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20年の月日を経て解決した連続殺人事件。その裏には巡査官の粘り強い捜査と被害者家族への追悼の意が込められていた。事実に基づいたドラマ『ペンブロークシャー・殺人事件』


2011年5月、ジョン・クーパーは、4人の殺人罪、ティーネージャー5人に対する暴行レイプ罪、数々の窃盗・強盗罪で終身刑を言い渡された。

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先日英ITVで3夜連続で放送された、『The Pembrokeshire Murders』。未解決事件の再捜査に立ち向かう警視スティーブ・ウィルキンスとそのチームが、20年の時を経て、どのように証拠を再調査し、情報収集を重ねて犯人を正義の矢面に立たせたかを描いた、事実に基づいた再現ドラマだ。初回の視聴者数は630万人、最終回は700万人がその行方を見守った。

筆者はイギリスに住んでいながら、これらの事件解決に関しての知識がなかったため、今回のドラマを興味深く視聴した。この記事は、筆者がこの再現ドラマから学んだ出来事をできるだけ忠実にまとめてみたものである。殺人事件や強姦事件に関する記述があることを、あらかじめここに記しておく。

【ネタバレあり】


ITVドラマ『The Pembrokeshire Murders』のオフィシャル・トレイラー

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2006年。ロンドン警視庁での任務を終え、刑事巡査長としてウェールズへ戻って来たスティーブ・ウィルキンス(ルーク・エヴァンス)は、たまたま地元のTVニュース番組で、ペンブロークシャーで起こった未解決殺人事件について知る。それは、1989年夏、オックスフォードシャーからホリデーで訪れていたピーター&グェンダ・ディクソン夫妻が散歩の途中で殺害され、死体が藪の中から見つかった、という殺人事件だった。犯人がまだ捕まっていない、という事実に疑問を抱いたスティーブは、この事件を再調査し始める。まずは、当時捜査を担当した巡査長(既に引退)に話を訊きに行く。ウィルキンス夫妻殺害捜査は「ハンスマン」というコードネームのもとで行われ、そこから、警察は行方不明者の捜索依頼を受けて二人の遺体を発見するも、死後6日経っていたこと、夫のピーターの財布と結婚指輪が盗まれていたこと、そして妻は強姦されていたことが分かった。また、被害者が殺害されてから4日後に、とある宝石店へ金の指輪を持ち込み、現金化した男がおり、この指輪が、盗まれたピーター・ディクソンの結婚指輪と酷似、そしてレシートには「J・クーパー」という署名があった事も判明した。これについては、当時の担当巡査が、この署名の主であった、ジョン・クーパーを尋問したが、指輪はクーパー自身の持ち物であり、それはジョン・クーパーの妻も認めている、との結論だった。しかし、巡査部長はこう告白した。「尋問を担当した巡査はクーパーの飲み友達であり、クーパーとは長年の知り合いだったということが、捜査終了後に判明した」と。そして同時に、マスコミは、容疑者を特定できなかったことに対して、警察を"機能不全な組織"だ、と叩いたのだった。

その後、クーパーは窃盗や強盗、暴行事件などを繰り返し、1996年に16年の禁固刑を言い渡され、ウェールズの刑務所に収監されていた。しかし、前述の殺人事件に関しては、証拠不十分により、起訴されることはなかった。

スティーブとその同僚たちは、まず、「ハンスマン」で集められた、全ての証拠物の再検査を始める。手袋や覆面マスク、ロープやショットガンなどをだ。しかし、ここで、スティーブは、もう一つの未解決事件があったことを知らされる。ディクソン夫妻が殺害された1989年から遡ること4年、1985年12月、富豪兄妹のリチャード&ヘレン・トーマスが自宅で殺害され、殺害現場となった自宅は放火され全焼した。犯人は未だ捕まらず、未解決のままだったが、ディクソン夫妻殺害とトーマス兄妹殺害の二つの事件には類似性があった。被害者がロープで巻き付けられていたこと、致死に至った直接の原因が銃殺であったこと、女性はどちらも強姦されていたこと、などだ。

