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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2020年8月の記事一覧

『モモとリンゴとカボチャを三角トレードする』

『モモとリンゴとカボチャを三角トレードする』

モモとリンゴとカボチャを三角トレードすると割と滑稽しかし面倒

童話のなかに限っても、洋の東西を越えて色々起こる

モモ太郎はリンゴ太郎になるので、まず岡山県じゃなく青森県出身という話になるし、歯槽膿漏の鬼たちはたまったもんじゃない

白雪姫の魔女ばあさんはカボチャの煮付けを差し出してきて、一機に和テイストが強くなおかつ大変リアルな描写になる

シンデレラは当然モモの馬車になるから、傷まないように

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『ロボトミーにあげるひゃくまんえん』

『ロボトミーにあげるひゃくまんえん』

科学系の大臣「博士呼び出したのはさ、急いでロボトミー作ってほしいわけ。設備とかはこっちで全部用意してある。あとは人材選びなのよね。これが大変で」

科学系の博士「だろうね」

大「でもあらかた候補は絞ってあって、そこに二人立たせてるんだけど、カネ積めばなんとかなるかな?」

博「あ、この二人が候補?んならかんたん。カネいらないよタダでいけるし」

大「マジ?」

博「マジ。ねえAくん、キミをいまか

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『あまり知られていない』

『あまり知られていない』

もう元号がふたつみっつ前、東日本のとある地方の、これといった産業のない寒村での話。

村は渓谷に挟まれる形を成していて、まんなかにちょっとした川が流れる。両岸に集落があり、誰が名づけたか、右岸が赤、左岸が黒と呼ばれていた。

どの地方のどの村でもそうかと思うが、例に漏れず年に一度、祭があって。奇祭に分類されるのだろうか。メイン会場となる神社の境内にはちょっとした舞台がこさえられ、勝ち負けこそないも

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『宇宙のせいだ』

『宇宙のせいだ』

天文台は素晴らしい

素晴らしいものを見せてくれる

三十光年離れた星を望遠鏡で覗いてみたら

黒髪ワンレンボディコンギャルが踊っていた

その隣の

二十光年離れた星も覗いてみた

そしたら

茶髪のガングロギャルたちがパラパラを踊っていた

調子にのって

望遠鏡から目を離し

横を向いてみた

ギャルどころか女の子なんているわけないし

そりゃそうだ

しょうがない

ホームセンターへ寄って

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『やんわりとふんわりと』

『やんわりとふんわりと』

いま夢で見た話を書きとめておこうと思うものの

エアコンの風と

夢の余韻があまりに心地よくて

身体はうごかずに

またそのまま眠りの海に入水する

明るくなって

いよいよ起きたあと

あの書きとめようと思っていたストーリーは原型をとどめていなくて

わたあめの如くやんわりと

自分を囲んでくれている

鉄道の錆びたレールに目を落とす頃にはもう

午前中に提出しないとねちねち言われるあれの構成

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『願い事』

『願い事』

どんなことでもひとつだけ、願い事が叶うなら

みなさんは何をお願いしますか?

「お金持ちになりたい」

なるほど

「めちゃめちゃモテたい」

ほう

「世界から戦争や差別、いじめがなくなりますように」

えらいね

「ランボルギーニ・ムルシエラゴが欲しい」

言いたかっただけ

私の場合はこうです

「どんな無茶な願い事も自分が叶えようと思えば実現する能力がほしい」

さてここからが問題でして

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『時間がない人のための共通試験』

『時間がない人のための共通試験』

Hi, Tom! I'm Hiroko.

二酸化マンガンに過酸化水素水を加えられたときの

点Pの気持ちを考えなさい。

※ただし貿易摩擦は一切考慮しないものとする

『digibaum』

『digibaum』

某ビジネススタートアップ専門サイトの特集記事より一部抜粋。

株式会社ヒューマンマネージメント代表取締役兼CEOのグロリア氏(27)に向けたインタビュー。

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ーいまや飛ぶ鳥を落とす勢いのdigibaum(デジバウム)ですね。

おかげさまで。

ーもはや説明は不要ではありますが、念のため読者の方々にサービスをご紹介ください。

digibaumは、その名のとおり仮想空

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『鐘の鳴るほうへ』

『鐘の鳴るほうへ』

教会は街の中心にあり鐘は陽の差している間、毎時に鳴る

山あいの斜面に住む羊飼いたちは、いつもそれに悩まされる

鐘が鳴ると放牧している羊はすべて、その方向へ突き進んでしまうから

もちろん牧草地を囲う柵を越えることはしないけども

小屋からだいぶ遠ざかり、引き戻すのに大変骨が折れる

街は緑豊かな渓谷に挟まれていて斜面には、多くの羊飼いが住む

彼らは皆ひとしく教会の鐘に悩まされる

正午のそれ

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『道交法のほうで』

『道交法のほうで』

タイヤなど一部の製品を除いて

すべてが透明な素材でつくられたクルマが発売された

そこそこの値段はするが

趣味のいい?わるい?

オトナには受けがよかった

とある小金持ちが幸運にも第一号の購入者となり

そこいらを乗り回していた

全裸で

運転

いわずもがな

当局のご厄介に

理由は

ビーチサンダルで運転していたから

危険だと

『ひらべったい』

『ひらべったい』

友人の家に行って驚いたことがある

ひらべったい

テレビがひらべったい

うちのは四角い

あと

ビデオがビデオじゃない

テープ入れないでいいみたい

うちのはカセットのでかいやつ

知らなかったけど

とうの昔に変わったそうだ

むしろ驚かれた

帰って即

親父に報告

だって

あのひらべったいテレビ

すごく

すごく

きれいに見えた

そう言って

親父に懇願

「あのなあ」

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『八時にはウチに』

『八時にはウチに』

会社とは逆方向の電車に乗り

二つ先の駅で降りる

そこから歩いて五分ほどで

先輩のアパートに着く

一度や二度のチャイムでは

先輩は起きてこない

電話をかける

十数回のコールでようやく

うっとおしそうに

なんとか

それからだいたい十五分は待ち

先輩はスーツ姿で玄関の扉を開ける

「おはようございます」

幸い先輩の最寄駅からは始発がある

僕は早足で少し先を行き

ホームの列に並

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『しゃかりきコロンブス』

『しゃかりきコロンブス』

「ねぇパパ、しゃかりきコロンブスって何?」

そんな言葉を五歳が知っているわけもなく

どこで仕入れてきたんだろうと疑問に思っていたら

どうやら妻の仕業だった

家事の合間につい口ずさんだところを

問われたらしい

意味はパパに聞いてって言われたと

なんとも困ったもので

俺だってしゃかりきコロンブスの意味なんて

知ってるわけないじゃないか

当時俺も親に聞いたっけな

どうだったかな

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『大皿が置かれると』

『大皿が置かれると』

盆暮れに親戚が大挙して押し寄せると

一人っ子の僕はいつも萎縮した

とりわけ食事の際には困ったものだった

あるとき

4人兄弟のいとこは

それぞれ国旗のついた爪楊枝を持参して

揚げ物でも

くだものでも

まずは食卓に大皿が置かれると

我さきに自分の旗を立てていった

僕は旗を持っていないせいで

ほうれん草のおひたしやら

切り干し大根やら

そんな脇役にしか箸が伸ばせず

その日は悲

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