翻訳:クーフラン(クー・フーリン)の死 ストークス抄訳による「レンスターの書」より


はじめに ストークス抄訳「クーフランの死」を翻訳するにあたって

 今回私が翻訳したのは、12世紀に成立したといわれる「レンスターの書」に記載されている「クー・フランの死」をホイットリー・ストークスが19世紀末に「中世アイルランド語」から「英語」へ抄訳したものを、さらに私が「英語から日本語へ」翻訳したものです。
 抄訳とは、原文を一部抜粋して翻訳することであり、ホイットリー・ストークスの訳の時点で、原典からは一部削られていることになります。私はアイルランド語は読めないので、この記事の翻訳は一次翻訳ではなく、また削られた部分はどこなのか、どのような内容が記されていたのかは確認していません。なので、この翻訳が原典そのままということはありません。
 私は文学、およびアイルランド、神話などについては学術的に学んでいない素人です。間違いなどがあれば、お手柔らかに@mkrnitkまでご指摘いただければ幸いです。    

登場人物

・クーフラン(クー・フーリン、クーフリン)
クー・フーリン、クーフリンなど。万能神ルグを父とする半身半人の英雄。
ムルセヴネ(炎の戦士ではムルテムニー)は彼の領地。いわゆる牛争いで彼が敵軍を大虐殺した地でもある。

・ロイグ
クーフランの幼馴染で御者。

・勝利のコナル
クーフランと同じくアルスターの英雄

・ニアヴ
 今回の「クーフランの死」では勝利のコナルの妻。しかし事典などでは、勝利のコナルの妻はLendabairとされおり[the Encyclopedia of Celtic Folklore and Mythology, p358]、「ブリクリウの饗宴」ではコナルの妻はLendabairであり、Niam(Niamh)はコンホヴォル王の息子コルマクの妻である。しかし今回は、文章の流れに沿ってNiamをコナルの妻とした。

・モリグー(モルガン、モリガン)戦女神。

・ルガズ(ルギー)
「炎の戦士クーフリン」ではルギーと訳されている。ブリクリウの饗宴でも出てくる、クーロイの息子。父、クーロイをクーフランに殺された。

・エルク
カリブレの息子。彼も父をクーフランに殺された。

・カラティンの息子たち
「クアルンゲの捕り」にも登場。同じく、父をクーフランに殺された。

その他の用語
・エーリウの五大国
五大国とは、アイルランドを五分する、アルスター、コナハト、マンスター、レンスターの五つの国のこと。コンホヴァルの国の場合、アルスターを指す。

出典

Whitley Stokes
Cu Chulainn’s Death[additional details: abridged from the book of Leinster, ff.77, a1-78, b2 ]
Revue Celtique 3[1876-1878]
 CODECS : Online Database of e-Resources for Celtic Studies

Cu Culainn’s death クーフランの死

 これを最後にクーフランの敵はもう来ない。彼の治める地は煙と炎に満ち、武器は彼らの荷台から落ちた。彼が死ぬその日がすぐそこに近づいていた。凶報が彼の元にもたらされ、侍女、レベルハムは彼に目を覚ますよう告げた。彼は自身の平原を守る戦いに疲れ切っていたが、勝利のコナルの妻、ニアヴもまたクーフランに声をかけた。彼は自分の腕を跳ね除け、くるまっていた外套を放り投げた。すると、とめていた胸飾りがおちて、彼の足に突き刺さった。彼への予兆である。それから、彼は自分の盾をとり、御者のロイグに、彼の馬、『マハの灰色』を戦車につなぐように命じた。
 「わが民が誓う神々に対して誓おう」ロイグは言った。
「コンホヴァルの支配するエーリウの五大国がひとつ、アルスターの男たちが、『マハの灰色』を囲んでも、戦車につれて来くることはできないだろう。今日まで、俺はお前の頼みを断ったことは一度もない……もし、お前がどうしてもと望むなら、お前が来て、お前が自分で灰色に話をするがいい」
 クーフランは『マハの灰色』の元へ行った。そして、三たび、その馬は主人の左横へとくるりと回りこんだ(訳注: 馬に乗るときは通常、馬の左側から乗る。つまり、『マハの灰色』がクーフランの左側に立つと、クーフランは『マハの灰色』に乗ることが出来ない)。さらには、前の晩、モリグーが戦車を破壊していた。彼女はクーフランに戦場へ行って欲しくはなかった。彼女は、彼が、アルスターの首都、エウイン・ウァハに二度と戻ることはないのだとわかっていたから。
 クーフランは哀しげに彼の馬をとがめ、お前は自分の主人をそんなふうに扱ってこなかっただろう、と話しかけた。
 脅威の兆候である。『マハの灰色』はクーフランの元にやってきて、大きくて真ん丸い血の涙を、主人の足にぼろぼろと落とした。だが、クーフランは戦車に飛び乗って、突如ミディルーアチルの道に沿って南へと駆り出した。
 侍女のレベルハムは彼に会うと、自分たちを置いていくなと彼に懇願した。エウィン・ウァハに住み、彼を愛する150の女王たちが、彼に向かって大いに声を上げて泣いた。彼が戦車を右に向けた時、彼女たちは悲嘆にくれ、咽び泣き叫び、自分たちの手を強く打った。彼らは彼が二度と彼らの元に来ないことを知っていた。
 彼の行く道に、彼を養育した乳母の家があった。南へ行く時も、南から行く時も、戦車で彼女の前を通り過ぎる時は毎度、そこへ寄ったものだった。彼女は、甕のなかに彼のための酒をいつも溜めていた。彼は一杯の酒を飲んでこの場を発ち、乳母に別れを告げた。

