「プラネテス」 ロックスミスという技術者
はじめに
さて、「プラネテス」というSFマンガがあります。幸村(ゆきむら)誠さんの作品で、モーニングで1999年〜2004年に連載されています。連載中の2003年から NHK でアニメ化され、私はそれをリアルタイムで見ています。面白かったので、すぐに原作マンガも読みました。
作品概要
2075年の宇宙開発の話。地球の軌道では沢山の構造物があり、月に定住して月生まれの子供が大きくなっている時代。火星へは何度も行き来をしていて開拓が始まり、木星圏往還機の開発をしている、という時代背景。主人公のハチマキは、衛星軌道上のスペース・デブリを回収する宇宙の掃除屋という設定です。会社には様々な事情を持った人が集まり、それぞれに物語があるという作品です。
ロックスミス博士とは?
作品はそう長いものではないですから、是非漫画原作を読んで頂きたいと思いますし、もう20年以上前の作品なので、今更紹介をして広く読んで頂こうという感じでもありません。もちろん名作なので話は面白いのですが、未だにある人物について、ふと考えることがあります。引っかかるのです。それが「ロックスミス博士」です。
2075年には、核融合エンジンが実用化されており、実際に火星探査/開発には使われています。そして、木星圏との往還には次世代核融合エンジンである「タンデムミラー核融合ロケットエンジン」の開発が行われています。その開発責任者が、彼 ロックスミス博士です。
wiki からの引き書きは、以下。
ロックスミスというエンジニア
まあ、物騒な代物です。エンジンの臨界/限界試験を行った際に、「ぶっ壊す勢いで限界を調べて」と指示をし、実際に爆発事故を起こしています。上記画像は月面のラボなので、その爆発規模もわかると思います(月の半径は約1700kmなので、少なくとも半径10kmぐらいは吹き飛んでいそう)。400名弱が犠牲になった様子。
事故後の記者会見でのセリフが、これ。
その後も開発を続け、木星往還船は完成するのですが、ロックスミス博士はそのまま開発に携わります。また、この船は「フォン・ブラウン」と言い、恐らく彼のモデルとなった人物は、ロケット技師 ヴェルナー・フォン・ブラウン と思われます。フォン・ブラウンはナチスドイツ時代にV2ロケットを開発していた人物で、戦後アメリカが機材と共に要員も連れて帰り、アメリカで宇宙開発を続けることになります。20年後にサターン5型ロケットをつくり、月に人類を送り込んだのは、このフォン・ブラウンです。
否定的な意見と別の反応
自分の責任/指示で進めていた開発で、400人弱の死者を出していることに対して、「良いデータが取れた」という人物はどうなのよ?という意見が当然あります。遺族にも謝らず、責任を取って辞任もせず、危険だからと開発を中断もせず、黙々と開発を続けているのです。確かに、悪魔っぽい。
が、作中の火星へ5往復した伝説的な機関士は「ああいう、悪魔のような男は、いい仕事をする」と、木製往還船に自ら志願します。その意見も分かる。実際フォン・ブラウンはV2ロケットでロンドン市民を大勢を殺している訳ですが、ロケット開発さえできれば良い、と思っていた様です。
自分がロックスミスの立場なら?
幸い、今まで兵器を作る仕事はしてませんし、試験の失敗で人が怪我をすることもありませんでした。
しかし、厳しい開発もあり、色々無理を言った時もあり、PJ から外したことも、会社からの引導を渡したこともありました。チームの和よりも、製品開発を優先させたということです。その点では、自分もロックスミス的な部分があるのかも?と思います。生き死にほど厳しくなくても、やはり良い製品を作るには「悪魔」の部分も必要なのかな、と思う訳です。
上司として
スケジュールの強要/仕事のダメ出し/コードレビューでの厳しい指摘同僚として
同じレベルで働け!/出来るまでやろう/予定死守部下として
上司の設計批判/こんなんじゃ駄目だ!とちゃぶ台返し
自分がタンデムミラーエンジンを作ることになったら、ロックスミスの様に振る舞えるのかは、永遠の問だなあと思います。ま、そんな才能がなくて、良かったですが。
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