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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2020年5月の記事一覧

『意味はフランス語で虹』

『意味はフランス語で虹』

アラフォーなんでね。青春時代はビジュアル系全盛期だったんですよ。

ルナシーとかグレイとか。

で、同級生どうしが17のときくっついて。案の定デキ婚なわけなんだが。

長男に、「らるく」ってつけたんだよね。漢字は忘れた。

翌年すぐに二人目ができて、女の子だったかな。「あん」ちゃん。

しばらくその後夫妻とは会っていなかったし連絡も取ってなかった。

で、ついこないだ、地元に帰ったときに夫妻に遭遇

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『越境バス』

『越境バス』

ガイドブックによると日に一本しか出ていないという国境越えのバス

それがちょうどターミナルに停車しているところを見かけ、慌てて飛び乗った

車体に隣国の国旗が大きく描かれていたので間違いないだろう

僕が乗車するとすぐにドアが閉まり、出発した

とりあえず空いていた最前列に腰をおろす

乗客は、後部座席から順に詰め込まれて、現地の男性らが二十数人程

よくみるとそのなかに、僕と同じ日本人の女性がひ

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『注意』

『注意』

プロ野球選手のレベルになりますと、フォームがかっちりと完璧に

ほぼ寸分たがわずに毎回同じですから

たとえばオーバースローこれは一般的な投げ方

の人に

アンダースローでいまからやってくれといっても

試合ではやってくれません

そもそもやってくれと言いに行くのもSNSだと相手にされませんし

実際に現場に行って提言するのは警備員や係の人にとめられます

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『サム』

『サム』

超絶有能新人君が職場にきて、そろそろ三か月くらいか

わが営業管理部の生産性は、これまでのおおよそ十倍となった

管理者である私も彼の本名がうろおぼえで

なんとかいったな

とにかく、そうそうめずらしくない名前だ

月が替わると、私と七人の部下総出で

売上を足し

経費を引き

利益を算出していた

彼が入社するまでは

ところが、彼の登場とともに、そんな作業は瞬く間に終わり

月次決算業務は

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『eigakan』

『eigakan』

人間は歳を重ねると、皆

多かれ少なかれ懐古を嗜む

楽しかったこと

苦しかったこと

あの人のこと

あの場所のこと

フィルムに映して観てみたい

そういう願いを

叶えてくれる場所がある

栄華館

あなたの思い出を丁寧にききとり

美しく飾り

色を塗ってフィルムにしてくれる

それを古き良き映写機で

まわしてもらって

貸し切りの劇場で

ひとり懐かしむ

オリジナル自分史映画館

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『灰皿』

山の中腹を切り開いて、新興住宅地ができた

建売一軒家が八世帯だけ並ぶ

あるとき、Tさん宅が火を出した

原因はTさん自身の寝タバコらしい

消防が来る前に、火の手がまわってすべて焼けた

しかし幸いにも、死人もけが人も出ることなく鎮火した

それと、隣接する家には被害は及ばなかった

Tさんは四人家族で、奥さんと中学生、小学生のお子さんをもつ

妻子を里に帰し、亭主は山を下りた安アパートに居を

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『伝説のオーレ』

伝説のアルペンスキーヤー、オーレは、ほんとうは夏が好き

幼少期からまいにちまいにち、スキー漬けの日々を過ごした

とはいえ北国でも、夏は青々としたグラスの上を滑る

感じる風が心地よい

オーレは世界を五回も制した無敵のおとこ

でもほんとうは夏が好き

勝負の季節は、顔に刺さる風が痛い

金メダルは嬉しい

でももっと、鮮やかな色を感じていたい

もうオーレも四十を超える

冬の風は、いらない

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『おっさんら ~枕元で~』

『おっさんら ~枕元で~』

口が渇いて目が覚めた
デジタル時計の表示は4:39

身長が恐らく百六十もないおっさんがひとり
清潔感のあるいでたち

またそのうしろにもう少しだけ背の高いおっさんがひとり
これまたこざっぱりした身なり

あわせてふたり

ふたりのおっさんらが用もないのにアタシの寝室に侵入してきたようで

あぁ別に驚かないよ
驚かないよアタシは
幽霊じゃないのも知ってる
生きた人間だろどうせ

ただそういうのがい

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