 行く先で、何かが見えた。三人の、左目が盲いの皺だらけの老婆が、彼の行く道を塞いでいた。彼女たちは、ナナカマドの枝にさした一匹の犬を、毒と呪いでもって料理していた。クーフランにかたく禁ぜられていることの一つに、料理用の炉に近づいて、そこにある食べ物を口にしてはいけないというものがあった。また、彼の二つ名となっている動物の肉を食すことも、彼が絶対にしてはいけないことの一つだった。クーフランは戦車の速度をあげ老婆たちの前を通り過ぎようとした。彼女たちが彼の利になるよう、そこにいるわけではないことが彼には分かっていた。
 老醜のにじみでた女は言った。
「私らの元に寄っておいきよ、なぁクーフラン」
「俺はお前たちのところに寄りはしない。本当だとも」
 クーフランが返した。
「一匹の猟犬しか食べるものはありはしない」
 老婆は話した。
「これが、豪勢な炉辺なら、お前さんは私らの元へ来るんだろう?でも、実際にここにあるのはチンケなものさ。だから、お前さんは来ないんだ。ちっぽけなものには耐えられない、そういうものは受け取らない、偉いやつらというのは、失礼なもんだね」
 それで、彼は彼女の元へ寄って行き、醜い老婆は彼女の左手から犬の脇肉をクーフランに差し出した。クーフランは彼の左手でそれを食べ、左の腿の下にその肉を置いた。犬を受け取ったその手と、それを下に置いた腿は、その付け根から指先、足先までかたく動かなくなった。結果、本来あるべき力は、もうそこには宿っていなかった。

