日本は、アメリカを頼り続けて大丈夫なの?

真の経済力は「エンジニア」で測られる

そもそも西側諸国の経済力を過大評価する一方で、ロシア経済の耐久力を過小評価してはいるのは、今日の経済分析があまりに具体性を欠いているからです。
各国の経済力を測るには、農業部門、工業製品、サービスの付加価値を集計した国内総生産(GDP)を比較するのが通例ですが、たとえば、アメリカの弁護士の熱心な活動が数字上は膨大な付加価値を生み出しているように、そこにはまったく「生産的」ではなく、文字通り「虚構」と言えるようなサービスもかなり含まれています。
ロシアの経済力は、こうした指標(GDP)で測れば、韓国と同程度となります。
しかし、もしロシアの経済力がその程度だとすれば、ロシアはどうやってアメリカと軍事的に対峙できているのでしょうか。クリミア占領後の欧米の制裁に耐えたのでしょうか。それどころか、その後穀物と原発の輸出大国になり得たのはなぜでしょうか。
欧米のシステムから自立したインターネット網や銀行システムをどうして作れたのでしょうか。S-400地対空ミサイルシステムや超音速ミサイルの開発など、ある分野ではアメリカを凌駕出来たのはなぜでしょうか。
これらは全て「謎」なのでしょうか。
経済力を抽象的に捉えるのではなく、労働人口の教育水準といった経済力の具体的な中身を見れば、何の不思議もありません。
現在、ロシアの中等教育システムの水準は、アメリカのそれよりも高いと思われます。そして特に、アメリカとは違ってロシアでは、多くの若者がエンジニアとしてのキャリアを志向していることが重要です。
2019年のOECDの調査によれば、高等教育の学位取得者のうちエンジニアが占める割合は、アメリカが7.2%なのに対してロシアは23.4%です。(日本は18.5%、韓国は20.5%、ドイツは24.2%、イギリスは8.9%)。
この「エンジニア不足」をアメリカは、他国からの”輸入”で補っているわけですが、問題は、そのエンジニアの多くが中国人である事です。
ここに未来予測を可能にするような手掛かりが存在します。
「アジアからアメリカへのエンジニアの流入は今後も続くのか」という疑いが生じてくるのです。
第一に、インド出身のコンピュータ技術者はあまり問題ないにしても、中国人エンジニアの流入を大量に受け入れることに、安全保障上の問題は無いのでしょうか。
第二に、東アジア諸国が急速な少子化に直面している以上、アメリカは、これまでのようにはアジア系移民を当てにできなくなるのではないでしょうか。
ここでもし、アメリカの経済力を「ドル」ではなく「エンジニア」で測るとすれば、グローバルなサプライチェーンの崩壊ーーこの戦争が引き起こしている「脱グローバル化」ーーに、アメリカは対応できるかが問われてきます。
そしてもし、ロシアの経済力を「ルーブル」ではなく「エンジニア」で測るとすれば、、2014年からの制裁に耐えられたように、2022年の西側による制裁もロシアは耐えられるのではないか、と考えられるのです。
断言はできませんが、科学的厳密さをもって、私達は次のように問わなければなりません。「経済の真の柔軟性」とは、銀行システムや金融商品を開発する能力にではなく、生産活動の再編成を可能にする様なエンジニア、技術者、熟練労働者にこそ存しているのではないか、と。

今、問われるべきは、アメリカ経済の真の経済力

アメリカはウクライナに400億ドル(約5兆円)もの資金を援助する一方で、ベビー用粉ミルクが不足し、急遽スイスやオランダから輸入する必要がある、と「ニューヨークタイムズ」紙が報じています。「貨幣を配ること」と「実際の商品を配ること」は同じではないのです。
アメリカは、勇敢なウクライナ兵と優れたアメリカの武器でロシアを追い詰めようとし、ロシアを延久に弱体化させることを目的にこの戦争を長引かせるために、ウクライナに膨大な貨幣を供給しています。
しかし、ここには大きなリスクがあります。アメリカ産業の脆弱さと中国製品への依存は、もう一つの可能性を示唆しているからです。
中国には、戦争が長期化する中で、ロシアを利用してアメリカの武器備蓄を枯渇させることで、アメリカの弱体化を図るという選択肢が残されています。巨大な生産能力を持つ中国からすると、ロシアに軍需品を供給するだけで、アメリカを疲弊させることが出来るのです。

以上、第三次世界大戦はもう始まっている」エマニュエル・トッド より

この本を読んで、「日本は今のままのやり方でよいのだろうか?」という疑問が消えません。少なくとも、日本が生き残る為には何か手を打つべきという気がします。それが何なのか、今の政治家は考えて欲しい気がします。