《秋の夜とタルトタタン.》

 夜のカフェテラスでタルトタタンを食べた。秋の風が気持ちよく吹いていた。

画像1

 リンゴを丸ごといただいているような、豪快なその一品は、果実の甘みとバターのまろやかさとキャラメルのほろ苦さのハーモニーがたまらない。どれが欠けても多すぎてもその味にはならないような、絶妙なバランスでなりたっているのだ。添えられたヨーグルトをくわえるとさらに深い味わいになる。

画像2

 皇居にほど近い商業施設の一階にあるこのカフェレストラン。パリの食堂のような雰囲気の店内では、いつも心地よいジャズが響きわたっている。そのメロディーはテラス席にも流れこむ。食事でもデザートでもお紅茶でも何を頼んでもはずれがないこともあって、ついふらっと立ち寄りたくなってしまうのだ。夜一人で、キャンドルの灯りの揺れる店内のカウンター席に案内してもらうのもいい。 

画像3

 高校生まで学校をさぼったことがなかった。無遅刻無欠席を意識していたせいか、風邪をひくのも週末だけ。だからいつも憧れを抱いていたのは、ちょっとハメをはずずことだった。授業をこっそり休んで失恋した友だちをなぐさめたり、恋人とのデートで帰りが遅くなって家に入れてもらえなくて泣いたり。そんなことをしてみたかった。でも、母や先生の顔を見るとその気持ちは小さくしぼんで、もとのいい子に戻っていくのだった。

画像4

 甘いだけじゃないタルトタタンを、秋をしみじみと感じながらほおばる夜は、そんな学生の頃の憧れを実現しているみたいだった。無性に食べたくなったお気に入りのカフェのスイーツを夜ご飯のかわりにいただくなんて「なんだか不良みたい」と嬉しくなった。フォークが悪びれることもなくケーキにささって出てくるこのお店ならではの演出も今のシチュエーションにはぴったりだ。

画像5

 おしとやかな秋の空気に包まれながら、そのフォークにのせてビターなリンゴのかけらを次々と口に運んでいく。こんな罪な味を知ってしまったわたしは、また同じような大人の遊びをしてしまうのだろう。ささやかなその愉しみがこの秋に彩りをあたえてくれると信じながら。

画像6



(↓舞台となったお店のご紹介です。)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?