見出し画像

「みんなの学校」から「みんなの社会」へ 株式会社 クリックネット 代表取締役/ライター 丸山剛さん

web制作の会社を経営する傍ら、「みんなの学校 みんなの社会」を主宰し、一人ひとりが自分を変えるきっかけとなる場づくりを実践されている丸山剛さんにお話を伺いました。

丸山剛さんプロフィール

愛知県出身。慶応義塾大学文学部卒業。株式会社クリックネット代表取締役。
ライターとして教育、キャリア分野を中心に、取材・執筆などを行う。
2016年4月より2年間、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科に在籍し、インクルーシブ教育および共生社会をテーマに研究を行う。
木村泰子さんとの対話勉強会「みんなの学校 みんなの社会」を主宰。
『不登校ゼロ、モンスターペアレンツゼロの小学校が育てる 21世紀を生きる力』(木村泰子・出口汪共著、水王舎、2016年)、『「みんなの学校」から「みんなの社会」へ』(尾木直樹、木村泰子、岩波書店、2019年)の企画・構成を担当。

寛容になれる社会」をつくること

Q.  どんな夢やVISONを描いていますか?

丸山剛さん(以下、敬称略)私は大学生までは、日本に対する誇りがものすごくありました。高校の時にアメリカのカリフォルニア州へ1年留学したんですが、バブル崩壊のすぐ後でバブル全盛期は経験してませんが、それでも「日本人です」と言うと、行く先々で「ソニー!トヨタ!」と叫ばれ、日本人というだけで褒め称えてくれたんです。
今は中国に変わってしまいましたが、当時ロサンゼルスのガイドさんから「この一帯はすべて日本人のビルですよ」と紹介され、「世界第2位の日本」に対するインパクトがすごく大きかった。1位はアメリカですが、なぜこんなに小さな島国が世界の第2位なんだ!と、日本人に生まれて良かったという誇りしかなかったんです。

社会に出てもしばらくはその思いがありましたが、今はそういう気持ちに全くなれないですね。毎日いろんなニュースがありますが、今の日本社会に対して納得できていないんです。今の日本は理想ではないなと思っています。

でもそこを「変えたい」というのは叫びたくなくて、静かにやりたいんです。運動ではなく、行動をしたいと思っています。
一人ひとりが自分を変えることによって、いつの間にか人が集まって、社会が変わっていく。社会が変わることとは、一人一人が変わっていった総和です。

だから「自分自身を変えること」を1回考えてみようよっていうのを問いかけていきたい。考えるというのは一人で考えるのではなくて、対話をする中で考えていくこと。そういう対話する場所をたくさんつくりたいですね。

対話する場所として、みんなで手作りして食卓を囲む「SHOKUTAKU」という活動もしています。あえて対話をする場所をつくる。あえて考える。「あえて」はすごく大事だと思っています。

記者:意図的に習慣化していくことを心掛けていらっしゃるんですね。では丸山さんが思う、理想の社会や理想の未来とは何でしょうか?

丸山:理想の未来は「争いがない世界」です。「争い」をどう定義するかにもよるけれど、今の社会は小さいものから大きいものまで、争いばかりですね。争いを起こさないためにはどうしたらいいのか?
今の時代は効率化ばかりで一人一人の余裕がなく、不寛容な社会になっています。しかし自分事として自分がされて嫌なことは人にしない。人に対して寛容になれる社会をつくることです。

「哲学すること」から始めないといけない

Q.  夢の実現のために計画はありますか?

丸山:あまり計画を立てないんです。「今」に集中したいと思っています。今、出会ったものを大切にしたい。一つ動くことで、次に繋がるステップが必ずある。自分が正しいと思うものを信じてやるしかない。

争いがない世界をつくるには、対話を重ねていくしかないと思っています。「戦争」の反対は「対話」、「平和」の反対は「混沌」です。
人を変える特効薬はないし、人は自分だけでは変われないから、人と関わって対話をしていかないと変わる材料もありません。

学校でも「哲学対話」を取り入れるところが増えているようです。「友情って何だろう」「愛とは何だろう」というテーマをあえて考えてみる。対話することで、普段知ることのできない周りの人の考えや価値観を知ることができます。この場所だったら安心して語っていいんだよと土俵をつくってあげるんです。私はこういう対話の場を重ねてきました。

記者:そうだったんですね。丸山さんは何か哲学をお持ちだろうと思っていたんです。ぜひ丸山さんの哲学をお聞かせ頂きたいと思います。

丸山:全ての源は考えること、つまり哲学することから始まると思います。でも、自分で考えることは実はとても難しい。自分で考えたものではなく、乗っかっちゃってるだけということが多いような気がしています。

映画『みんなの学校』を観て、子どもたちは考えているなと思いました。毎日課題が起きていて、みんなが考える。リアルな人間関係から生まれる究極的なアクティブラーニングだなと思いました。

