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母の好きなものが、わたしの好きなものになった



母の大好きなケーキがある。ちょうど手のひらに乗るくらいの大きさで、しっとり甘酸っぱくて、バターの香りがするレモンケーキ。

就職を機に家を出たわたしに、母は定期的にこのレモンケーキを送ってくれる。


すっぱいレモンケーキ

両親の知り合いが「あじば農園」というレモン農園を営んでおり、そこではレモンケーキが販売されている。

 レモン生産日本一の瀬戸田町(広島県尾道市)のレモン農家が自分で育てたレモンを使って本物のレモンケーキを作りました。まさにレモン畑うまれのレモンケーキ。レモンを知り尽くしたレモン農家の心意気と理想の結晶です。
 日本一のレモン産地・瀬戸田町は昔からレモンケーキが沢山売られていますが、酸っぱい味のレモンケーキはありませんでした。このレモンケーキは「すっぱいレモンケーキを食べたい」という園主の長年の夢を叶えるために作りました。

【引用元】あじば農園

たっぷり使われたレモンの酸味と香りを思う存分堪能できるのがこのケーキの特徴だ。また、無添加にこだわられており保存料や香料などの食品添加物は一切使用されていない。まるで家で作ったケーキのような温かさを感じさせてくれる。

初めて食べたときの衝撃は忘れられない。口に入れた瞬間にバターとレモンの香りが広がり、噛むとすっぱい果汁がじゅわっと溢れ出した。原材料に含まれているアーモンドによってほのかに香ばしく、ざらざらとした食感でレモンの味と香りを際立たせる。そのままほおばるのもいいが、香りとふんわり感が増すので電子レンジで10秒ほど温めて食べるとおいしい。

「仕事終わりにこれを食べるのが楽しみ」

フルタイムで働いている母はそう言って、温かいレモンケーキを幸せそうに食べていた。


家を出てもそばにあった

就職を機にわたしは家を出た。家族や友達に会えないさみしさは多少あったが、初めての一人暮らしと社会人生活を楽しんでいた。たまに母が作った煮物やきんぴら、フリーズドライの味噌汁、みかんや桃など季節のフルーツが実家から送られてきた。その段ボールの中には隙間を埋めるように、レモンケーキがひとつかふたつ入っていた。実家に帰ったときは、「いくつか持って帰る?」とわたしに渡してくれた。どんどんストックされるレモンケーキは、あって当然の存在となりいつしか食べなくなっていった。


レモンケーキの思い出

一人暮らしにも社会人にも慣れてきた頃に、自粛期間が訪れて実家に帰れなくなった。友人にも会えなくなり、リモートワークになったことでほとんど人に会わない日々。おうち時間もそれなりに楽しんでいたがそろそろ誰かに会いたいなとも思いだした頃、ふとレモンケーキの存在を思い出した。

母がいつもしていたように温めて食べると、妙にほっとした。まるで母が隣にいてくれているような安心感があった。食べなれた味であるはずなのに、涙がこみ上げてくるくらいめちゃくちゃおいしい。ああ、わたしは自分が思っている以上にさみしかったみたいだ。この温かさを求めていたんだ。

思えば、実家でこのケーキをわたしが食べていた記憶があまりない。定期的に食べていたはずだが、思い出せるのは母が食べている姿だけ。わたしの中ではこのレモンケーキと母の結びつきが相当強いらしい。それを自覚してから、心の栄養が足りていないなと思ったときに食べるお守りのような存在になっていった。


わたしの好きなもの

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わたしの大好きなケーキがある。ちょうど手のひらに乗るくらいの大きさで、しっとり甘酸っぱくて、バターの香りがするレモンケーキ。

これを食べると母が幸せそうに食べていた姿を思い出す。母の温かさを感じたくなると、お皿にのせて温めて、指でつかんで食べれるほどの大きさのそれをフォークで少しずつゆっくり味わう。母の大好きなものだから、わたしの大好きなものになった。

直営の販売店はネットのみで、3個入り780円から。社会人になったからいつだって自分で買える。だけど、これからも母からの仕送りに埋もれたものと、実家に帰った時に渡してくれたものを大切に食べたいと思う。母がくれたレモンケーキを、母の姿を思い出しながら食べることがわたしの喜びだ。


元祖すっぱいレモンケーキ ちーとすいー (ちょっと酸っぱい)

カープレモンケーキ ぶちすいー (すごく酸っぱい)

元祖チョコチップレモンケーキ チョコレモン





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