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英女優、ミカエラ・コーエルが賛辞を捧げた「インティマシー・コーディネーター」というプロフェッショナルについて。




先日、「インティマシー・コーディネーター」という職業の存在を初めて知った。Bafta2021(英国アカデミー賞)で、主演女優賞を受賞した、ミカエラ・コーエルがスピーチで、この受賞をインティマシー・ダイレクターであるイタ・オブライアンに捧げたい、とコメントしたからだ。ミカエラ・コーエルは、評論家からも大絶賛を受けたBBCドラマ『I May Destroy You』 @imaydestroyyou にて、製作、原作、監督、主演を務めた女優。同ドラマは彼女が受けた業界でのハラスメント経験に基づいて書かれた作品だったため、それをドラマ化するにあたって、インティマシー・コーディネーターの存在がいかに必要かつ重要であったかを強調した。

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そこで、「インティマシー・コーディネーター」だが、これは、映画やドラマ、演劇でのインティミット・シーン(濃厚さらには性的なシーン)、つまり、セックスシーン、キスシーンなど、肌の露出や身体の接触があるシーンにおいて、演じる俳優達の身体的・心理的なサポートをするプロフェッショナルのこと。その機能はというと、まず、出演者やすべてのスタッフがストーリーのなかにインティミット・シーンがあることを認識していることを確認する、そのインティミット・シーンに関して、常にコミュニケーションが取れる状態を保ち、そこでハラスメントが起きた場合には通報・相談できるような道筋を準備する。すべてのインティミット・シーンにおいて俳優の同意を確認する。すべてのインティミット・シーンは、事前に同意した演技(振付)に沿って行われるよう確認する、などが挙げられる。

インティマシー・コーディネーターは、2017年に明るみに出たワインスタイン・スキャンダルからのMeToo運動がきっかけとなり、その必要性が高く評価されるようになったという。撮影現場では、その制作過程において権力の構造は存在せず、(特に若くて経験の浅い)俳優たちをケアするために、プロのセイフガードを置くことが必要であるという主張のもとに、身体的、精神的な安全な環境を提供するのが仕事だ。

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ミカエラ・コーエルはスピーチにてこう続けた。「この業界にあなたがいてくれていることを感謝します。物理的にも、そして感情的にもプロフェッショナルな境界線を提供してくれることにより、搾取や尊厳の欠如、権力の濫用に対してに有利に働くように、そして、安全な撮影環境を作ってくれたことに。もし、あなたがいなかったら、この撮影現場は、クルーは困惑さらには、ばつの悪い思いをし、俳優たちは心理的ダメージを受けていたでしょう。この番組にあなたの指導は不可欠であったし、同意という課題を探求することを厭わない全ての製作会社にとって、(インティマシー・コーディネーターは)必要不可欠であると信じます」。

イギリスのドラマでは、他にも『セックス・エデュケーション』や『ノーマル・ピープル』などですでにインティマシー・コーディネーターが起用されている。

一つ付け加えておくと、インティマシー・コーディネーターは「インティマシー・コリオグラファー」とは異なる。後者は「振付師」の名の通り、実際の演技指導をする人のこと。

今日、ロンドンのシアター・スクールに通う友人と話していて、この話題に触れたところ、現在はシアター・スクールでもインティマシー・コーディネーターの指導の元、訓練がなされているそうで、彼女はその環境にとても満足そして感謝していると言っていた。

濡れ場シーンって、乳首を見せるか見せないかや性器を出すのか出さないのか、などの同意くらいしか知らなかったけど、このようなコーディネーターが現場に立ち会っている、ということを知るだけでも、これから安心してインティミット・シーンを観ることができると感じた。俳優やスタッフを含め、製作に関わる人たちが安心・安全に働ける現場であることが、良い作品を作ることの前提であるわけで、それは観る側にとってもとても大切なことであるから。


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