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ラジカセをくれた父へ

はじめて買ったCDの話には続きがある。

CDを学校で流すために買ったは良いものの、家で聴くには多少の苦労があった。

なぜなら、自分の部屋にCDプレイヤーは無く、聴くためには毎回リビングにあるラジカセで聴かなくてはならなかったからだ。

真っ黒で横長のラジカセは、小さい頃から家にある年季モノで、我が家ではCDを聴くよりもラジオを聴くために使われていた。

最初はリビングにCDを持っていったものの次第に面倒になり、自分の部屋にラジカセを持ってきて、リビングで必要な時には逆に持っていくようになった。

そんなある日、父が突然コンポ買ってきたのだ。当時、流行していた「MD」が流せて、録音も出来る代物である。
毎回行き来するラジカセに鬱陶しくなったのか。もしくは、ただ自分が新しいコンポが欲しくで買ってきたのかは分からない。

だがそれによって、父からラジカセを譲り受けた。音楽が常に聴ける環境が、自分の部屋に出来上がったのだ。
おかげで狂ったようにCDを買ったり、友人から借りては聴きまくった。音楽(聴く専門)にハマったのはこのラジカセのおかげである。


あの時、父がラジカセを譲ってくれなければ、もしかしたら今でも音楽(聴く専門)にハマっていないかもしれない。

もし譲り受けたものがラジカセではなく、カメラだったら。僕は狂ったようにカメラにハマっていたかもしれない。


父から譲り受けたカメラをきっかけに写真にハマり、変わった家族写真を撮る写真家になった男の話が、全国で大ヒット上映中の『浅田家!』である。

写真界の芥川賞と呼ばれる「木村伊兵衛写真賞」を受賞した写真家・浅田政志氏を題材に、中野量太監督が映画化。

中野監督の作風は、初長編作の『湯を沸かすほどの熱い愛』、続く『長いお別れ』を通じて、丁寧で温かい家族映画に定評がある。

どういった映画かは予告編をご覧いただくとして、『浅田家!』には、色々な家族が出てくる。家族によって様々な事情を抱えているが、一貫しているのは「親から子への愛情」である。

どのような状況であっても、親から子への愛情は普遍的に注がれる。これは恐らく中野監督の作品の特徴であり、丁寧で温かい家族と評される理由に思う。

特にこの映画では「父から子への愛情が色濃く描かれている。浅田家においても、自由な浅田氏の発想があってこその家族写真だが、その自由な彼に期待し続けた父の存在は大きいに違いない。


子供が何にハマるか、親にも分からない。子供がやりたいと思ったことを、やらせてあげることが親の務めなのだろう。

あの時、父がラジカセをくれたこと、今になってとても嬉しいのである。


編集:べみん

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