 彼の戦車は、スリャヴ・フアドゥの山を周るミディールアチルの道沿いを駆けた。彼の敵である、カリブレの息子エルクが、クーフランの戦車を見とめた。戦車の中のクーフランは、手の内に赤く光る剣をたずさえていた。勇敢なりし者の光が、抜け目のない熟練の職人が用いる鉄砧にかかる、細い金糸を編んだ糸のような、三つ色の髪の上に浮かんでいた。    
「あの男がわれ等の元へ向かってくる。エーリウの男たちよ!」エルクが言った。「奴を待つぞ」彼らは盾をつなげて防壁をつくると、エルクは男たちの配置にとりかかった。
 エルクは、まず曲がり角のひとつひとつに彼らのうち最も勇気ある者二人が戦っているように偽装させた。また、この二人組それぞれ対して、一人の吟遊詩人をつかせた。エルクは、吟遊詩人たちにクーフランには彼の槍を要求するように伝えた。というのは、一つの予言があったからだ。クーフランにその槍が要求されたならば、それが与えられていない限り、一人の王がこの槍によって必ず屠られる。カラティンの息子たちはそう予言していた。
 エリクに従い、エーリウの男たちは強大なる叫び声を上げた。そこに戦車の中のクーフランが突撃した。彼は三叉の雷鳴なる早業で、その槍と剣を繰り出した。
 敵軍の顔面が、頭蓋骨が、手足が真っ二つに割れ、彼らの真っ赤にそまった骨が、ムルセヴネの平原じゅうにバラバラと広がった。数えるならば、海の砂、天上の星、皐月の雫、雪の粉、雹の礫、樹海で重なる木々の葉、モイブレイに群生する金鳳花。家畜の足元に生い茂る芝生のように、無数の飛び散った血肉がそこにあった。その中で、灰色に染まっていたのは、クーフランが彼らを急襲し、結果、飛び散った脳がばら撒かれたその野原だった。
 エルクが配置した争っている二人組のうちのひとつがクーフランの目に入った。吟遊詩人は、その争いに割ってはいるようクーフランに呼びかけた。クーフランは、彼らに跳びついて、二度の拳を振るうと、戦っていた二人の脳みそが外にはみ出した。
「我に槍を!」吟遊詩人は言った。
「人々が誓うものに我は誓う」クーフランが言った。
「お前は俺が必要とするほどには、この槍を必要としていない。エーリウの男たちが俺のもとへ向かっている。俺もまたやつらのもとへ向かっている」
「もしも汝がそれを寄越さぬというのなら、我は汝を謗り不名誉を伝えよう」「俺は吝嗇と賎しさから謗りをうけたことは一度もない」
 クーフランは詩人に槍をその柄を先に向けて投げた。槍は詩人の頭を貫通し、その後ろの九人を殺した。
 クーフランは、戦車でその敵の大軍を通り抜け、クーロイの息子、ルガズがその槍を拾った。「この槍によって落ちるは何ものだ、なぁカラティンの息子たちよ」ルギーは問う。「その槍にて王は落つ」カラティンの息子たちが答えた。
 ルギーはクーフランの戦車に向かいその槍を投擲した。その先は、クーフランの御者、リアンガヴラの息子、ロイグへ届いた。ロイグの腸わたがすべて、戦車の座布にずるりと落ちた。
 ロイグは「酷く、傷を負ってしまった」と、いくつか言葉を交わした。
 而後、クーフランは槍を引き抜き、ロイグはクーフランに別れを告げた。クーフランは言った。「今日は俺が戦士となり、御者となろう」
 そうして彼は、二番目の二人組を見た。二人のうち一人が、我らの間に割って入てこないのならばお前の恥だ、と述べた。クーフランは彼らに向かって飛び上がり、岩に打ちつけて彼らを砕き潰した。
「我に槍をば、おおクーフラン!」吟遊詩人は請うた。
「人々が誓うものに我は誓う。お前は俺ほどにはこの槍を必要としていない。我が手、我が武勇、我が武器において、この槍はムルセヴネの平原からエーリウの五大国のうち四つを一掃するために今日ここにある」
「ならば汝を謗り不名誉を伝えよう」
「今日一つよりも多くの嘆願を聞いてやる義務は俺にない。それに、俺は俺の名誉の代償はもう払った」
「汝の不義理ゆえに、アルスターを謗り不名誉を伝えよう」吟遊詩人が言う。「決してない。アルスターは俺が願いを断ったが故に、俺のけちな賎しさ故に謗りをうけたことは決してない。俺に残る命はほぼないに等しいが、この日アルスターが不名誉をこうむることなどありはしない」
 そしてクーフランは、その柄で詩人に槍を投げた。槍は詩人の頭を貫通し、後ろの9人を殺した。クーフランは……我々が以前語ったように、戦車で敵の大軍を通り抜けた。
 カリブレの息子、エルクが槍をとった。「この槍により落ちるものは何だ、カラティンの息子達よ?」カリブレの息子エルクは問うた。「言うまでも無い。その槍にて王が落つ」カラティンの息子たちは答えた。
「これより遥か前、ルガズが投げた槍により、一人の王が落ちるだろうと、お前たちが言うのを聞いた」
「それは真だ」カラティンの息子たちは言う。
「それにより、エーリウの御者の王が落ちた。つまりはクーフランの御者、リンガヴラの息子ロイグが落ちた」
 その場でエルクは、槍をクーフランに向けて放り投げた。それは、彼の馬、『マハの灰色』に突き刺さった。クーフランは、槍を素早く取り去った。彼らは互いに、別れを告げた。『マハの灰色』は、首から下にあるくびきの半分を残して、主人の元を去り、スリャヴ・フアドゥの山にある、かつて住んでいたリン湖へと向かった。(訳注: スリャヴ・フアドゥの山にあるリンの湖はクーフランと『マハの灰色』がはじめて出会った場所)
 クーフランは再び敵の大軍を戦車で駆け抜け、そして3組目が争っているのに遭遇した。彼はそれまでやったのと同じように介入し、そして吟遊詩人は彼に槍を要求し、クーフランは初めその要求を拒否した。
「汝を謗り不名誉を伝えよう」吟遊詩人は述べた。
「今日既に、俺は俺の名誉の代償を支払った。今日この日一つより多くの嘆願を聞き遂げる縛りは俺にはない」
「汝の過失にてアルスターの不名誉を伝えよう」
「アルスターの名誉の代償はもう支払った」
「汝が一族を謗り不名誉を伝えよう」
「我が不名誉の報が、俺が踏み入れたこともない土地に届くことは決してない。我が残る命は無いに近しく、それ故にだ」
 クーフランは柄を前に、槍を投げた。それは詩人の顔と、それを通して九の三倍の男たちを貫いた。
「その憤怒ともないし恩寵よ、クーフラン」吟遊詩人は口にした。
 それが彼の戦車が敵の大軍を中を突破した最後だった。ルガズが槍を取り言った。
「この槍で落ちるものは何だ、カラティンの息子たちよ?」
「その槍にて一人の王が落つ」カラティンの息子たちは言う。
「俺は今朝、エルクの投げた槍により、一人の王が落ちるとお前たちから聞いた」
「それは真である」彼らは言う。
「エーリウの軍馬の王がその槍により落ちた。つまりは、『マハの灰色』が落ちた」
 ルギーは槍を投擲し、それはクーフランに命中した。彼の内臓が戦車の座布に零れ落ち、彼に残された唯一の馬、『セングレンの黒』が、彼をつないでいたくびきの半分をのこして消えうせた。残されたのは、戦車とその主人、平原の上で独り死にかけている、エーリウの英雄たちの王だった。
 クーフランが言った。「そこの湖まで水を飲みに行きたい」
「飲ましてやらないでもない」彼らは言う。
「お前が必ずここに戻ってくるのなら」
「お前たちの方が俺のもとにくるがいい」クーフランが言う。「もし俺が自分で来ないのなら」
 彼は自分の内臓を腹に収め、湖へ向かった。
 彼はそこで、水を飲み、身を清めて、自分のもとへ来るよう敵に呼びかけながら、死に向かった。
 いまや偉大なる境界は湖から西へ動き、彼の目はそれを反射した。クーフランは平原に立っているひとつの石柱へと向かった。座りこんで、あるいは倒れて死ぬのではなく、立ったまま死ねるように、彼は腰紐をそれに巻きつけた。
 彼のまわりに男たちがやって来た。しかし、彼らはクーフランのすぐそばへ行く勇気はなかった。彼らは、クーフランはまだ生きていると思っていたからだ。
「この男が奪った我が父の首の仇討ちに、その首を取らぬというのなら」カリブレの息子エルクは言った。「それはお前たちの恥だ」
 その時だった。『マハの灰色』が、主人の魂が主人の体内に宿るかぎり、英雄の光がまだ主人の額で輝きを放つ限り、彼を護ろうとクーフランの元へやってきた。
 『マハの灰色』は、彼の周囲を三度、真っ赤な潰走に追いやった。50人が『マハの灰色』の歯で命を落とし、4つ蹄はそれぞれ30人を殺した。それがこの馬がこのとき虐殺した数だ。ゆえにこう言い習わされることとなる。
「クーフランの大虐殺の後に、『マハの灰色』が走りぬけた勝利の道ほど鋭いものはこの世に無い」
 <鳥>たちがクーフランの肩にとまった。「常なら、その石に鳥たちはとまらない」
 ルガズはクーフランの髪を肩の上にまとめあげ、その首を切り落とした。 するとその時、クーフランの手から落ちた剣がルガズの右手を切り、その右手は地面の上に落ちた。その報復に、クーフランの右手が切り落とされた。
 ルガズとその大軍は、クーフランの首と右手と共にタラまで行進した。タラには、彼の首と右手を安置するさらし台と、彼の盾の土で出来た覆いが残されている**。

