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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第10回 日本の行政はなぜこんなにIT化が進まないのか?

 日本の行政のIT化は著しく遅れています。これは紛れもない事実であり、このコロナ禍で誰の目にも明らかになっています。例えば「届くはずの10万円の給付金が届かない」とか、「休業補償金の手続きが煩雑だ」、こういった声をしきりに耳にする様になりました。確かに日本の行政のIT化は元々非常に遅れていましたが、皮肉にもコロナはその現実を浮き彫りにしてしまいました。

 この状況を改革すべく発案されたのが、他でもない今話題のデジタル庁です。昨年の9月に菅内閣が発足した際、彼が打ち出した政策の一つの目玉がこのデジタル庁の構想でした。現在、このデジタル庁には大きな期待が寄せられています。これまで日本の行政では府省間において縦割り行政の習わしが強く、それがIT化を阻む大きな要因となってきましたが、このデジタル庁にはそれを打破する事が期待されています。更に予算策定、企画立案、監理、勧告といった、日本の行政におけるITの根幹をこのデジタル庁は担う予定にもなっています。もしこれが実現すれば、日本の行政のIT化は大きく進むでしょう。

 しかしその前に、「日本の行政のIT化は世界と比べてどの程度遅れているのか?」という現実を知る事は大切です。現時点での立ち位置を知らなければ、ゴールを設定する事は出来ないからです。一方でこの点を筋道立てて説明できる人は、それほど多くありません。なぜなら殆どの日本人は海外移住などせず、一生涯日本で生活を送るため、海外の行政のIT化がどの程度進んでいるのかを知る機会など無いからです。

 しかし仮に海外移住した事が無かったとしても、それを知る方法はあります。それは統計を調べる事です。統計は雄弁です。世界の行政のIT化に関する統計を調べるなら、現在の日本の立ち位置に関して正確な理解を得る事ができます。一方で統計だけでは見えて来ない面もあります。例えば皆様もご承知の通り、ITというものは触れてみて初めて、それが便利なのかそうでないのかを理解できるものです。統計と実体験、この二つが重なる時、私たちは世界における日本の行政のIT化の立ち位置について、より深い理解を得る事ができます。

 この点で私は海外の複数の国に跨る会社を経営している事から、各国の行政のIT化の現状を知る上で有利な立場にいます。それら各国のIT化の現状を鑑みる事によって、日本の行政の問題点も一層理解する事ができています。

 それで今日は、「日本の行政はなぜこんなにIT化が進まないのか?」というテーマでコラムを書きたいと思います。最初に統計を通して、日本の行政のIT化が世界の中でどれほど遅れているのかという点を俯瞰していきます。次にこのコロナ禍で、他国がどのようにITを用いて、パンデミックに対応しているのかについての事例も考察します。併せて私が会社経営者として実際に見てきた、各国の行政のIT化の事例も紹介します。そして日本の行政のIT化が進まない原因についても考察を深めていきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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