記者:特別な何かをするのではなくて、日常の課題を題材に、全体の質を高めていく人間教育ですね。

丸山:そうです。「哲学すること」から始めないといけない。それが「対話」と置きかえられるのかもしれない。対話をすることで、「今の話を聞いて思ったんですけど」と人から学ぶようになるんです。相手の状況を知り、リフレクション(内省)する。

記者:とても大事なことですね。『みんなの学校』を観て、感動した方やいいと思った方はたくさんいらっしゃると思いますが、何が価値があるのかをわかりやすく定義することが重要だと思います。

丸山:そういう意味では、自分は教育に対して関心があると思っていたけれど、教育に対してはそんなに関心がないな。人の考え、人間に関心があるんだなということに気付きました。

昔は教育手法とかやり方に興味があったんですが、今はそれは本人が決めればいいと思っています。子ども達が自分で好きなものを選ぶ力を育てていくことが大事だと思っています。
手法ややり方の前に「教育とは何か」を定義し直すことが今は必要だと思います。

Q.  では今、一番必要な力とはどんな力だと思いますか?

丸山:私たちはこれまでの人たちが経験したことのないスピードで変化する社会に生きています。
そこで必要なのは、「何が美しいかを判断できる価値基準を持てること」と「自分なりに定義する力」だと思います。
「哲学」と「美学」ですね。何を美しいと感じるか。その中で多様性を持ち、自分なりに定義できる力です。

「哲学」と「美学」を持っているということは、「自分の考え」を持っているということです。人から与えられるものではなく、幸せを感じられる人が幸せです。だから自分主体ですよね。自分から獲得する。「自分を自ら変化していく力」が必要だと思います。

「学び合う関係性」づくり

Q.  他にはどんな実践や取組みをされていますか?

丸山:周りの人がいないと人は一人では変化できない。理想は「学び合う関係性」です。学びあえてお互いを認めあえる関係性をつくることをやっています。目の前の人との対話に集中した時に、進化や変化のきっかけが生まれます。
私もそれを実感しているのが「SHOKUTAKU」の活動です。対話を通して、ここに座っていた人とそこに座っていた人が繋がって、新しい何かを始めるんですよ。偶然性のある創発です。そこで得たつながりが原動力になります。

一緒に変わる仲間を見つけること。「学び」と「仲間」というのは同じタイミングで必要で、行動に繋げるには「学び」と「仲間」がいないとできない。

「社会と繋がった」という実感

Q. 夢を持つようになったきっかけは何ですか?そこにどんな気付きや発見があったのですか?

丸山:仕事はウェブサイトの構築をやっていますが、会社を創って10年間は会社にしか目が向いてなかった人間なんです。仕事とプライベートをきっちり分けて、線を引いていたんです。会社人間ではないですが、ソーシャル的な繋がりがなかった。「自分とお客様」との世界で生きてきて、社会に踏み込んでいなかったんです。

CSRやCSVといった社会貢献を意識した時に、大学からの取引が多いので、大学から仕事を頂くということは学費からお金を頂いているということなので、学生さんに対して何か貢献できないかなと考えるようになりました。
そこでインターンシップならできるのではと考えたんです。一緒にメディアをつくり、記事をつくって情報発信をしていきました。

自分にとっては、本当にそこから社会と繋がったという実感があります。「社会の中で生きているんだ」という気付き。社会との接点を持てたことが大きなきっかけになり、生き方のイメージが変わりました。

学生と一緒に記事をつくるので、社会にどんなネタがあるかを見るようになったり、企業へ取材に行くので会社の取組みやサービスをたくさん見たり、本当にそこから社会との繋がりが増えました。

はじめは上から目線で、学生に対して何か支援をしようという「Give & Give」の姿勢で始めたんですが、逆に自分が一番学べて成長できて、気付いたら「Win-Win」になっていました。

それから社会と関わる欲求が高まってきて、いかにたくさんの社会人と学生を繋げるかということを考えてました。

仕事以外で繋がりを持てなかった自分が、学生と一緒にメディアをつくることを通して人との出会いが増えて、人と人が繋がることで社会課題に一緒に取り組み、解決に繋がっていく「サードプレイス」というキーワードがしっくりくるようになりました。自分にとっても学生にとっても、家と、仕事や学校と、もう一つの場「サードプレイス」をつくっているんだなと気付きました。

映画『みんなの学校』との出会い

丸山:私はそれまで大学という教育現場しか見ていませんでした。社会にはもっと色んな悩みを持っている人達がいるはず。そんな人達とどうやってWin-Winの関係をつくっていくかということを考えるようになりました。

大学だけをみていても社会をみていることにならないなと感じていた時に、知人から「『みんなの学校』を観てください」とLINEを1本もらったんです。

それが2015年頃。その最初に観た衝撃がすごくて、なぜか涙が止まらなかったんです。1回目はただただ感動で終わって映画を消費してしまった感じです。あまりに衝撃が大きくて、パンフレットを買ったり本を読んだりしました。

