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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2021年5月の記事一覧

『星が降る 閃きが降る』

『星が降る 閃きが降る』

星が降る

閃きが降る

星が散る

閃きも散る

真夜中になると

とくに週末は

いい意味で

気がそぞろになって

タイピングが

滑らかになる

それは嘘でほんとうは

閃きに指が追い付かない

運指っていうんだっけ

鍵盤楽器を習うとき専用の言葉

だけど散文詩にも必要なんだな

運指の技術

星が降る

閃きが降る

星が散る

閃きも散る

筆でさらさら

とってもそんなことでは

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『この散文を読んでいるあなたへ』

『この散文を読んでいるあなたへ』

この散文を読んでいるあなたへ

この散文を読んでいるあなたには

まずもって伝わらないと思いますが

この文章を私は

まだ四歳にも満たない息子の

タイピングの練習のために

口述しています

一言一句

私の言うことを

聞き漏らさず

私も

同じフレーズは二度と言いません

聴こえたままに

タイプして

この文章が

いま

綴られています

ほんとうです

息子も

ほんとうだと言って

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『持て余して』

『持て余して』

子供たちは巣立ち

妻には先立たれて

独り身には広すぎる家と

定年後の有り余る時間を

男は持て余していた

これといって趣味はなく

酒だけが生きがい

明け方に鳴いている

カラスの声さえいとおしい

いっぽうで

自宅の隣にある総合病院

昼夜を問わず駆け込む救急車のサイレンには

正直うんざりしていた

酒の勢いを借りて

うるせえと怒鳴ったこともあったが

当然届くはずもなく

持て

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『係長「ぅゔぃ1番かるぁ本日の行動ぅ計画ぇ
!」』

『係長「ぅゔぃ1番かるぁ本日の行動ぅ計画ぇ !」』

※1 商談の約束を取り付けている顧客のこと

※2 電話をかけること(もちろんかけるだけじゃ終わらないよ)