また、1996年に当時15~16歳だったティーネージャー男女5人が、覆面マスクを被った男に銃で脅され、暴行された後、少女達は強姦されるという、別の未解決事件も浮上した。ウェールズの小さな海岸町、すべては直径5マイル(約8㎞)以内で起こった事件であることから、スティーブはこれらの事件が、地元の地理に詳しく、しかも同一人物の犯行であることに確信を持った。

スティーブは、これらの事件を再捜査するべきだと上層部に打診する。時間と予算、マスコミの対応、そして被害者家族への配慮など、もう一度事件をひっくり返すにはリスクが高すぎるとする上層部。「再捜査するにあたり、なにか確信的な証拠でもあると言うの?」と本部長はスティーブに尋ねる。「証拠は見つけられるのを待っているんです」とスティーブは自信を見せる。

『オタワ作戦』というコードネームにより、捜査チームを作成。3つの事件の証拠品、そしてクーパーの自宅からの押収品、併せて3000以上を丹念に再調査する。これらの事件が起こってから、科学は進歩している。当時は見逃してしまっていたDNA痕跡が今回は見つかるかもしれない。

画像2『オタワ作戦』の捜査チーム(ドラマ)。


ある日、地元TV局のニュース・ジャーナリスト、ジョナサン・ヒル(デビッド・フリン)がスティーブを訪ねる。ディクソン夫妻殺害事件に関してドキュメンタリー番組を制作したいので、協力をして欲しいとの依頼だった。タイミングが悪すぎると感じたスティーブは、その場で、現在同事件と併せて3つの未解決事件を再捜査中であることをジョナサンに伝え、事件が解決したら、特別に報道許可を与えることを約束する。

証拠品を手掛かりに捜査を進めるオタワ・チーム。しかし、ここに悪いニュースが。服役中のクーパーに仮釈放が言い渡されたのだ。クーパーが塀の外に出るまで時間がない。それまでにどうしても決定的証拠を手に入れたいスティーブは意外な方法に出る。それは、前述のジャーナリスト、ジョナサン・ヒルの手を借りて、あえて公衆にアピールするというものだった。クーパーがウェールズTVのニュース番組を欠かさず観ていることを知ったスティーブは、同ニュース番組で、ディクソン夫妻殺害事件に関して再捜査していることをTVを通して公表した。更なる証拠を収集していること、もしこの事件に関して知っていることがあれば早急に警察へ通報して欲しいこと、そして、警察は確固たる証拠をすでに手に入れていることを発表した。これは、事実ではなかったが、クーパーに尋問するにあたり、相手を動揺させ、饒舌にさせるのが目的だった。前回の捜査の際には、敵として対峙していたマスコミを味方につけて情報操作することで、クーパーをパラノイアに陥れ、自己アピールさせるのだ。

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地元ニュースに出演し、情報提供を呼び掛けるスティーブ。


オワタ・チームはクーパーへの尋問を始める。まずは、当時のクーパーの経済的状況を明らかにする。クーパーは1985年に新聞のクイズ懸賞「Spot The Ball」で£94.000を当てている。この金額は現在(2006年)の時点では、 £800.00の価値があり、これらの金でいくつか不動産を購入したり、ギャンブルにつぎ込んだりしていた。しかし、不動産投資は上手くいかず、ギャンブルでも負け続け、実際は借金を抱えていた。集められた証拠品を目の前にしながらも事件への関与を完全に否定するクーパー。捜査には非協力的でつねに横柄な態度と無関心を装う。押収された手袋を目の前にし、自分は手袋ははめない、でも息子のエイドリアンは手袋をつける、と供述。実はクーパーには息子が一人おり、父親の逮捕後、アンドリューと名前を変えていた。押収されたすべての証拠品に関して、自分のものではないが、息子のエイドリアンは似たようなものを使っていた、と供述するクーパー。


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自分に都合の悪い、回答したくない質問に対しては、身体ごとそっぽを向いて、沈黙するクーパー(キース・アレン)


