【御都合主義的だからこそ】

こちらは白熊文芸部で読み上げた幕間久真の読書感想文です。『恋文の技術』のネタバレを含みますので、読後にこのnoteを閲覧することを推奨します

「こんな都合の良い文通があるわけないだろっ!!」と思わず、読んでる途中に思ってしまいました。

当書『恋文の技術』は、遠く離れた実験所に飛ばされた愛すべき捻くれ者、主人公守田一郎が文通武者修行として京都の個性激強な仲間たちに手紙を送りまくる日常を、書簡体で描いた作品です。

タイトルだけ見た時、恋愛小説なんて久々に読むなぁなんて考えていたけれど、蓋を開けてみれば、ギャグてんこ盛りなドタバタな日常が次々に手紙として頭に流れ込んできて、何だこれは!?となりつつ、改めて作者を確認して納得したのを覚えています。
一つ一つのエピソードが色濃くさらに子気味よく展開されていき、読んでいてクスッと笑ってしまうような場面も多々あり、読む手が止まらなかったです。

当書の好きな点を挙げろと言われたら、いくつもありすぎて膨大な文章を書き連ねることは免れないのですが、その上で強いて挙げるなら3点、書簡体ならではのオチの付け方、ラストに向かうまでの怒涛の畳み掛け、恐らく人生でこんなにもおっぱいという文字を読むことはないだろうと言う程の頻出するおっぱい、この3つが僕が好きな当書の魅力です。

一つ目、書簡体で物語が進んでいく当書は終わりに毎回

〇〇
守田一郎

〇〇
〇〇様

のように書かれます。匆々頓首守田一郎とだけ書かれていることもあれば、おっぱいの絶対性を否定する会代表・守田一郎なんて書いてあることもある。
どれもその手紙の内容に沿ったものとなっており、妹に対しては兄とだけ書いていたり、小学四年生のまみやくんという男の子には、もりたいちろうとひらがなで書かれていたり。
今回の手紙の総括、と言わんばかりの締めくくりはだんだんとクセになり、読み進める手が止まらなくなった原因は絶対にコイツのせいだと思います。

二つ目、今まで読んだ全てを駆け抜けていく爽快感マックスのラストは、是非自分の目で見てくれ!頼む!と言いたくなるくらい良かったです。
伏線回収でもなく、大どんでん返しでもない、ただひたすらに今までの過程を振り返っていくというそれだけの描写が、あぁ、この物語は終わるんだなぁと儚さを感じさせ、大きな感動に変わっていく瞬間がたまらなく好きです。

三つ目、そんな中でどうしてこんなにも自分はおっぱいと読まされているんだろう、というあまりの理不尽さに頭がいっぱいになったのも、読み終えた後では良い想い出です。頭がおっぱいでいっぱいにされてしまいました。

この作品は僕に、「こんな都合の良い文通があるわけないだろっ!!」と、思わず読んでる途中に思わせました。
主人公が手紙を送った研究仲間の男が恋した女性が、学生時代お世話になった作家の先輩と知り合いだったり、小学四年生のまみやくんの家庭教師になったり、その全員とたまたま主人公が文通をしているだなんて、いくらなんでもそんな事はないだろう!と。
当書の一文に、「森見さんの小説は御都合主義的すぎます。」と自虐的に書かれていますが、全くその通りです。

ですが、そんな御都合主義的な展開でなければ、そうであるからこそ、この作品は僕に笑いと感動と、おっぱいの深い知見を与えてくれる素晴らしい作品になったんだと思います。

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