「分裂した世界にどう向き合うか」フォーリン・アフェアーズ リポート2024年11月号一言感想
フォーリン・アフェアーズ リポート最新号の一言感想です。
私は、国家・国民主権を支持しており、”行き過ぎた”グローバル主義には反対です。グローバル主義推進の考えを理解するため、本誌を購読しています。
分裂した世界にどう向き合うか
①新国際主義外交の薦め― アメリカと世界
コンドリーザ・ライス 元米国務長官
ブッシュ(子)政権で国務長官を務めたライス氏による、米外交論。今はスタンフォード大学フーバー研究所の所長をしているそうです。
一部抜粋
・対ロシア:『経済的ダメージが、今後長期的にモスクワを苦しめることになるだろう。』
・対中国:『中国の若者を孤立させるのではなく、いまは、中国の若者を留学生としてアメリカに迎え、歓迎するタイミングだろう。ニコラス・バーンズ駐中国米大使が指摘するように、国内の市民を威嚇してアメリカとの関わりを控えさせようとするのは、政府に自信がないからだ。これは、中国市民とのつながりをワシントンが求めるべきシグナルとみなせる。』
『モスクワに対する北京の支援を阻止することに配慮しつつ、ロシアを孤立させる必要がある。しかし、中国に対して露骨な制裁を加えることは控えるべきだろう。制裁は効果がなく、逆効果となり、その過程で米経済を追い込むことになる。一方、的を絞った制裁なら、少なくともしばらくの間は、北京の軍事的・技術的進化を先送りできるかもしれない。』
・対イラン:『バイデン政権は、イランで収監されていた5人のアメリカ人を釈放させる取引の一環として、一部のイラン資産の凍結解除を認めたが、このやり方を繰り返してはならない。イランの神権主義者たちのなかから穏健派をみつけようとする努力は失敗に終わる運命にあり、神権政治の指導者が不人気で攻撃的で無能な体制の矛盾から逃れるのを許すだけだ。』
そして、米国は、「ポピュリズム、移民排斥主義、孤立主義、保護主義」になってはいけない、と説いています。
私は、ロシアに厳しく、Chinaに甘い、グローバリストの典型だと感じました。
②流動化する世界と米再生戦略― アメリカとリビジョニストパワー
アントニー・ブリンケン 米国務長官
上記、元国務長官の論文に続き、現役国務長官の論文です。バイデン政権の正当性を主張する内容であり、トランプ政権に変わる前に、自身を擁護したいのかなと感じました。
序文抜粋『
バイデン政権はアメリカの競争力強化を目的とする歴史的な国内投資と各国との協調関係の再生に向けた力強い外交キャンペーンを組み合わせて展開した。この二つの支柱から成る戦略が、「アメリカは衰退し、自信を失っている」とみなす(中露などの)リビジョニストパワーの思い込みを粉砕する最善の方法だと、バイデン政権は信じていた。米衰退論の思い込みに囚われている限り、リビジョニストパワーは、アメリカやほとんどの国が求める「自由で開放的な世界、安全で繁栄する世界」にダメージを与え続けようとするからだ。アメリカはリビジョニスト諸国の思い込みを粉砕するための決意を維持しなければならない。そして、リビジョニストパワーが相互の立場の違いを克服するために、今以上に協力する事態に備える必要がある。
』
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ビッグテックのクーデター、AIと戦争
③ビッグテックのクーデター ― いかにパワーシフトを抑えるか
マリーチェ・シャーケ スタンフォード大学 サイバー・ポリシー・センター フェロー
序文抜粋『政府からビッグテックへのパワーシフトが進行している。テクノロジー企業は議会にロビイストを送り込み、シンクタンクや学術機関に資金を提供して、世界がテクノロジー産業をどうとらえるか、その理解を形作っている。民主主義が生き残るには、指導者たちはこのクーデターと正面から向き合い、闘わなければならない。ビッグテックへの社会の全般的依存、彼らが活動するデジタル空間が法的グレーゾーンであることなどが変化の潮流を形作っている、彼らは、技術を速いペースで進化させて、法律を回避し、政策による反撃を心配することなく、疑わしい行動をとっている。政府は公益性のあるテクノロジーに力を与え、テクノロジーに関する専門知識を再構築して対抗して必要がある。』
ビックテックが大きな権力を持つ事を懸念する論文です。大枠は同意しますが、論文では(米国)政府を正、ビックテックを悪 のように扱っており、その定義には注意が必要と思います。
まず、私は、政府と企業が共謀し情報規制をしていると理解しています。
軍産複合体 military-industrial complex という言葉は1961年から使われていますが、近年、医療産業複合体 Medical Industrial Complex 、検閲産業複合体 Censorship Industrial Complex という言葉も生まれています。
