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《夢、団子.》

 穀雨(こくう)。

 春最後の時を迎えておりますね。寒い季節にはあれほど待ち侘びていた春も、いよいよ終わろうとしているのです。

 このような季節の変わり目。わたしはちょっぴり感傷的になるせいか、普段心に眠らせてしまっている感謝の気持ちをふいに目覚めさせたりすることもあるようで。


 ふりかえれば、この春はたくさんのお花見ができました。お花見というよりも、わたしたちの場合は、お団子ピクニックという方が正しいのかもしれませんが。



 二年前、車いすでの生活の始まった95歳の祖母。同じくして、彼女の家に転がり込んだのは母とわたしでした。

 この暮らしの始まった当初。祖母とのお花見はもうできないものとあきらめていました。

 子どもの頃、両手いっぱいに手作りのお弁当を抱えて、お花見の待ち合わせ場所に彼女がいつも立っていたことは何年経っても忘れられないこと。それでも今は、入り口に階段のあるわが家(祖母宅)から彼女が「出る」ことが考えられないことになってしまったのです。基本的な車いすの扱いにも慣れないわたしたちと、階段の上り下りをするなんて夢のまた夢。



 ところが、ある時から祖母の通院に「介護タクシー」を利用することになり、紆余曲折がありながらも(いわゆる「ぼったくり」に遭遇しながらも!)、良心的なお値段で、かつ安全に祖母と移動の叶うタクシー会社さんと出逢うことができました。

 そのご縁から通院もお任せするようになり、わたしたちに余裕ができ始めた頃からはついに「お出かけ」も実現するようになったのです。あの難関だった「階段」を巧みな技でひょいひょいと上り下りさせてくださるのです。


 そして、今年は早咲きの河津桜、ソメイヨシノ、締めくくりの八重桜まで数回にわたるお花見を堪能することができました。



 この母とわたしにとっては感動的!なお花見の感想を「花より団子でした。」とこぼした祖母ではありますが、それでも桜のもとで彼女を囲んで和菓子を食べられたことは甘い甘い春の想い出となりました。

 ちなみに、毎度のお花見のルーティンはこのような具合。

一、おまんじゅう屋さんでお買い物
二、桜探し
三、記念撮影
四、おやつタイム

 「このご家族、お花はいつ見るのかしら?」とあやしまれそうではありますが、母とわたしにとってはこれが大満足。

 桜餅、お団子、おまんじゅうを祖母は次々と平らげていったのです。その頭上を彩る桜はいつも見事で。

 何度も通ったおまんじゅう屋さんでは、今年最後のお花見の時、「おばあちゃんに♡」と明るい笑顔とともにおまんじゅうをおまけしてくれましたっけ。(ありがとうございます。)



 そして、まもなく迎える「立夏」。初夏のお花が咲き始める季節です。


 変わらず、祖母とお団子ピクニックがてら、ちらりとお花を見ることが愉しみになるわけですが、これを愉しみでいられるのもやはり、いつも変わらず美味しいお団子や、おまんじゅうを作ってくださるおまんじゅう屋さんがあり、誠実にお仕事をしてくださる介護タクシーの会社の方々がいらっしゃるから。

 おまんじゅうを一身にほおばる究極に可愛い祖母の横顔と、この瞬間を現実のものにしてくださる方々への感謝の気持ちは、わたしにとっては春爛漫の景色そのもの。目覚めさせては、ひとりうっとりしてしまうようなそれなのです。





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