 彼らはタラから、リフィー川を南へ沿って進んだ。しかし、その間に、アルスターの大軍が彼らを攻撃せんと急いでいた。その先頭で、今か今かと走らせていた勝利のコナルは、血を流している『マハの灰色』に遭遇した。その姿に、コナルはクーフランがもう殺されたのだと悟った。彼は『マハの灰色』と共に、クーフランの亡骸を回収しに向かった。
 彼らは石柱にたたずむクーフランを見つけた。『マハの灰色』は主人の元へ寄って、クーフランの胸にその頭を横たえた。コナルが言った。
「その死体が、『マハの灰色』への、重い労わりだ」
 コナルは復讐をなそうとしている自軍に続いた。彼には、クーフランの復讐を果たす義務があったからだ。
 クーフランと勝利のコナルの間には友として誓約が交わされていた。どちらが先に殺されたにしろ、残されたもう一人がその復讐を遂げることを、彼らは約束していたのである。
「もしも、俺が先に殺されたら」クーフランが聞いた。
「どれだけ早く、俺の復讐を果たしてくれるんだ?」
「お前が殺されたその日がまだ明るいうちに」コナルは言う。
「俺はその日の晩がくる前にお前の復讐を果たすだろう。じゃぁ、もしも俺が殺されたら」コナルが聞いた。
「お前の方は、どれだけ早く、復讐してくれるんだ?」
「俺がお前の復讐を果たした時」クーフランは言う。
「お前の血はまだ大地の上で冷えてすらいないだろうさ」

