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「よく見つけてくれたよ。じゃなかったら15人じゃなく、115人はやってたかもな」。ロンドンの連続殺人犯デニス・ニルセンの素顔に迫る、事実に基づいたドラマが秀逸。

※こちらの記事はTVレビューであり、事件の全貌を追うものではありません。また、実際に起こった殺人事件の再現ドラマに関する記載であることから、気分を害する描写が含まれている可能性があります。

※ドラマの内容を追っているので、ネタバレ(?)あります。


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デニス・ニルセンを怪演したスコットランド人俳優デビット・テナント。イギリスの超人気ドラマ『Dr.Who』でドクターを務めた(2005–2010)。

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英ITVで9月14日から3夜連続で放送された『Des』が素晴らしかった。 1978~83年、12人の若い男性を殺害し、死体を遺棄した連続殺人犯デニス・ニルセン(Dennis Nilsen、通称Des、デズ)を描いた、事実に基づいた再現ドラマだ (第1話の視聴者数はまさに590万人を越したと)。


1983年、ロンドン北部マズウェル・ヒルの住宅、下水パイプから人のものと思われる骨が見つかった。駆け付けた捜査官ピーター・ジェイ(ダニエル・メイズ)は、事情を聴くため、この建物の上階に住む男の帰りを待つことにする。

ここに住むのはデニス・ニルセン、ケンティッシュ・タウンのジョブセンター(職業安定所)で働く公務員だ。彼は突然の警察の訪問に驚く様子を見せることもなく、自分のアパート内に招き入れる。

ドアを開けた途端に部屋から放たれる異臭。ここに死体があるのは間違いないと判断したピーターは、家宅捜査を始める。そして予想通り、男性のバラバラ死体が見つかった。

そのまま重要参考人として、警察に連行される車中。

捜査官「一人なのか?それとも二人か?」

デズ「おそらく15人、16人だったかな」。

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デビット・テナント(左)とデニス・ニルセン本人。同じくスコットランド人と言うこともあり、その訛りから発せられる数々の陰惨な証言を淡々と語るその怪演ぶりには、不気味さすら感じる。

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デズの供述通り、彼のマズウェル・ヒルのアパート内と庭、そして以前住んでいた、キルバーンのメルローズ・アヴェニューの庭からは、バラバラになった人骨が次々と発見される。

捜査官ピーターは、この時期に行方不明になった男性たちのリストをもとに、被害者の身元確認を急ぐ。しかし、複数の人骨がバラバラに埋められていたこと、死後時間がたっていることなどから、ここから身元を割り出すのは難しい。デズ本人が被害者の名前を思い出す必要がある。度重なる面会の後、デズは最後の犠牲者をフル・ネームで思い出し、遺体の指紋が合致したことを受け、警察は殺人事件へと捜査を切り替える。

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捜査官ピーター・ジェイ(ダニエル・メイズ、中央)と、デニス・ニルセン(デビット・テナント、右)


捜査に関する質問に、淡々と答えるデズ。ロンドンのソーホーやキング・スクロスのバーやパブで出会った男性たちを連れ帰り、酒を飲ませて殺害、を繰り返していた。犠牲になったのは、ホームレスやドラッグ中毒、またはうつ気味の男性たちで、世間的に弱い立場である人達だった。黙秘権があることを告げる刑事弁護人のサポートを嫌い、その場で弁護人を解雇。しかし、捜査の質疑応答はさながら、デズの独壇場の雰囲気を見せる。会話は常にイニシアティブをとり、本当のことを話しているのか、ほかに隠していることはないのか、捜査には協力的と思わせながらも、意図して何らかの混乱を招いているように感じる。

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一方、もう一人、デズに興味を持ち、接近していった人物がいた。ライターのブライアン・マスターズだ。

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事件をニュースで知った、ライターのブライアン・マスターズ(ジェイソン・ワトキンス)は、デズの伝記を書くため、話を訊きに、ブリクストン刑務所に拘留中のデズに面会する。