AM5:00 とある雑居ビルのオフィスにて

係長「んぐああーぁM月D日の朝礼を始みぇるぇ!」

一同「ヴぃす!」

係長「ぅゔぃ1番かるぁ本日の行動ぅ計画ぇ!」

1番「Todayは正午までに既アポ(※1)の訪問5件!うち契約5件を誓いまして午後はプッシュアポイントの架電(※2)200件

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『頼まれてしまった』

『頼まれてしまった』

灰皿から溢れた吸い殻が雨水を含んで

異様に膨れているのが滑稽

傘を差しながら煙草を燻らす

透明のビニール傘に煙が充満する

同僚の気になっているコ

ランチ帰りなのか俺の目の前を横切っていく

仲間との会話に夢中なようで

俺になど気づく様子は微塵もない

だからといってオフィスでも

俺のことなど気に留めることはない

席に腰を下ろすか下ろさないかのところで

上司から呼び出しがあった

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『「ねぇあなた、踊りましょうよ」』

『「ねぇあなた、踊りましょうよ」』

時計の針が二本とも

まんなかを越えた

「ねぇあなた、踊りましょうよ」

妖艶な

イイ女

断り切れるはずがない

踊り方など知らないが

「ねぇあなた、リクエストは?」

俺にその答えを求めるのは酷だ

それを知っていて曲を尋ねてくる

革靴の底は擦り減っていて

まるでダンスなど似つかわしくない

そもそも居抜きで造られた“うなぎの寝床”の店

ステップを踏む余裕などないだろうと

素人の

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『ガードレールの痕跡は未だに残っていて』

『ガードレールの痕跡は未だに残っていて』

父の一周忌は母と姉と僕の三人だけで

ほんとうに軽く済ませた

当たり前だけど

ガードレールの痕跡は未だに残っていて

沿道の紫陽花は一年前と同じように

深く色付いている

「俺は出ていくからな、家なんてくれてやるからお前らも好きにしろ」

恐らくはオンナのところに行くつもりだったのだろう

あの風体からは想像できないが

意外な一面があるもんだと

妙に感心した

妻と

娘と

息子を置い

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『同い年の妻にこの顛末を話したら』

『同い年の妻にこの顛末を話したら』

「だからさぁ、おかしいでしょ?こんなにアタリが出ないなんて」

「そんなもんですよぉ…」

「舐めんなよ!?駄菓子屋のクジだって、こっちは真剣なんだよ!」

「あのですねぇお客様…」

「こっちはいくら懸けたと思ってんの?」

「こちらも商売なものでね…」

「ごちゃごちゃいいからアタリを出せ!消しゴム要らん!ヨーヨーを出せ!」

「ていうかお客さん、駄菓子屋のこと知らんの!?」

「なんだよ、初

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『塵人』

『塵人』

青白い炎が数歩先に見える以外は

まったくの暗闇

足元はスニーカーのソールがきゅっきゅと鳴るから

ワックスの塗られた体育館のような場所なのか

近づいてみると電気で光っているフェイクの蝋燭

胸元くらいの高さがある金属製の燭台に載っている

せめてこれが取り外せたらと思い

床を這いつくばってみた

電源ケーブルの挿入口はすぐ足元の床に埋め込まれていて

つまり蝋燭というかランプは移動できない

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『 いやそれは困る。武田(@frkz_shingen)』

『 いやそれは困る。武田(@frkz_shingen)』

Nobunaga @korosuzohototogisu

@jipangufukyo いやそれは困る。武田(@frkz_shingen)もうこっち来るから長篠に間に合わんやんけ。なる急いで!シャムあたりまで迎えに行くしな!

Zabieru @jipangufukyo

@korosuzohototogisu わかりみがエグいんだが、まじすまん。これだけはしゃあないねん、喜望峰あたりの嵐ヤバく

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『外出先で豪雨に遭い』

『外出先で豪雨に遭い』

めったにレシートはもらわないし

仮にいきおい受け取ったとしても

”不要レシート箱”かゴミ箱に放り込むから

印字してある内容なんて読んだこともなかった

天気予報にはまるで興味がない

こういえば恰好がつくけど

単にずぼらなだけだ

だからきょうも例によって

外出先で豪雨に遭い

これまた柄にもなく急ぎなもので

コンビニで傘を調達する羽目になった

店頭に並べてある売り物の一本を引き抜い

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『地獄マンです』

『地獄マンです』

ぼくのしょうらいのゆめは

地獄マンです

地獄は悪人がいっぱいいってて

ちあんがわるいのです

昔はそうでもなかったけど

いますごく悪くなっています

地獄ニュースでききました

だからぼくはおとなになったら

しぬまえに地獄で

地獄マンになって

そんじょそこいらの地獄の

あくにんをやっつけたいです

地獄ではたらいてる人も

あんまり良くないみたいです

きゅうりょうが安いせいです

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『なお偶然にも日曜の夕方だったとのこと』

『なお偶然にも日曜の夕方だったとのこと』

「俺だよ!俺がやったんだよ!」

「ようやく観念したか」

「うぅ…俺…なんてことを…」

「愚かだったな」

取調室の小さな窓には

西日が差し込んでいる

人々を恐怖で震えさせた

連続殺人事件

手口は毎回同じ

月に一度のペースで

被害者は両手で数えるほど

日本全国

津々浦々に

捜査は困難を極め

容疑者を絞ったあとも

取り調べは長きに渡った

そんな事件も

ようやく終焉を迎え

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『「常温に戻ってるなら、やっちゃって」』

「先生、そろそろ解凍しておきますか?」

「そうだな、今から出しといたら明日の朝には…」

働き手が不足している仕事ほど

若者たちはやりたがらない

集まらない

抗えない高齢化の波がどこもかしこも

「先生、できましたね」

「ふぅ…できた」

「さっそく被験体に射しますか?」

「常温に戻ってるなら、やっちゃって」

だったら

惜しまれつつも若くして亡くなった者たちを

"カラダと脳の一部

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