1985年に銃殺され、自宅を放火されたリチャード&ヘレン・トーマス兄妹に関して、クーパーが1984年より、この富豪兄妹の土地で働いていたことがある事実を突きつけられると、息子のエイドリアンが以前の取り調べにおいて、嘘の供述をしたと主張。「Spot The Ball」で稼いだ賞金でスペインへ旅行に行った際、エイドリアンを連れて行かなかったことを未だ根に持っている、スペインから帰国すると息子は別人のようになっており、性格は荒々しく、自分たち両親から金を盗み、クスリにも手を出し始めた、と供述した。しかも、あの放火殺人が起こった日、夜遅く帰宅したのはエイドリアンだった、とも。

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尋問は3日に渡って行われた。

ディクソン夫妻殺害の後、夫ピーターのバンクカードを使用し、ATMから現金が引き出されていた。目撃者の証言によると、その男はカーリーヘアで、後ろ髪を肩までつく長髪にし、カーキ色の短パンを掃いていた。しかし、目撃者の証言による容疑者のイラストを見て、クーパーは、今まで此の方このような長髪にしたことはない、と断言する。

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目撃者の証言をもとに作られた容疑者のイラスト。


そして、「短パン」に関しては、クーパーは自分は履かないが息子のエイドリアンは短パンを着用する、と主張。そして息子はいつも自分の服を借りていた、とも。しかし、スティーブは、「短パン」に関してクーパーが、「ショーツ」や「bathers(海水パンツ)」など言葉を頻繁に変え、異常に反応したのを見逃さなかった。しかし、この「短パン」は一体どこにあるのだろうか?

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クーパーは妻のパット(左、キャロライン・ベリー)に早急に息子のエイドリアン(右、オリバー・ライアン)に、連絡を取ることを命令する。エイドリアンは久しぶりに母親と分かり合えると思い、実家を訪ねるが、訊かれたのは「カーキの短パンを知っているか」ということ。結局は父親の指図でしか動けない母に憤りを感じるエイドリアン。実は彼は仕事中の事故で脊椎を損傷し、9時間の大手術の後、杖生活となっていた。しかし専門家は、背中の損傷は仕事中の事故が原因ではなく、幼少期に受けたなんらかのダメージだと報告。実はエイドリアンは父親であるクーパーより繰り返し暴力を受け、全身に大けがを負っていた。スペインに行けなかったのはそのせいで、ベッドから起き上がることもできなかった。当時彼はまだ12歳だった。


捜査は時間と金だけを浪費していた。すでに予算の半分以上を費やしていたが、ハンスマン捜査時に、ジョン・クーパー宅から押収した物品のいくつかを科学捜査班に回し、DNAの痕跡がないか、再検査することにする。

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殺害に使われたショットガン(左)とクーパーの所持品(右)。クーパーはこれらを別物だと主張する。スティーブは、ショットガンの銃身部分にペンキがあてがわれていることに気付く。そして、クーパー宅からの押収品の中にペンキが見つかっている。ペンキを塗ったのは何故か?もしかするとその下にDNA痕跡があるかもしれない。


そんな中、スティーブは、息子ジャックのフットボールの試合の打ち上げで、訪れた地元のパブで、壁に掛かった一枚の写真に注目する。10人程の男性たちが映ったその写真の中の一人がジョン・クーパーに似ている。パブのオーナーにその写真について尋ねると、写真が撮られたのは1980年終わり頃で、写真の一人は確かにジョン・クーパー本人であり、同時期ににクーパーはITVのダーツクイズ番組『Bullseye』に出演していた、という。

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手前左端がジョン・クーパー(本人)。

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『Bullseye』のアーカイブ映像を調べると、1989年、確かにジョン・クーパーは、クイズ番組に出演していた(上の写真は本人)。そして、この2週間後に、ディクソン夫妻を殺害しているのだ。

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TV番組に出演したジョン・クーパー(左)とピーター・ディクソンのバンクカードを使って現金を引きおろしたとされる男のイラスト。なんと瓜二つではないか?


