、「従業員が哲学(企業理念)をもって仕事をする」ということです。

 ただ、Bのタイプの店でも問題はあります。従業員が趣旨を理解していない場合は、任せたことによって、かえって問題を起こすこともあるでしょう。任されたことで、何でも自由にしてしまったり、企業理念を曲解して誤った対応を取ることもあるでしょう。
 ですから企業として考えると、一長一短があります。

 これを教師としてみるとどうでしょうか。
 学校現場では、常に判断が求められています。それをマニュアルをもとに判断するのか、それとも原理原則(哲学)をもとに判断するのか、どちらがよいのでしょうか。
 おそらく多くの方は後者を推奨されますし、そうしていると言う方も多いでしょう。
 でも、実際の現場を見ますと、そうとは思えないことが多々あるのです。

 例えば組み体操の問題です。なぜ組み体操で危険なピラミッドをやるのかと言えば、だいたいが例年やって好評だったから、ではないでしょうか。この判断に哲学はあるでしょうか。
 「子どもに危険なことをさせない」という原理原則があり、それに則っていれば、もう、組み体操でピラミッドをやることはないでしょう。
 「子どもにチャレンジさせる」という原理原則もあるかもしれません。原理原則は一つではありません。優先順位もあります。ただ、「危険回避」より「チャレンジ」を優先させるというのは、どうでしょうか。教育者ならば、やはり「危険を回避する」ことを優先させるのではないでしょうか。

 「二分の一成人式」もそうです。家庭に困難がある子どもが傷つく、などがその主な理由で批判もされています。現状ならば、取りやめたほうがよいと思います。
 「二分の一成人式」をやるという判断に、どのような哲学があるのでしょうか。「子どもを傷つけない」という原理原則があれば、やらないという判断になるのではないでしょうか。

 このように原理原則に則って判断し、さらには原理原則とは何かを問い続けることが、教師が哲学をもつということです。それをみなさんはできているでしょうか。
 何も考えずに(哲学がないままに)、「組み体操」をやめた、「二分の一成人式」をやめた、では意味がありません。その代わりに同じようなことをやってしまうこともあるでしょう。
 そう考えると、むしろ安全な「組み体操」や誰も傷つかない「二分の一成人式」ができるような教師になってほしいとも考えます。そのために必要なのは、「技術」や「方法」ではなくて、「哲学」なのではないでしょうか。

 私がこのことを考えるのは、教育書の傾向がマニュアル化してきていることです。「教育技術」や「方法」ばかりが先行してしまっているのではないかと感じています。
 「二分の一成人式」をしても問題の無い学校の実践を見て、そのまま、その「方法」だけを取り入れて問題がおきてしまう、そういうこともあるのではないでしょうか。冒頭で紹介した、「マニュアル」に従うファストフード店のようなものです。
 「技術」や「方法」も大事ですが、ぜひ「哲学」も持つようになってほしいと願います。

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