そして、ビックテックの中にも、イーロン・マスクのように検閲に反対する勢力もいます。
政府vsビックテックという構図では無く、私たち国民の益になる立場・考え・行動か否かを見極め、判断する必要があると思います。
参考:イーロン・マスクが明らかにした、旧Twitterの検閲
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④未来の戦争と新しい兵器― 新しい戦争はすでに具体化している
マーク・A・ミリー 前統合参謀本部議長
エリック・シュミット 元グーグル会長兼CEO
エリック・シュミット氏は、キッシンジャー氏と共著を出版しています。
論文によると、AI軍事システム能力は、米国より他国(Chinaとか)が上回っているそうです。であれば、日本は相当遅れているでしょう。
私は、日本が国防のために優先すべきことは、ドローンによる防御システムと、サイバー(攻撃・防御両方)能力の強化と思います。防衛費を増やすならば、国民を守るために有効な事にお金を使って欲しい。
序文抜粋『ウクライナ戦争が他のヨーロッパ地域へ拡大すれば、北大西洋条約機構(NATO)とロシアは、ともに地上ロボットと空中ドローンをまず投入することで、人間だけでは攻撃も防御もできない広範な前線をカバーすることになるだろう。すでに戦争の本質は変化している。イスラエル軍は、AIプログラム「ラベンダー」を使って、ハマスの戦闘員を特定し、彼らの自宅を爆撃している。人が攻撃の承認にかける時間はわずか20秒だ。最悪のシナリオでは、AI戦争は人類を危険にさらす恐れさえある。人間だけによる戦闘シミュレーションと比べて、AIモデルでは、核戦争を含めて、戦争が突然エスカレートする傾向があることがわかっている。』
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戦争か自制か
⑤何が戦争を食い止めるのか― 自制かエスカレーションか
エリック・リン=グリーンバーグ マサチューセッツ工科大学 准教授(政治学)
序文抜粋『挑発的事件が危機をエスカレートさせるリスクはあるが、思いがけず戦争が始まることはあまりない。指導者たちは、一触即発の状況では、むしろ、戦闘を避けるために自制することが多い。イランとイスラエルの一触即発状況が続いても、戦争が必然になることはほとんどない。勝利が保証されているわけではなく、戦争のコストは利益を上回るかもしれないからだ。このために、指導者は政治的ダメージ、名声の失墜に直面するとしても、国の戦略目的を促進するような和解の方が戦闘よりも好ましいと判断することが多い。思いがけず戦争に引きずりこまれるリスクにパニックに陥る必要はない。自制のツールは指導者の手のうちにあるのだから。』
各国の指導者は、危機が高まると戦闘を自制する事が多いとする、希望有る論文です。例として、キューバ危機や、最近では今年4月にイランがウクライナに攻撃したが戦争に発展しなかった事を挙げています。
これについて、私は、論文が「指導者が合理的な判断をする」事を前提にしていると感じましたが、何が合理的かは主観が入る事に注意すべきと思います。
例えば、ネタニヤフは保身ために戦争を継続しているとの意見もありますが、これは、国家としては合理的でなくとも、個人としては合理的なのでしょう。
参考 ネタニヤフ分析など
エスカレーションの予想の難しさについては、元NATO長官が小説を書いており参考になります。
また、日本では、日本外交政策学会が定期的にwar game を開催しシミュレーションしています。学会の川上理事長は、内閣官房参与に就任しました。
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⑥保護主義の台頭とWTOの衰退― 貿易秩序の崩壊は何を意味するか
クリステン・ホープウェル ブリティッシュ・コロンビア大学 教授
序文抜粋『アメリカは自由貿易へのコミットメントをすでに放棄している。関税を課し、複数の産業に巨額の補助金を投入することで、世界貿易機関(WTO)のルールと原則を公然と踏みにじっている。中国も、補助金や経済的威圧策を行使して貿易をゆがめ、次第にこれを兵器として用いつつある。しかも、インドネシアやインドを含む、他の諸国もアメリカのやり方に追随して、WTOルールを公然と無視するようになった。このままWTOルールを無視する国が増え続ければ、いずれ、多国間貿易システムが完全に崩壊するティッピングポイントを迎え、世界は1930-1940年代へと回帰していくことになるのかもしれない。』
