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《梅、やぼ.》

 三月三日の、ひな祭り。それにちなみ本日は、素敵な女性(ひと)のお話を。

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 梅があちこちでほころび始めた。甘い香りと、あめ玉のようなつぼみに、ふんわり咲くお花。この頃お散歩道でよく足を止めてしまうのは、それら全部のせいだった。

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 そのようなわけで、この日も梅の木の下にいた。まだ一分咲きの白梅の下に。「ほめると綺麗に咲くのよ。」の声がふいに聞こえてくる。同じ木を見上げていた女性が発したものだった。

 耳が喜ぶ朗らかな声色で「綺麗ね。こんなに綺麗なものをみられたこと感謝しなくちゃ。」と続ける彼女。なんて美しい方なのだろうと青空のもと、うっとりする。おかげでいつものお散歩は、麗かなお花見へと変わった。

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 そして「Good(グッド)!」と言ってくれたのは、祖母だった。身内をよく言うことは日本の文化にそぐわないけれど、Good(グッド)の言葉に免じてゆるしていただきたい。

 このおめでたい日が近づくと、食べたくなるちらし寿司。家族の料理担当を担うわたしは、はりきってこれをつくった。華やかというよりは、豪快なひと皿になってしまったが、美味しいねと祖母が言いながらお箸をすすめてくれたから甘くも合格ということにした。

 この美味しいね、の言葉は食事中よくかけてくれる。それに今日は「Good(グッド)!」が加わった。にんまりするわたしだ。

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 梅の木の下で出逢った女性も、祖母も上手だなと思う。見習いたいほめ方だ。周囲をぽっと明るくする。その上、口にした本人にもいいことが返ってくることに気づかされた。

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 ほめられた後には、梅もわたしもうんとその気になる。「綺麗にお花を咲かせよう。」と梅の木は思ってくれるかもしれないし、わたしは間違いなく「よし、もっと美味しいごはんをつくろう。」と意気込む。

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 だけど、わたしのような小粒の人間は、ついつい出し惜しみをしてしまうのだ。言いたいけれど、恥ずかしいからやめておこうなんて野暮(やぼ)なことが頭をよぎって。

 シンプルなほめ言葉を、朗らかに口に出す。今日から心がけてみようと秘かに想う、今年のひな祭りだ。

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