 故に、コナルはリフィー川までルガズを追った。ルガズは水浴びをしていた。「平原をよく見張っておけ」彼は自身の御者に言った。「そうすれば、誰かがこちらに近くづくなら、必ず見えるはずだ」御者は周囲を見た。「一人の騎手がこちらに向かっている」彼は言った。
「かなり迅い。物凄い速さで、男はこちらに向かって来ている。見れば、あなたは、エーリウのワタリガラスたちみんなが彼の頭上にいるとお思いになるだろう。雪の欠片が、彼の行く手で平原に染みでも作っていると思われるやもしれない」
「来たる騎手は、歓迎されない」ルガズは言う。
「それは、『赤露』に乗った、勝利のコナルだ、お前が目にした頭上の鳥は、その馬の蹄から散った芝土だ。平原に白い染みをつくる雪の欠片は、馬が唇とくつわから飛ばすツバの泡だ。もう一度見るがいい。奴が来るのはどの道だ?」
「彼は、浅瀬へ向かっています」
 御者は答えた。「軍が通って来た道です」
「その馬には我々を通り過ぎてもらうとしよう」ルガズは言った。
「彼と戦いたくはない」
 しかし、コナルが浅瀬の中ほどに着いたとき、彼はルガズと御者を見つけだして近づいた。
「借主の顔は歓迎だ!」コナルは言った。
「負債を背負うものにたいして、貸主はその負債を清算するよう要求する。俺がお前たちの債権者だ」コナルは述べた。
「お前たちは我が友、クーフランを屠った。故に、ここで俺はお前たちを訴える」
 彼らは、アルゲトゥラスの平原で戦うことに合意した。コナルは槍を投げ、ルガズに手傷を負わせた。彼らは、フェルタ・ルグダハと世荒れる土地へ向かった。
「お前から正々堂々と、男の誠実さを得られたならと」ルガズは言う。「俺は願うよ」
「なんだそれは?」勝利のコナルが問うた。
「お前は俺と戦うなら片手のみを使うべきだ。俺には一つしか手がないのだから」
「お前に俺の誠実をあたえよう」勝利のコナルは言った。
 コナルは、ロープで片手を彼の脇に縛り付けた。その日の二人の証人の間で彼らは戦い、またどちらも優勢ではなかった。コナルが彼は優勢ではないことを悟った時、自分の戦馬、『赤露』が、ルガズのそばにいるのが見えた。
――そして、馬はルガズの元によって、彼の脇を引き裂いた。
「哀しきことだ」ルガズが言った。
「それは男の誠実とは言えぬぞコナル」
「俺は俺自身の誠実さのみを代表した」コナルは反論する。
「だが獰猛な獣たちや、分別のない生き物を代表してるわけではない」
「今わかった」ルガズは言った。
「お前は俺の首をとるまで、ここを去らないだろう。我々がクーフランの首を討ったのだから。持っていけ」ルガズは続けた。
「お前の首にに俺の首を、お前の領地に俺の領地を、お前の武器に俺の武器を付け加えるがいい。俺はお前がエーリウの最大の英雄となることを望む。それ故に」
 コナルはルガズの首を切り落とした。

 そしてコナルとアルスターの男たちはエウィン・ウァハまで戻った。その週、彼らの都入りは勝利の中にあるのではなかった。しかし、クーフランの魂はそこで、彼を愛した150の女王**の前に現れ、彼女たちは、魂となった戦車の中で彼がエウィン・ウァハを漂うのを見、彼がキリストの到来と最後の審判の日を告げる神秘の歌を口ずさむのを耳にした。



W. S
1874. 9. 25

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