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《眠り猫の顔.》

 温泉は苦手なはずだった。湯上りの真っ赤な顔を子どもながらに恥ずかしいと思っていた。

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 栃木県・日光市を訪れるのは、小学生以来。せっかく温泉のあるホテルにしたのだからと、夕食後着替えを持って向かう。

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 木のぬくもりあふれる脱衣所、優しい黒の床、ふんわりと漂う硫黄の香り、広がる静けさ、そのどれもが安らぎを与えてくれた。外には露天風呂もある。身体を洗い、扉を開けてみる。ひんやりとした空気に「あっ、寒い」と慌ててお湯にもぐりこんだ。

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 おとうふみたいな色のそれ。いい温度と肌ざわりに心がみるみるとろけていくのがわかった。見上げた夜空には星も輝いている。

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 ふと思い出したのは、昼間みた「眠り猫」。すやすやと子猫が眠れる寧静な世を表しているのだそう。その意味も、温泉の魅力も理解できるようになったわたしは、小さな頃と違ってお風呂の中でもいい顔をしているのだろう。ちょうどあの子猫がしていたような柔らかな表情を。

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