自分の「伝記」ということで、デズは大いに興味を持つ。しかし、面会を続けるブライアンを巧みにコントロールし、デズはその内容をドラマに仕立て上げようとする。ある日、デズは自作の「エクササイズ・ノート」をブライアンに渡す。そこには、ページいっぱいに、殺害の方法や死体の様子が図入りで説明してあった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――警察は、行方不明者の捜索願などから、被害者の特定を急ぐがなかなか進まない。そして、7人目の身元が判明した時点で、これまでかかった膨大な時間と資金が問題となり、上層部から捜査打ち切りの指令がでる。残された家族のために、どうしても、犠牲者全員の身元判明を遂げたいピーター達だっが、7人の殺害に関する容疑で起訴となる。

そして裁判当日。デズは、直前になって自分に弁護士をつけることを主張。法廷に立ったデズは、驚いたことに、すべての容疑に関して、「Not Guilty(無罪)」を主張したのだ。

崩れ落ちる検察側。驚きを隠せないブライアン。裁判は予想もしなかった展開にもつれ込む。

様々な重要参考人の証人喚問が続く。争点は、デズの責任能力を問えるかどうか。弁護側は心神喪失とメンタル・イルネスを理由にmanslauter (過失致死)を主張。しかし過失致死での有罪となると、禁固刑はたったの15年。その後再び塀の外に出るなんてあり得ない。どうしても、murder (殺人罪)での有罪判決をもたらしたい検察側。殺人罪の場合は終身刑となる。


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始終無表情のまま、証人喚問を見守る。ネクタイを持っていなかったので、直前に面会に訪れたブライアンに借りた。「いや20本ほどあったネクタイは全部絞殺に使っちゃったもんだから押収されたんだよね」。殺害方法は、ネクタイやヘッドホンのコードを使っての絞殺か、バスタブに沈めての溺死。

検察側は、様々な被害者を法廷に呼ぶが、被害者自体が心に傷を負っており、喚問がうまくすすまない。

殺されかけたにも関わらず、その後2日もデズと一緒に過ごした男性は言った。「混乱していたんだ。溺れさせられた後、部屋を暖めてくれ、ベッドを使わせてくれた」。その行動には謎が多く、陪審員たちも当惑し、なかなか判決に至らない。

しかし、遂に、陪審員たちは起訴されたすべての殺人罪と、殺人未遂罪で有罪判決とし、デズは終身刑を言い渡された。

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ブライアン・マスターズ本人。裁判まで8か月、週に少なくとも3回はデズに面会し、話を訊いた。デズがブライアンに渡した「エクササイズ・ブック」は50冊以上にも及び、その中には政治や文学、自身の子供時代や軍役時代のことが、事細かにかかれていた。そしてブライアンは『Killing for Company』という本を完成させる。「company」=仲間、友人。デズは殺害の後、死体を洗い、服を着せ、一緒にテレビを観たり、時には話しかけたりしていた。仲間に去って欲しくなかった、だから殺して一緒に時を過ごした、と。

有罪判決の後、独房に連れられていくデズはピーターに言った。「よく見つけてくれたよ。じゃなかったら15人じゃなく、115人はやってたかもな」。下水管の詰まりを大家に報告したのはデズ本人だった。実際の犠牲者数だが、デズが捜査を乱そうとしたのか、15人ではなく12人だと言われている。しかし、捜査が打ち切られた今、それが何人で、誰だったのかはもう知る由もない。


その後-----------------------------------------------------------------------------

デニス・ニルセンは、2018年5月肺塞栓症からくる後腹膜出血で死亡。

捜査の指揮を執ったピーター・ジェイ刑事主査は、判決後2年で警察を退職。2018年にガンで亡くなった。

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左がピーター・ジェイ刑事主査本人。右が演じたダニエル・メイズ。


そして、ライターである、ブライアン・マスターズは、『Killing for Company』を書きあげたあとも、10年にわたり、デニス・ニルセンとの面会を続けた。出版された本を前に、それでもブライアンをコントロールしようとするデズ。ブライアンは言った。「This book isn’t a celebration, it’s a warning. (これは、祝辞ではないんだよ。警告なんだよ)」。

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デニス・ニルセンを演じる、デビット・テナントのぞっとする表情が今でも頭に焼きついている。いまさらながら、この才能ある英俳優に感嘆の意を漏らさずにはいられない。

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直前に「Staged」を観たからか、そのギャップが大きすぎた。


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ジェイソン・アトキンスは英TVドラマ界では最高の名脇役。BBCの「W1A」やヒュー・グラントがジェレミー・ソープ役でこれまた素晴らしかった「A Very English Scandal」にも出演。少し性格の悪い役が多いかも。



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