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マーメイド本舗の天日干しわかめ

豆と小鳥エピソード49配信しました
今回のテーマはコロナでさらにみんなの利用度が高まった「オンラインショッピング」についてバクとナミンで話しています。
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私は人魚。今の無人島に住んで5年たつ。
地図にも忘れられた名前もない枝豆のカタチをした南の島で暮らしている。
島の動物や魚や鳥たちとわたしは適切な距離を保ち調和した関係を築き、
家族の老猫ポンと子猫のチーと小さなキャビンで
ひっそりとおだやかに暮らしている。


1週間に一度、オンボロのオレンジ色の小船に乗って
恋人が髪の毛を海風にグシャグシャにされながら島にやってくる。
食料品やお酒や本や音楽を聴く電池など、私がお願いしたものを忠実に積んでポンポンポンと音を鳴らしてやってくる。
ポンはまだ船が見えないうちから彼の訪問を察知し、海辺で律儀にお出迎えをする。
私たちはお互いに1週間にあったことを報告しあう、
でも主に話すのは彼だ。
都会の人間世界でどーにかこーにか共存している彼には人には言えない苦労が多いのは当然で。
私は彼の話を熱心に傾聴する。
そうすることで彼の痛みが光に溶けるように、風に流されるように。
ひとしきり話した後、厳粛な儀式のように彼はひとり、海で泳ぎ、潜る、
夕陽が落ちてしまうまで。

週に1度の晩餐を2人と2匹でダイニングテーブルと呼んでいる
平たくてスベスベしている大きな岩の上で時間をかけていただきお酒を飲む。そして、潮騒の音を聴きながら幾度も愛を交わし、
満点の星空の下で抱き合いながら安心して眠りにつく。

私が作ったワカメを乗せて彼は本土に帰っていく。
私の生業は乾燥ワカメ作りで恋人が運営しているオンラインショッピングで販売している。私はオーダーの入った数量のワカメを採り、天日に干す。人魚の私は人間には決して潜ることができない深い深い群青の海の底に潜り、必要なだけのワカメを採る。
天然の塩を含み太陽を贅沢に浴びて出来上がった乾燥ワカメは注文が途切れることもなく、口コミが口コミを呼び、本日も私はそれなりに忙しい。

人魚として生まれてきていいことなんかひとつもなかった私は今ようやく、自分の居場所と恋人と家族と生業に恵まれ、幸せとはこういう気持ちのことだったんだ、愛するってこういう気持ちのことだったんだと生まれてきたことと今、生かされていることに感謝し、鼻歌まじりにワカメを干す。
恋人と海に還る日を夢見ながら

バラの香りにうっとりしながら
砂時計が落ちていくのを眺めながら
新月に願いを託しながら
聞いてくださったらうれしいです
今日もみなさん、ご機嫌さんで

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