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【ヘルスケア】行動経済学の枠組み①:人間の意思決定のクセ

前回に引き続き,今回の記事はこちらの書籍を基に書いています。

今回は医療現場における意思決定のクセ(陥りがちな意思決定時のバイアス)についてまとめます。

① プロスペクト理論(確実性効果と損失回避)

プロスペクト理論とは,リスクへの態度に関する人々の意思決定の特徴を示したものであり,確実性効果と損失回避という2つの特徴から成り立っています。

1)確実性効果

医療における意思決定の多くは,不確実性のもとでの意思決定です。

治療法 A が効果を発揮する確率:X%
副作用 B が発現する確率:Y% 

このような確率的な環境での意思決定をする際に,私たちの確率の認識そのものが,客観的な数字から少し異なっており,行動経済学では,客観的確率と主観的確率の間には乖離があると考えられています。

具体的には,確実に発生しないという 0% の状況から小さな確率で発生するという状況が生まれるときには,その確率を実際よりも高い確率で発生するように認識し,逆に,確実に生じるという 100% の状況から僅かにリスクが発生すると,確実性が大幅に低下したように感じているのです。

・ワクチンの予防接種の副作用が 1% の確率で発生する場合,1% という数字が客観的な事実よりも大きく感じる。
・80% の確率で成功する手術の場合,80%という数字が客観的な事実よりも低く感じる。

確実なものとわずかに不確実なものでは,確実なものを強く好む傾向があり,これを確実性効果と呼びます。

2)損失回避

何かを損失するケースにおいて,少しの損失でも大きく価値を失うと感じてしまい,利得よりも損失を大きく嫌うこと損失回避と呼びます。

現在の状況を参照点(基準)として,人はこの参照点を上回る利得と,それを下回る利得とでは,同じ幅の動きであっても損失を大きく嫌うとされており,同じ幅の利得と損失であれば,損失の方を 2 倍から 3 倍嫌うということが実験結果から示されています。

問 1:
A)コインを投げて表が出たら 2 万円もらえるが,裏が出ると何ももらえない。
B)確実に 1 万円もらう。
問 2:
C)コインを投げて表が出たら 2 万円を支払い,裏が出たら何も支払わない。
D)確実に 1 万円払う。
→ 問 1 では確実性を重視して B が選ばれやすいが,問 2 では損失を嫌って C が選ばれる傾向にある。

利得局面ではリスクがあるものよりも確実なものの方を好むというリスク回避的な傾向があるのに対し,損失局面では確実なものよりもリスクがあるものを好むというリスク愛好的な傾向があるのです。

3)フレーミング効果

確実性効果や損失回避を背景にして,同じ内容であっても表現方法が異なるだけで,人々の意思決定が異なることをフレーミング効果と呼びます。

以下の例では,損失を強調した B の表現の場合には,フレーミングによって死亡率という損失が強調されることで,損失回避行動が引き起こされやすくなります。

A)術後 1 ヶ月の生存率は 90% です。
B)術後 1 ヶ月の死亡率は 10% です。
→ A と B では内容は同じであるにもかかわらず,後者の場合には手術をすると答える人の割合が減ってしまう。

4)現状維持バイアス

現状を変更する方が望ましい場合でも,現状の維持を好む傾向のことを現状維持バイアスと呼びます。

現状を参照点としてみなして,そこから変更することを損失と感じる損失回避が発生していると考えられたり,現在の状態を保有していると感じて保有効果というものが働いていると考えることもできる。

保有効果とは,すでに所有しているものの価値を高く見積もり,ものを所有する前と後で,そのものに対する価値を変えてしまう特性のことを指します。

企業が無料で試供品を配布するのは,この保有効果を狙った販売戦略です。

同じ治療方法を続けたいという患者の意識も現状維持バイアスの一つなのです。

本日はここまで。次回に続きます。

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