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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第9回 日本人は本当に健康なのか?

 「一億総活躍社会」という言葉があります。これは日本政府により2015年に提唱されたもので、「日本人の誰もが活躍できる、いわば全員参加型の社会を目指そう」という政策です。その中には当然、子供や障がい者、更にはシングルマザーなども含まれており、言い換えるなら、全ての人が社会に参画し、全ての人が幸福になる事を目指した政策と言えます。これ自体は素晴らしい理念と言えるでしょう。

 しかしこの政策の背景には、社会的弱者の保護という側面以上に、深刻化する少子高齢化への対策という側面があります。この30年間、日本の少子化は止まらず、一方で高齢化は急速に進んできました。この点で高齢者にできるだけ長く社会に参画して貰う事が、日本における最重要課題の一つとなっているのです。

 このような背景の下に、一億総活躍社会、つまり高齢者でも活躍できる社会という政策が提唱されてきました。私は40代前半ですが、私と同世代の日本人の殆どは75歳くらいまでは現役を続ける必要があると思われます。そうしないと、日本の社会保障制度が破綻してしまいます。正に年寄りになっても「活躍し続ける」必要があるのです。これが今の日本の現実です。

 この点で言うまでもなく、人は健康でなければ働く事ができません。今後高齢化が進む中で、「健康」は今まで以上に価値のあるものとなっていきます。この事に疑問の余地はありません。しかし次の重要な質問が生じます。「日本人は本当に健康なのでしょうか?」多くの人はこの質問に対して、「世界各国の中で日本人は健康である事が知られています。」と答えるでしょう。でもこれは本当でしょうか?どの程度世界各国の人たちと比べて、日本人は健康なのでしょうか?こういった点を正しく説明できる人は多くありません。なぜなら殆どの人にとって、自分や日本人全体の健康状態を、他国の人と比較して考える機会など無いからです。

 さらに健康は身体面だけに限るものではありません。精神面での健康も重要です。どんなに身体が元気でも精神が蝕まれてしまえば、それは本当の意味で健康とは言えません。この点でも「日本人は海外の人と比較して精神面で健康か?」という質問が投げかけられた際、筋道立てて答えらえる人は決して多くないでしょう。

 これらの質問を考慮する上で、統計は有用です。統計は正直です。統計を調査するなら、日本人が世界各国の人々と比較して、本当に健康なのかを知る事ができます。またそれは身体面のみならず、精神面でも健康かどうかを知る事ができます。例えば日本は自殺率が非常に高いと言われています。これは本当に悲しい事です。しかし一方でそれが世界の自殺率と比較して、どの程度高いのでしょうか?こういった点に関しても統計を調べるなら、その指標を知る事ができます。

 更に加えるなら、統計だけでは測れない情報というのもあります。例えば日本の職場は人間関係のストレスが多いと良く言われます。しかしどの様なストレスを感じるのか、例えばそれが同僚との関係におけるストレスなのか、もしくは上司や取引先との関係におけるストレスなのか、こういった点を定量的に測り、なおかつ海外と同じ指標で比較するのは困難です。何故ならこういったストレスの大きさというものは個人の感じ方によって開きがあり、また国の文化や風習が異なると比較が困難になるからです。

 ですから世界各国の健康状態を知るには、統計だけでなく「生の声」も重要です。こういった「生の声」を聞く時、統計には表れない健康上の課題を推察する事ができます。

 この点で私は言うまでもなく医療従事者ではありませんが、複数の国に跨る会社を経営している事から、日常的に様々な国の外国人と接点があります。例えば弊社にはマレーシア人に加えて、港湾の現場にはバングラデシュ人やパキスタンといった途上国からの労働者が大勢いますし、取引先には中東や欧州の企業が多数含まれます。彼らから毎日「生の声」を聞く事ができるという点で、私は有利な立場にいます。その「生の声」の中には、その国民が抱える特有の健康上の問題や、それに対する医療制度、特にメンタルヘルスの課題と対策などが含まれます。

 それで今日は、「日本人は本当に健康なのか?」というテーマでコラムを書きたいと思います。最初に各国の統計を基に、日本人の身体的な健康面について考察していきたいと思います。次に精神的な健康面に関しても、日本人が本当に健康と言えるのかどうかを各国の統計から推察していきます。併せて、私が世界のビジネスの現場で聞いた生の声を幾つか紹介する事によって、これらの統計を検証していきたいと思います。長文ですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

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