私は、自由貿易か関税という考えが、二元論になっており、思考が止まってしまうと思います。それ以外のより良い考え方、例えば、それぞれの国が、できる限り自給できる体制を作る。自給できないものを、生産に余裕のある国から輸入する仕組みなどは如何でしょうか。そういう認識に立てば、経済・環境・乱獲など、様々な問題を抽象度の高い視点から解決できると思います。
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Current Issues
⑦再生する資本主義― スイス、台湾、ベトナムに学ぶ
ルチール・シャルマ ロックフェラー・インターナショナル 会長
序文抜粋『新興経済諸国は、アメリカが「大きな政府」的解決策を模索するのをみて衝撃を受ける一方で、中国に経済モデルのインスピレーションを求めることもできずにいる。いまや「中国経済の奇跡」も失速しつつある。だが、主要国が資本主義から後退しているかにみえるなか、スイス、台湾、ベトナムなどの、資本主義がうまく機能している国もある。これらの諸国のやり方を模倣し、取り入れる価値はあるだろう。いずれも、経済的自由を重視し、経済の管理や規制をめぐる政府の役割を抑え、債務や財政赤字が深刻なリスクになることを認識して資金を慎重に用いている。』
小さな政府と資本主義の再生を推奨する論文。
上記論文⑥と同様、小さな政府か大きな政府か、という考えが二元論になっていると思います。二元論は、自己の正当化と、相手へのレッテル貼りになりがち。
お金(予算)は必要に応じて変わりますし、政府がどの程度関与するかも、状況によって変わるでしょう。
論文では、資本主義再生の例として「モデル国家としてのスイス」「自由主義の台湾」「ベトナムの奇跡」を挙げていますが、スイスはタックスヘイブンという特殊性がありますし、台湾は大手はChina企業(TSMCとか)と認識していますし、ベトナムは共産主義なので、良い参考例になのか疑問です。
本エッセーは、この本↓からの抜粋だそうです
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⑧中国の政治腐敗と格差― 壮大なスケールの汚職
ブランコ・ミラノヴィッチ ニューヨーク市立大学大学院センター シニアスカラー
リー・ヤン ライプニッツ欧州経済研究センター 研究員
中共の汚職を分析し、「中国の実質的な所得格差は、記録されている格差レベルよりもはるかに大きい」としている。
そして、『功罪が何であれ、(習近平の)反政治腐敗キャンペーンは象徴的にも現実的にも、この国にまん延する格差を是正する働きをしている。』と結論付けている。
一部抜粋『調査結果は、中国都市部の所得分配におけるトップ層の政治腐敗がいかに深刻であるかを示している。法定所得が高い者でさえ、(賄賂や横領で)平均して4倍から6倍、なかにはそれ以上に所得を増やしている。これが示唆するのは、中国の実質的な所得格差は、記録されている格差レベルよりもはるかに大きいということだ。』
確かに酷い腐敗だと思いますが、トップ1%が世界の富の38%を所有(World Inequality Report 2022)を考えると、氷山の一角と思えます。
参考
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⑨「現場主義外交」の試金石― 太平洋諸島と米中競争
チャールズ・エデル 戦略国際問題研究所上級顧問
キャサリン・ペイク 戦略国際問題研究所シニアフェロー
論文著者はオーストラリアの方で、オーストラリア周辺海域で団結してChinaに対抗しよう、その為に米国はもっと外交に力を入れようという論文です。
序文抜粋『
「あなたたちのなかで、外交領域で働きたいと思う人は何人いるだろうか」。若者に行動を求めた1960年のケネディ大統領のこのフレーズは、平和部隊への参加を促し、アメリカの世界への関心を高めたと評価されている。現在も、ライバルと競い合うには、外交官たちが外国の指導者と会い、現地の文化や習慣を理解し、協調の機会を見極めなければならない。この課題がもっとも深刻に脅かされているのが太平洋諸島諸国においてだ。この地域への外交の優先順位を高め、支援を強化しなければ、フィリピンからハワイに至る太平洋地域全体でアメリカは中国に立場を譲り続けることになる。
』
論文内では、オーストラリアのシドニーを拠点とするシンクタンク「ローウィー国際政策研究所」のデータを参考にしています。
豪の報告書、中国が米国を抜き2024年の世界外交指数1位に
他にも、ローウィー国際政策研究所の面白い記事がありました。
JETRO:2024年アジアパワーインデックス、インドの影響力はアジア域内で緩やかに拡大
英語サイトですが、視覚的にイメージし易いです
豪国民の信頼度、世界で日本が一番 米国は低下=調査
オーストラリアは、世界で一番日本を信頼しているという調査結果ですが、その根拠が気になります。
まとめページ