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《餅、笑.》

 初日の出、初詣、初夢。年明け初めてのそれは、何度経験しても特別だなと感じます。「初笑い」もまたそうであることには、今年初めて気づかされたのでした。


 さて、わが家にはある暗黙の了解があります。お正月の定番グルメ「おもち」をこっそり食べることです。料理担当が、祖母からわたしへとバトンタッチした頃からでしょうか。94歳の祖母、母、わたしの三人暮らしを始めて数年。お正月になると決まってテレビから流れてくる「お年寄りの方はおもちを喉に詰まらせないように気をつけましょう。」の言葉をきっちり守り、お雑煮は「もちなし」が定番となっています。


 それでも、祖母がつくってくれていた、田舎から届くお米粒の食感のこる素朴なおもちが入ったお雑煮は大好きでしたし、お正月には反射的におもちを食べたくなってしまうもの。お店でいただいたり、鏡開きの時にこっそり母とわたしだけが口にしたりしていたのでした。



 そんな昨日は、祖母がデイサービスへ行っている間に母と「とらや」さんへ。お目当てはもちろん「おもち」です。この時期だけこれをたっぷり愉しめる「お雑煮」がメニューの一つとなるこちらの老舗和菓子店。開店と同時にお店に着いたものの1時間半待ち。白味噌仕立てに、海老芋、京人参、そして丸もちがふたつも入ったこの逸品は、多くの方が求めるお味なのでした。

 待ってる間には、祖母へのおみやげ探しを。お雑煮と同じ白味噌の風味を堪能できる「花びら餅」を選びます。こちらは「おもち」と言っても粘りのないうすいそれが使われているだけなので、小さくカットすれば彼女も問題なく食べられそうです。

 お買い物を済ませ、しばらくすると順番がやってきました。気のせるわたしたちは席につくなり「お雑煮ふたつください!」と注文を。運ばれてきた器のふたを開けるとふんわりと湯気がただよいます。これだけでも夢見心地に。優しい甘味のお汁に、ほくっほろっとした海老芋、アクセントになる香り高い鰹節、そして一年ぶりのおもち。たまらない美味しさを噛みしめます。その余韻に浸りつつ、家路に。お上品な「おもち」と愉しみを携えながら。




 いよいよ祖母と「花びら餅」をいただく時がやってきました。お雑煮を一緒に食べられなかったからこそ、余計に愛おしく感じられるこの時間。桜色の包装紙から、出てきたのは真っ白な半月のお月さまでした。両端からはごぼうがちょこんと顔を出します。新春をお祝いするにふさわしいお菓子だなと改めてその見た目に惚れ惚れとしていると、小さく切るのがもったいないように感じられます。それでも、祖母のためと7〜8mmほどの幅に切り分けました。



 その間、隣にいる彼女には「お年寄りは、おもちを喉に詰まらせないように気をつけてください。ってよ。」と声をかけます。

 すると、「年寄りじゃないよ。」と返ってきたのです。

 その平然とした言い方には、思わず手をとめ、ケラケラと笑ってしまいました。あまりの前向きさに驚くと同時に、自分がこっけいに思えて仕方なくて。



 間もなく95歳を迎える祖母。認知症があるため正確な年齢はいつからか忘れていることは知っていたものの、「お年寄り」とか「おばあさん」という気持ちではまったくいなかったことには感動すら覚えました。そう思いながら接していた自分を省みることにもなって。

 どんな病をわずらっても、めげることもなければ、その回復力に毎度びっくりさせれられる彼女。(花びら餅も次々と口へと運んでおりました。)その根底には、この朗らかさがあったのです。だからといってまた一緒に普通の「おもち」を食べることはないのかもしれませんが、祖母と同じだけ、彼女の信じる自分の「可能性」をわたしも信じたいとつよく想った、初笑いの時。これが特別なものとなった初めての年でもありました。

 皆さまの2023年の「初笑い」はどのようなものでしたでしょうか。




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