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テレビに五輪選手の家族や裏方が出演しない方が良い理由

オリンピックが終わりましたね。

さまざまなメディアで好成績を挙げた選手の話がいろいろと出てきています。スポーツの大きな大会があると大体こんなもんです。

で。
今日お話ししたいのが、選手のご家族や裏方に当たる方たちについてです。

こういう方たちにもスポットが当たりやすいんですよね。
大会の直後って。

一番多いのは奥様。
次にご両親。
あとは先生あたりですかね。

子供の頃の話とか、スランプの時の苦労話とか。そういう話の中からいい話があるとピックアップされるわけです。

こういう話って引きが強いんですよ。恐らく選手には投影できなくても、周囲で支える立場であったりとか、教える立場だと共感するものがあるからなんじゃないかと思います。

ですから、メディアは選手が好成績を挙げるとこのような方たちに取材に行くんですね。

メディアを通じてこうした報道を目にすることによって私たち視聴者が得るものもありますし、周囲の方たちも同じように苦労している部分が報われる瞬間と言えるのかもしれません。

だからこそ、選手の方もそうした報道を許容している部分もあるんじゃないかと思うんです。

ただ。
問題はここからなんですけど、こうした取材を受けたことによって思わぬ事態を招くことがあります。

いや、むしろ、起きることの方が多いでしょうね。

私の父は美空ひばりさんの照明プランナー(舞台の照明の設計士のようなものだと思ってください)をしており、裏方の中では番頭に近いポジションに居たため、ひばりさん関連で頻繁に取材の依頼を受けていました。

ひばりさんが亡くなってからも、昭和のスターとしての威光からNHKやBS朝日で半年に一回くらい特別番組がありまして、昔のテレビショーや紅白から出禁を食らった時の舞台の映像なんかを流しつつエピソードトークが入ってくるんですね。そこに父のインタビューを盛り込みたいということです。

しかし、父は出演に関する話は全て断っていました。

私からすると勿体ないように思えました。小さな会社を経営していたので、良い宣伝になりますし、父の仕事を知らしめることにもなりますからね。

特によく取材を受けていたのが東京ドームのコンサートのことです。

当時の日本には5万人規模で入るようなホールは存在せず、また天井があれだけ高くてドーム状の建造物もまた無かったので、裏方としても知恵を結集して総力を挙げてコンサートに臨んだらしいのです。

ですから、音響も大道具も舞台監督も照明も、逸話があるそうで。そういう話をすれば実績をアピールして新たな仕事にも繋がりそうなものなのにと子供の立場からすると思ったものです。

しかし、そこには理由がありました。
周囲の嫉妬と反発です。

テレビに出たい人はいくらでも居ます。そして、それぞれがそれぞれの苦労話を持っています。

例えば父が自分のエピソードを顔を出して行ったとしたらどうなるか。他にもエピソードを持っている人たちの中にはこう思う人も現れます。

何故西尾だけいい想いをしているのか?
目立ちたがりじゃないか。
その手柄は西尾だけじゃなくて他の人のものでもあるはずだ。

こうなってしまうと、宣伝効果よりも仕事上の人間関係の悪化のリスクの方が大きくなってしまいます。

裏方の世界も含めて芸能界というのは嫉妬や羨望から様々なうわさや評価が流布されやすいものだと子供心に感じるほど、人間関係のもつれの話をよく聞かされたものです。

本人のヘマで仕事を失って新しい人が後任になったとしても、どういう訳か後任の方に対する悪口を伝え聞いたりするんです。

私は本当に恐ろしい世界だと思いました。

そういう世界であることを熟知しているがゆえに、父は出演の話は絶対に断っていました。

ただ。
父は全ての話を断っていたわけではありません。

顔を出さない。
名前を出さない。

この条件で電話取材を受けることはありました。

この場合は1時間くらい時間を作って、話がそれほど上手くはない父ではあるのですが細かいところまで協力していたことを覚えています。

スタッフ側の苦労話を通じてひばりさんの仕事が素晴らしいものだったことを伝えるということに関しては、父は全く厭わなかったのです。

2003年に脳梗塞で倒れてからの父は仕事を失っていきましたが、そういった矜持は持っていたため、お金は残りませんでしたが古い仕事仲間との関係性は亡くなるまで良好そのものでした。

商売人としては良くない判断だったのかもしれませんが、人としては本人の中で正解と信じて貫いたことだったように思います。

話は長くなりましたが、選手の身内や裏方に対する取材依頼というのはどうしても舞い上がってしまいがちです。

誰もが知るテレビや雑誌から電話が掛かってきたり、自宅に来たりされると慣れていなければ浮かれてしまうのは仕方が無いことです。人によっては身内の自分でさえもちょっとしたスターになったと錯覚してしまうかもしれません。

ただ。
支えた人は自分だけではないのです。

良かれと思って受けた取材が原因で周囲から思わぬ言葉を聞かされたり、それが原因でギクシャクしてしまったり。

そこで初めて「こんなはずじゃなかった」と思うことになります。

実際に父の周囲にはテレビに出たがりな裏方が居て、出演するたびに白い目で見られていたということも聞かされました。

全く違うところの話ですと、とある力士の高校時代の恩師が当時の苦労話をするためによくメディアに出演するのですが「自分の手柄のように話している」と批判する人も少なからず居るそうです。

この話で大事なのは、表向きにこうした不満を口にする人が出てくるということもそうなのですが、こういう人が現れるということは言わないだけで同じように思っている人も潜在的には居るということです。

結局、こういう出演のメリットが何かを考えてみると…
そんなに無いんですよ。

紙面やテレビに出るという非日常が味わえるくらいしかメリットが無くて、前述のリスクはどうしても生まれる。

そう考えると父の判断って単純に合理的だったとも言えるんですよ。

本当に伝えたいことがあれば自分が出ずにエピソードだけ伝える。承認欲求を満たすことが目的でなければこれでいいわけですしね。

その方のキャラクターやエピソード次第ではそれほど嫉妬も羨望も受けない可能性はありますし、想定外の副産物が生まれる可能性もありますので、判断は自分次第ですし、どんな判断でも否定はしません。

ただ、もしこのような状況になった誰かが何かの形でこの記事を読み、参考にしてもらえたら嬉しく思います。


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