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小説_『仕事始め』

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今日は電車の席が空いている。
電車がホームに到着したときにぼくは気づいた。
いつもなら満員電車だ。違和感を覚えながら乗り込んだ。

今日は仕事始めだ。年末からの9連休明け。

昨日は早めに寝ようと思って22時ごろに布団に入った。
でも結局、寝たのは3時だ。3時間しか寝ていない。

連休中は夜更かしばかりしていたから、それが身体に馴染んでいた。
もしかするとぼくは肉食動物と同じように夜行性なのかもしれない。

通勤の電車で座れたのは久しぶりだった。
これだけ乗っている人が少ないから、連休中の人も多いのだろう。

少ないにしても電車にはサラリーマンらしき人が乗っている。
みんな暗い表情にみえる。
まるで、行きたくない場所に向かっているようだ。
行き先は全て自分で決めているはずなのに。

ぼくは朝の電車が嫌いだ。
みんな不幸せそうな表情をしている。

ぼくは仕事始めの朝の挨拶をどうしようか考えた。
「おはようございます」の代わりに「明けましておめでとうございます」を使ったほうがいいのだろうか。
うん、そうしよう。

電車に乗った1時間後に会社に着いた。
頭が良く回っていない。
今日はいつもより早く出社したから、人が少なかった。
出勤している上司に軽く年始の挨拶を済ませ席に着いた。

カバンから手帳を2冊取り出す。
いつも2冊じゃない。
去年の手帳と今年の手帳だ。
去年の書き込みから大事な内容だけを今年の手帳に書き写す。
毎年行なっているぼくのルーティーンだ。

本当は家でしてくるつもりだったが、その気になれなかった。
あまり家で仕事のことを考えたくなかったのだ。
別に仕事が嫌いなわけではない。でも好きでもない。
できることなら今日も家で寝ていたかった。

人生は一度きりだと言う。
もしそれが本当だとしたら、こんなところで仕事の計画を立てている場合では無い。

しかし、ほとんどの人間が会社に出勤し、命の単位である時間を削っていく。

手帳には3年後までの目標を書き込む欄があった。
3年後のぼくは何をしているのか、そんなことは分からない。

ぼくは1年後の目標のところだけに書き込みをした。

「いまの仕事を辞める」

一年の始まりを感じながら、ものすごく前に進んだような気がした。

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