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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2021年4月の記事一覧

『内容にインテリジェンスそのものが欠けている』

『内容にインテリジェンスそのものが欠けている』

やっと日記帳を手にすることができた

しかし綴られているのは

ほんの60時間



悪い癖だ

2日と半日分だけ

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A月1日

疲れが残っていたから昼近くまで眠っていた

食欲もさほど沸かなかったから

コーヒーを啜るだけにしておいた

暫く閉めっきりだった部屋のいくつかを全開にする

風が心地良い

友人へ電話をかける

急に何の用だと問われ答えに詰まった

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『ニューヨークチーズケーキ?』

『ニューヨークチーズケーキ?』

脱サラをして

縁もゆかりもない街の古民家を買って

リノベーション

念願のカフェを開いてみた

嫁さんには

婚約時から話してあった

そして新婚早々

案外すんなりと

俺の夢は叶った

店舗のつくりや

食材の準備と並行して

地元のFM局だったり

情報誌だったりに

売り込みにいって

告知をしてもらった

目玉はニューヨークチーズケーキ

おかげで初動は順調

まずは公共の媒体を使っ

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『あんまり変わらない』

『あんまり変わらない』

わりと長く液晶画面を睨み続けたから

目薬を点した

頭痛も辛くなってきたから

ちょっとストレッチをして

それから鎮痛剤を流し込んだ

お昼は簡単に済ませよう

あぁ冷凍のタコ焼きがあった

タコ焼きって…ねぇ…

午前中の会議で各自に割り当てられたタスク

自分はチームのなかでも軽いものだったから

少し肩の荷が下りていた

そのせいもあってか

ビニールのプチ袋に入ったソースを

ラグにこ

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『うまい』

『うまい』

しんしんと雪が降る

身体は芯まで冷えて

一杯のインスタントラーメンが

染み入るほどに暖かく

うまい

雪は融け

桜が舞い

安堵と喉の渇きを覚える

一杯の缶ビールが

染み入るほどに心地よく

うまい

あぁもうすぐ梅雨がくるのか

雨を凌ぐ面倒を想像すると

鬱屈した気分になる

だが仕方ない

それもこれもすべて

各種メディアに取り上げられて

今では日本中

その名を知らぬもの

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『「究極のデザインとユーザビリティ、そして、』

『「究極のデザインとユーザビリティ、そして、』

新しい商品やサービスについて

消費者目線の意見や感想を企業に伝える

モニターアンケート

謝礼が貰えるのはもちろんだけど

新しモノ好きだったり

ときには同年代の方々とおしゃべりできたりと

楽しみが多いので

ワタシは時折り参加します

人気があるモニターや

ターゲット層から外れる場合には

応募しても不採用というのも結構ありますけど

ただ今回当選のお知らせが届いたのは

応募した記憶

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『あっかんべー』

『あっかんべー』

アイダ君は

怠け者だった

ちょっとだけ昔の話をしよう

暑い季節の

夏休みの自由研究とかいうやつ

みんな経験があると思う

アイダ君はもちろんそんなのやって来ない

9月ももう2週目に差し掛かるというのに

理科の先生が催促しても

「昨日やろうと思ったんですけど、文具屋が休みで」

模造紙とカラーペンが買えなかったというのだ

じゃあしょうがないな

とはならず

「何を調べてるんだ」

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『イケメンすぎるという理由で』

『イケメンすぎるという理由で』

イケメンすぎるという理由で

高校ではいじめられていた

男友達からの妬みはもちろんのこと

女子からも

なんだか気に喰わない

整いすぎって

馬鹿にされるわけ



登校すれば

靴箱には大量のファンレターと見せかけた

不幸の手紙

机が廊下に出されてるのなんて

日常茶飯事

教師も見て見ぬふりをする

悔しいから

そのまま一日廊下で過ごしたこともある

進学はしたいから

しっかり

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『ダテにグルメを何年も』

『ダテにグルメを何年も』

乾杯はスパークリングワインに限る

あぁ

染み入る

休日の昼

これは堪らないよね

給仕の声はよく聞き取れなかったが

前菜は

なんとかのパテ

うん

彼女の目はうきうきしていて

幸せそうだ

スープが運ばれてくる

クリームが上等であることは嗅覚だけで分かる

ダテにグルメを何年もやってない

次に来る魚介に備えて

ワインをいただこうか

おっとカマスなのか

それだったら


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『指先の乾燥が気になることくらいで』

『指先の乾燥が気になることくらいで』

もう20年以上も前のことだから

話してもいいかな

学生時代のアルバイトの話

楽で給料のいいやつっていう

一点張りで探してた

「資料整理」

少しくらい脳みそを使うのは苦ではないし

汗をかくよりはいいかと思って

まずは応募してみた

平たく言えば

シュレッダー係だった

飄々とした印象(らしい)の俺は

すぐに採用された

都会の雑居ビルの小さなオフィス

毎日

毎日

どこからか

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『淡い期待』

『淡い期待』

禿げてる

そこもちょっとかわいい

しゅっとした背筋が魅力的

年齢は調査済

私より3つも年下

つまりまだ

20代ってこと

勤め先は一流企業

今週はだいぶ忙しかったみたいで

毎日けっこう遅い帰宅だった

だから

土曜の今朝はゆっくり

寝起き姿そのままで

コンビニに向かうんだよね

いつもの焼うどんとミルクティーね

たまには作ってあげようか

それ食べ終わったら

ジョギングに

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『玻璃乃玉(はりのたま)』

『玻璃乃玉(はりのたま)』

遠目には猪口かと思ったが

どうやらそうではない

国指定重要文化財

玻璃乃玉(はりのたま)

ほぅ

ごく薄いガラス素材の球体

同じようにガラスで作られた

ワイングラスや花瓶と連なっているものの

直径およそ5センチほどの

その透明な工芸品は

重要文化財だけに

ひときわスペースを取って

展示されている

私はとくにガラス細工に造詣が深いわけでなく

友人に連れられて休日に付き合って

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『ぱぱかつ』

『ぱぱかつ』

吐き気がした

本人の前では

必死でそれを堪えてた

きっかけは

お金の問題ではなくて

言い訳かも知れないけど

ワタシなりに

理由はあった

好奇心と

大きな欲求が

ワタシをその方向へ

突き動かした

それってワガママかな

母親はこないだ出て行った

つまり

ワタシを棄てた

もともと

逞しく生きるようにできているワタシでも

耐えられない夜があった

泣き腫れて

朝を迎え

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『煮えたぎらせた菜種油を』

『煮えたぎらせた菜種油を』

なんと攻め入られることの多い城か

城壁の上から

煮えたぎらせた菜種油を

杓子で掬っては

寄せてくる敵兵に浴びせ

殺傷とはいかずとも

戦意喪失

撤退を促す日々

忠心などない

傭兵である

さりとて

武術剣術に優れているわけでもなし

兵法采配の心得もない我

商人の息子

ただそれだけで

父の持つ蔵から

菜種油を運び込み

煮えたぎらせて

撒く仕事

元来

商才のあるもの

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『ゆめうつつ』

『ゆめうつつ』

季節外れの台風が列島を襲い

残り少ない桜の花びらをこれでもかと毟り取る

起きるか

書店でタイトルに魅かれて偶然手に取ったら

もう半年も前に購入済だった文庫本

窯焼きのナポリ風ピザが卓に置かれた

注文したのはシンプルなマルゲリータ

自転車をどこに置いたかすっかり忘れ

駐輪場の係に尋ねたら168番

立て替えた諸費用の領収書で財布がパンパンに膨らんでいて

月を跨がないうちに精算の申請

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