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なぜカルロス・ゴーン氏の報酬は高いのか?

年末年始のビジネス系の話題は、カルロス・ゴーン氏の日本脱出・レバノンへの渡航で一色という感じでしたね。

そもそも保釈中の人物が国外に脱出するというのも映画さながらで異例な事態ですし、日本の司法制度に対する是非なども取り沙汰されており、先日はゴーン氏がレバノンで会見を開くなど、話題には事欠きません。

本件に関しては色々なソースから様々な情報が出ていますし、私はそれ以上に詳細な事実関係を知っているわけではないで、このnoteでは本件の善悪には踏み込みません。

一方で、そもそも一連の出来事の発端となったのは2018年に発覚したゴーン氏がCEOを務めていた日産自動車の役員報酬の有価証券報告書への虚偽記載(過少申告)であり、事件が発覚した当初は、「こんなに報酬をもらっているのになぜそんなことを…?」という声が多かったように記憶しています。

そもそもゴーン氏は日産という世界的な大企業のトップだったわけで、仮に報酬が10億円でも20億円でも世界的な水準からすれば高くないという話もあるのですが(アップルのティム・クックの昨年の報酬は135億円とのこと)、一般の従業員と比べた場合に絶対額として大きい金額であることは確かです。

では、なぜゴーン氏のような大企業の経営者の高い報酬は正当化されるのでしょうか?

以下、私がスタンフォード大学MBA留学中に人事(Human Resources)とミクロ経済学が混ざった授業で学んだことを基に説明します。

高い利益を上げているから?

一つの考え方として、「それだけ会社が儲けているから」という考え方がありえます。確かに、日産自動車は毎年何千億円も利益を出しており、それだけ利益が出ているなら経営者に数十億円の報酬を支払っても問題ないようにも思えます。また、実際にコーポレート・ガバナンスの利かせ方として役員報酬と業績を連動させた仕組みを導入している企業も増えているかとは思います。ただし、赤字の企業でも経営者が高い報酬を得ているケースは山のようにありますし、大企業がリストラを行うというニュースでも「経営陣が高い報酬を得ているのに!」と批判されることはよくあります。要するに、会社の利益と経営者の報酬はもちろん関係はありますが、それで報酬の高さが正当化されるわけではありません。

報酬が高くなる理由

では、なぜ経営者の報酬は高くなるのか。答えは簡単な数式で説明できます。

ある企業に高スキル労働者(A)と低スキル労働者(B)がいたとして、高スキル労働者(A)は一時間当たり6個の製品を作ることができるとします。これに対し、低スキル労働者は一時間当たり4個の製品しか作れないとします(製品の質は一定と仮定)。ここで、高スキル労働者の給料が一時間2,000円、低スキル労働者の給料が一時間当たり1,000円だったとすると、製品1個当たりにかかるコストは、

高スキル労働者(A):2,000 ÷ 6 = 333円
低スキル労働者(B):1,000 ÷ 4 = 250円

となり低スキル労働者(B)の方が企業にとってお得ということになります。
(Aの方がスキルは高いのですが、給料がBの2倍なので、製品1個あたりでみるとBの方がお得ということです)

ここで、この製品を作るのに一時間当たり10,000円のコストがかかる機械が必要だとします。すると、製品1個当たりにかかるコストは、

高スキル労働者(A):(2,000+10,000) ÷ 6 = 2,000円
低スキル労働者(B):(1,000+10,000) ÷ 4 = 2,750円

となるので、AとBの立場が逆転し、今度はAの高スキル労働者を雇う方が企業にとってメリットがあるということになります。

より一般化すると…

この話の帰結は、製品を生産したりサービスを提供するのに多くの資本や設備投資を必要とする業界(上の例では、一時間10,000円の機械)では、生産性の高い人材を使うメリットが増すので、そのような人材にはより多くの給料を出すことが合理的になるということです。この顕著な例が飛行機のパイロットで、飛行機という非常に高価なものを2名程度で乗り回しているので、パイロットに高い給料を払うことが正当化されることになります。

さらにいえば、世の中で資産・資本に対して大きな責任を負っている職業として代表的なものが大企業のCEOなので(CEOは自社の資産をいかに効率よく使って利益を上げるかを考える必要があるため)、CEOの報酬が高いのは合理的で、たとえ能力の差がわずかでも大きな報酬の違いが出てくることになります(上の例でいえば、高スキル労働者は低スキル労働者の1.5倍の生産性しかないのに、2倍の給料を払ってもペイします)。これは、CEO以外でも、大きなチームを率いるマネージャーでもレベル感が違うだけで同様のことが言えます。ただ、単純に大きな資産・資本を扱う業務を担当しているというよりは、その資産・資本に与える裁量が大きいことが重要なので(裁量がなければ誰がやってもアウトプットがあまり変わらないと思うので)、例えば大きな設備を備えた工場長でも、実質的な権限があまりない場合は、それが報酬に反映されない場合もあると思います。

ちなみに、私がMBAで学んだ10年前の話で、かつ当時のデータとしても結構古い引用だった記憶があるので現在はどうかわかりませんが、企業の規模とCEOの報酬のデータを取っていくと、企業規模が1%大きくなる毎にCEOの報酬が0.3%程度増えるというのが経験則としてみられるようです。

上記は大きな資産を抱える大企業の話なので、アセットライトなベンチャー企業は当てはまらないかもしれません。ベンチャー企業は人材や技術力などバランスシートに表れない重要な資産も考慮すると必ずしも資産が小さいとは言えないかもしれませんが、日産のようなグローバルで10万人以上の従業員を抱える大企業と比べると規模としてはやはり小さいですし、個々人の能力に負う側面も強いので、実際上も大企業ほどの顕著な差はないと思います。

会社や組織に入ることを「同じ船に乗る」ということがありますが、船の大きさが大きければ大きいほど(多くの人を乗せたり扱う荷物が重要・貴重なものになればなるほど)、それをハンドリングする船長にかかる責任が大きくなり、船長が間違えると多くの人が路頭に迷う結果になります。

大きな資産にレバレッジをかけてより大きな成果を生み出すため、ゴーン氏のようなグローバル大企業の経営者の報酬が高くなるのは、上記の観点からすると合理的なことということになります。

上記はあくまでも単純化した机上の話で、ゴーン氏は成果を出しながらもお金にまつわる問題で良くも悪くも今の事態になっているわけですので、実際の経営に当てはめる場合は様々なステークホルダーへの影響を考慮する必要があることはいうまでもありません。

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コメント4件

とても分かりやすいです。設備投資などの固定資産規模が大きい製造業では顕著ですね。金融業や不動産業等、流動資産規模が大きい会社もその傾向がありそうですね。次回作も楽しみにしています。
ありがとうございます!!
自分が十代の頃には既に、世界的企業の経営者は一億ドル超の報酬を得る、が珍しくなかった。
なので、たった一千万ドル超程度の報酬でケチが付く、という事に、困惑。
(團琢磨や益田孝も困惑しただろう)
確かに世界的な視点で考えるとマネーサプライは増え続けているので、その観点で考えるとまた違った視点が得られますね。
ただ当時のSARの設計を見ると、もう少しガバナンスのやり方、報酬制度の設計はあったようにも感じます。これを教訓に日本企業の経営が良い方向に向かうと良いですね。
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