捜査は確実に進んでいたが、決定的証拠がなく、とうとうクーパーの仮釈放の日が訪れた。クーパーは妻の待つ自宅へと戻った。

しかし、クーパーが自宅に戻ったその夜、妻のパットが死亡。死因は心臓発作だったが、スティーブはクーパーが拘置所を出なかったらパットは死ぬことはなかったのではないか、と責任の念に捕らわれる。

「カーキ色の短パン」が捜査の決め手になると確信したスティーブは、「ハンスマン」でクーパー宅からの押収品を調べ直す。そして、その中から「カーキの短パン」を見つける。しかし、この短パンは女性物で、しかも、例のイラストに描かれた男が着ていたものよりも、裾丈がずっと短かった。

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とはいえ、「短パン」と呼べる証拠品はこの1点のみ。調べてみる価値はある。すぐに科学捜査班に回すと、この短パンから小さな血痕を見つけた、との連絡が。そしてそれは、なんと、ピーター・ディクソンのものだった。決定的証拠を見つけた警察はすぐにジョン・クーパーを再逮捕する。仮釈放されてから1か月後のことだった。

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再逮捕したクーパーの車の中からは、真新しい覆面マスク、ロープ、手袋が見つかった。彼はまたしても同じ犯罪を犯すつもりだったのか?

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警察は、2つ(4人)の殺人罪、ティーネージャー5人に対する暴行と強姦罪で、ジョン・クーパーを刑事訴追し、2011年、陪審員による裁判が行われた。

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検察側弁護人ジェラルド・イリアスQC (オーウェン・ティール)

決定的証拠となったのは、クーパー宅から押収された「カーキの短パン」でだった。1989年に殺害されたディクソン夫妻の子供達によると、母グェンダは、予備として、常に短パンの着替えをリュックサックに入れて散歩に出かけていた。しかし、その短パンは見つかっていない。つまり、クーパーはディクソン夫妻を銃殺した後、この短パンに着替え帰宅したのだ。そこに夫ピーター・ディクソンの血痕が残されているとは知らずに。そしてその2日後に、再びその短パンを着用し、脅し取ったピーター・ディクソンのバンクカードで現金を引き出した。検察側はクーパーがそれを「戦利品」として、誇りを持って身に着けていた、と念を押す。そして、この短パンがイラストよりも丈が短くなっていたのは、妻パットがプロのお針子だったことから、別物に見せるべく、裾上げをしていたからだ。またこの短パンのポケットから見つかった綿埃から、人間の体毛と皮膚の一部が発見されており、これがクーパーのものであることが証明された。そして、この綿埃に含まれた繊維が、クーパーが以前に有罪判決を受けた強盗事件で使った手袋の繊維と一致していることを証言。また、この繊維と全く同じものが、1985年に銃殺され、証拠隠滅のために家を放火された、リチャード・トーマスの靴下(家は全焼していたため、これが唯一の証拠品だった)、そして、1996年に襲われた少女の下着からも検出されており、これらの事件で犯人は同じ手袋を着けていたという事が明らかになった。つまり、ディクソン夫妻殺害事件と、トーマス兄妹殺害事件、さらにティーネージャー襲撃事件とがつながったのだ。

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クーパーの持ち物であるショットガンに関しても、1996年に襲われたティーネージャー達が、それが同じものであるという証言をしていたが、なんと、このショットガンから、ピーター・ディクソンの血痕が見つかった。


最後に検察側弁護士は、1998年に行われたハンスマン裁判で、当時証拠品とした提出されていた覆面マスクに関して、クーパーが嘘の証言をしたことを明らかにした。

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法廷審議を見守るオタワ・チーム。


陪審員の協議の結果、ジョン・クーパーは、4人の殺害、レイプ、強盗、窃盗、放火を含む11すべての訴追内容で有罪を言い渡される。

2006年から6年の歳月をかけて行われた再捜査は、2011年裁判官により、クーパーの終身刑という判決が下され、幕を閉じた。



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ルーク・エヴァンス(左)とスティーブ・ウィルキンス巡査部長(右、本人)


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連続殺人犯ジョン・クーパー(右、本人)を演じたキース・アレン(左)。背筋の凍るような冷酷な殺人犯を演じたアレンは素晴らしかった。アレンは今回の役作りに関して、本人とはあえて面会をせず、取り調べ時のアーカイブ映像を見て演技に踏み切った、と語っている。


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デビッド・フリン(左)とジャーナリスト、ジョナサン・ヒル(右、本人)

