奇跡の野音

秋のエレカシ31年日比谷野外大音楽堂コンサート

2020年10月8日

金木犀の香りが満ち、虫の音がささやかに聴こえる日比谷野外大音楽堂。

静かにその時を待つ1260名の観客の前に彼らは静かに現れた。

一曲目、「序曲」夢のちまた。
エレファントカシマシの作り出す、夢の世界へ瞬く間に引き込まれていった。

私はこれまで音楽を聴くという習慣もなく、ましてやコンサートへ行くことなんて皆無だった。
そんな私があるきっかけでエレファントカシマシのファンになったのだが、そのときには既にボーカル宮本さんのソロ活動が始まっており、エレカシは時々テレビで観られるかどうか。
少しずつ買い溜めたDVDを「いつかこの曲を生で観られたら、もう何も悔いはない」と、思いながら繰り返し観ていた。

奇しくも新型コロナ流行で、新春コンサート以降ソロコンサートも中止に。
31年目の“野音”の開催も無いのかもしれないと思っていたが、号外葉書のサプライズ!開催決定だった。
喜びの反面、人の集まるところに行って大丈夫なのだろうかと、不安や葛藤が渦を巻きそれは申し込み直前まで続いていたが、腹を決めて申し込んだ。
定数は例年の半分程度。
そもそもくじ運の悪い私には当たらないだろうが、申し込まないのも悔いが残るという思いがあった。
当たった。血の気が引いて手が痺れた。
人間、本当に嬉しいとこうなるのか……
席はきっと後ろの方だろう。それでも十分嬉しい。だって私はくじ運が悪い。
B5列。前寄りだった。今までこんな幸運に巡り合うことはなく怖かった。
エレファントカシマシの夢の世界は開催日前から始まっていたのだろうか……?

初めてのコンサート。何より大好きなエレカシの。
会場に入ってまず私は、サポートスタッフさんに目を奪われた。どの方もスマートで“裏方さん”ではない。彼らも“主役”だった。
そしてお馴染みのカメラマンさん。客席の間をすーっと動き、その動きはまるで忍者のようで、やはり“主役”だ。

演奏が始まる。
宮本さんの柔らかな声。地の底から沸き立つ響く声。
石森さんの宮本さんを見つめてのギター演奏と前髪。
高緑さんの底から支える力強いベース。
冨永さんの宮本さんの動きに全くズレない神がかったドラムス。
初体験の迫力で私は膝の力が抜け立っているのがやっとで、拳を上げることも手を振ることも出来ずただ、立ち惚けてしまった。
全28曲、どれも“感動”の一言では言い表せない。

宮本さんの発言。ソロ活動をしている今、昔の曲を歌えることの喜び(要約)。
ソーシャルディスタンスの……メンバーとの熱い抱擁。
エレファントカシマシは揺るぎない。メンバーとの関係も揺るぎない。何一つ揺るいでいないことが示されたのだった。2時間半超のコンサートはあっという間に過ぎていき、夢から覚めぬままふわふわとした足取りで帰途についた。

因みに私が「生で聴けたらもう悔いはない」という曲はこれだ。
“Easy Go” 俯いていた私の顔を上に向けてくれた曲。
“ガストロンジャー” 初めて聴いたときの衝撃が忘れられない曲。
“パワー・イン・ザ・ワールド” 激しさの中に浮かぶ情景が美しいと思った曲。
聴くことが叶ってしまった。
しかし人間というのは欲深いもので、あれもこれももっと生で聴きたい!と、まだまだ尽きない。


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