2回目に観た時は、一人ひとりの子どもたちに目が行ったんです。ここには今、我々が学べることがいっぱいあったんです。モデルでもないし理想でもない、日常のそのままがひとつの学びになった。学びは追究していくものなので終わりがないですが、「あれが学びになった」という表現が一番しっくりきます。

それから『みんなの学校』をいろんな人に観てほしい。これをどう広めたらいいかということに関心がいきました。

前から本を書いてみたいと思っていたので、2016年に『不登校ゼロ、モンスターペアレンツゼロの小学校が育てる 21世紀を生きる力』(木村泰子・出口汪共著、水王舎)の本の企画を提案したところ、出版社に共感してもらえて出版できました。

もっと学びを深めるにはどうしたらいいかと考えた時に、木村先生には講演ではなく授業をしてほしいと思ったんです。木村先生を少人数で囲んで対話をするという場をさせてもらいました。

それも木村先生との1対1の学びではなく、周りの20人から学べることが大きい。その時に感じたのは、大空小学校の生徒は全員から学んでいたんだろうなと気付いたんです。
いろんな人がいた方が多様性を学べる。多様な違いを工夫して乗り越えようとする。小学校のうちから体験している子どもたちは幸せだなと思いました。周りの人達との対話から学ぶ。これが学びなんだなと思いました。

「学校の先生でもないのに、なぜ『みんなの学校』に興味を持つの?」とよく聞かれるのですが、これは学校の中だけの話ではないと思っています。
あんなに小さな子どもたちですら学んでいる。自分も変わりたいな。変われたら楽しいだろうなという気持ちに行き着いたんです。

それからは自分の行動が変わってきました。会社を創ってようやく17年経ったんですが、会社を長く続けることは難しいなということもあります。
それまでは社員に対しても「何でできないの?何でこうするの?」って思うこともよくあったんですが、全く意味のない言葉だったと気付きました。どうやったら伝わるかまで考えが及んでいなかった。「何でわからないの?」ではなく「どうしたらわかるように伝わるの?」に変える。それがコミュニケーションだと気付きました。

社会と一緒に幸せを創っていく

Q. 丸山さんは社会との繫がりに気付き、社会というものをとても大切にされていますが、その背景には何があるんでしょうか?

丸山:私が小学6年生の頃に見た新聞記事で、たしか五木寛之さんだったと思いますが、「人間は一生ストレスや悲しみから逃れられない。自分だけが幸せになることはありえない」という内容のコラムを見て、その言葉が強烈に残っているんです。

それ以来、「人は一人では生きていけない。周りの環境に影響を受けているし、影響を与えている。自分だけの幸せはありえないんだ」ということをずっと思ってきました。だから社会と一緒に幸せを創っていかないといけない。それが今の行動に繋がっています。

自分のことでいうと、会社も創って17年やってきてある程度幸せですが、社会をみると、自殺や殺人…悲しいニュースを見て、朝から気持ちがざわつくこともあります。そういう気持ちになるっていうことは、自分だけでは幸せになれないということです。

自分の中に、社会は決していい方向へ行っていないという、危機感があるんです。「みんなの学校」から「みんなの社会」へ。これが永遠のテーマです。今はこれで動かされています。

「みんなの社会」とは何か?「すべての人の幸せを保証するのがみんなの社会」です。今は「社会とは何か。幸せとは何か」を定義できてない。どう定義できるのかが重要だと思います。

社会を変えたいと思っても他人任せでは変わりません。
しかし自分の観方が変わるだけで相手や社会は変わります。どっちが先に変わるかです。まずは自分を変えること。自分が変わると一緒にいる周りもみんな変わりますよ。

記者:本当にそうですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

*********************************************

▼丸山剛さんの情報はこちら

【編集後記】
今回インタビューを担当した塚﨑、松岡、川口です。
丸山さんは、以前インタビューさせて頂いた『みんなの学校』の木村泰子さんに「美しい時代を創る人達」にピッタリだとご紹介いただきました。
丸山さんはご自分の哲学と美学をお持ちで、ひとつひとつの言葉の奥にとても熱い情熱と人間への愛や優しさを感じました。常に意識して自らの変化を実践されている姿勢は本当に素晴らしいなと感じました。
自分が社会を変えていく主体であるということを改めて実感しました。これからも一緒に、みんなの社会に取り組んでいきたいと思います。ありがとうございました。

*********************************************


▼映画『みんなの学校』 大阪市立大空小学校 初代校長 木村泰子さんのインタビュー記事もぜひご覧ください。

*********************************************

こちらの記事は、リライズ・ニュースマガジン “美しい時代を創る人達” にも掲載されています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?