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ドラマ化に関して...。筆者の感想。

この記事を書くにあたり、何度かドラマを観返したのだが、観れば観るほど、ルーク・エヴァンスの演技がすごい。細やかな表情、声のトーン、佇まい、どれをとっても完璧なのだ。私はウェールズ訛りにあまり慣れていないので、セリフを理解するのに字幕を必要としたのだけれど、文字を読む間に聞こえる呼吸までが計算されており、また、その訛りがこの小さな町で起こった事件の残忍性を明らかにした。

ドラマの冒頭、スティーブが自分のワイシャツに丁寧にアイロンをかけ、使ったマグカップを洗い、布巾で拭いた後、マグスタンドに収納する、というシーンがあるのだが、ゆっくりと几帳面にルーティンをこなす、という「精密さ」が事件解決に結びつく根本的姿勢だったのだろう。つまり、ある意味異常なほどに神経質なところがないと、容疑者の微々なる態度の変化や、証拠品の再検査(巨大虫眼鏡で写真を精察するシーンが幾度となく出てくる)など、様々な気付きは生まれなかったかもしれない。

また、このドラマをただの事実再現モノに終わらせていないところの一つが、父と息子の関係を描いたところにある。クーパーは取り調べでも、裁判でも一貫して容疑を否定していたが、そこに息子エイドリアンの関与を常にほのめかしていた。「エイドリアンが長髪だったことがある」、「エイドリアンが似たような短パンを持っていた」、「エイドリアンが家族で唯一手袋を着用していた」など、自分への容疑が濃くなるにつれ、息子の名前を口にしていた。濡れ衣を自身の息子にかける、という親として信じられない行為に、スティーブは嫌悪感を隠さない。そして怒りすら感じているのが見て取れる。スティーブ自身にもティーネージャーの息子がおり、自分が離婚した後、息子との関係を保とうと必死で努力している。ときに、仕事に没頭しすぎて、息子のフットボール観戦を忘れてしまうこともあったが、それでも、親子の絆をしっかりと結ぼうとしている。そんなスティーブにとって、この残忍な事件の濡れ衣を息子に掛けようとする、クーパーの残虐性が理解できなかったし、許せないと思っていたのだろう。

これらの事件では4人が犠牲になり、複数が心の傷を負ったが、被害者はそれだけにとどまっていない。クーパーの妻であったパットは、42年間の結婚生活で、まるで奴隷のような扱いを受け、利用されていた。クーパーを恐れていた彼女は、10年間の服役を終え、塀の外へ出た夫と再び生活することに耐えれなかったのだろう、夫が帰宅したその日に心臓発作で亡くなっている。そのストレスたるや、想像を絶するものだったのだろう。そして、息子のエイドリアン。クーパーが検察の取り調べで、容疑をすべて息子のエイドリアンにかけようとしていたことは、既に述べたが、裁判でもこれを繰り返している。実はエイドリアンは法廷でもビデオ越しに証言台に立っている。自らの息子本人を目の前にしてまで、飄々とそのような嘘がつける、というまさに利己主義なエゴイズムには吐き気すらした。

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法廷で証言するエイドリアン。親の金を盗んだことなど一度もない、と断言する。


ドラマの最終部分では、スティーブがオタワ作戦のオフィスを片付けているところに、息子のジャックが訪れる。フットボールのプロ選手を目指していたジャックが父、スティーブにこう告げる。「僕も将来は警察官を目指そうと思う」。

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裁判が終わった後、スティーブは会見でこう述べる。「今回の有罪判決は、奪われた命、大切な人を家族の悲しみに替えることはできない、しかしこれは、残忍な犯罪に関わろうとする個人に対しての警告でもある。犯罪者が手にしたものは、必ず証拠となり、その証拠は永遠であり、忘れられることはない。そして、証拠は嘘をつかない。証拠は見つけるべき人間により、必ず発見されるのだ」と。

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ドラマの原作、スティーブ・ウィルキンス巡査部長とジャーナリスト、ジョナサン・ヒルの共著、『The Pembrokeshire Murders - Catching The Bullseye Killer』。

(終わり)


こちらも併せて読んで欲しい。デビッド・テナントの怪演が見事だった、事実に基づいた、連続殺人犯、デニス・ニールセンのドラマ『Des』。



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