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《雪、茶.》

 あぁ幸せです。大切な日の風景が、とっても美しいものだったのです。清らかで、芳しくて、さらさらと耳ざわりの好い音がして。


 
 茶道を始めて一年あまり。とはいいつつも、このご時世のもとお稽古が開催されない期間もありましたので、実質7ヶ月ほどになるでしょうか。初めて「お茶会」のスタッフをすることとなったのです。


 「お茶会」とはお抹茶をふる舞う会のこと。一日をかけて行なわれるその会は、30分間の「お席」が6度ほど催されます。参加されるのは、どこかのお教室に通われている「玄人」さん。一つのお席の定員が今回15名でしたので、総勢90名の茶道に精通した方々に、お抹茶一服と和菓子をお出しし、掛け軸やお花といったお茶室の設えを愉しんでいただきます。先輩方によると、こんなにも浅い経験でスタッフをできることはないそう。おおらかな先生と先輩方への感謝の気持ちがふくらみます。



 さて、そのような「お茶会デビュー」の日のお天気は嬉しいことに晴天。そして、足元にはたっぷりの雪が積もっておりました。前日に「春の雪」がふっていたのです。道中、雪かきをしてくださった方のいたおかげでなんとか草履をぬらさず、会場にたどり着くことができたほど。お茶室の前にも、一面の雪景色が広がります。青空のもとでみるその風景は、あまりに清らかでまるで非日常のようでした。雪に咲く梅からは、甘い香りがしたのです。


 いよいよ、お客様が席入りされます。この日最初のわたしの仕事は、和菓子をお出しすること。15名のお客様がずらりと並ぶ和室にお盆をもって入り、お一人お一人にとっていただきます。ぎこちないお辞儀に、「お一つずつお取りください。」の言葉。新米感丸出しです。それでも、お茶席に優雅に流れゆく時間が、大丈夫と励ましてくれているようでした。


 時折さらさらっと鳴るBGM。それは屋根からこぼれる雪が奏でていたものでした。さらに、回を重ねていくごとに変化していく雪景色の、陽射しが冬から春へと季節を押しゆく麗かさは、ずっと浸っていたいもので。


 そうこうしているうちに、先生がわたしに与えてくださった最大の山場がやってきます。「お点前(てまえ)」です。お茶の世界の先輩方に、新人のわたしがお抹茶を点てお出しするのです。実は、7ヶ月の間で練習をしたのはたったの三回!近くに先生や先輩がいらしてくださるものの、この時初めてお会いするお客様もいらっしゃいます。この機会をくださった先生に恥をかかせてはいけないという気持ちが大きくなったことは、言うまでもありません。まだ体で覚えていないお点前でしたが、手が止まった時には、後ろで声をかけてくださる先輩がいらしてくださいます。なんとか無事にお茶を二服お出しすることができました。


 ただよう安堵と充実感。これを胸に秘め、ふと窓の外に目をやると、雪はだいぶ消え、ほんのりお庭をおおう程度になっていました。刻々と春へと向かっていった雪景色に、雪上で香る梅、雪解けの音。そのどれもが、初めてのお茶会の「景色」として心に刻まれました。


 大切な日の景色。皆様のそれはどのようなものでしょうか。きっとどれもが美しさにあふれているのだろうなと想像します。



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