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建築事務所のいろいろ_有給

しばらく書かないうちに夏は終わり、ニューヨークはすっかり秋めいてしまった。ここのところ仕事が少し忙しい。明日からの出張の準備と、チームメイトのドイツ人が10日間の休暇でいなかったため、その分自分の仕事量が少し増えたからだった。

アメリカでは日本の正月やお盆、ゴールデンウイークのようにまとまった祭日はない。クリスマスでも12月25日だけ、正月は1月1日だけが祭日だ。他の祭日も日本と比べるとかなり少ない。
だから仕事の状況をみて、それぞれ好きな時に休みをとる。
私のBIGでの今年の休みは、有給が15日、あとは締め切りごとに代休を1日か2日もらえる。それに加えて去年使わなかった有給が数日ある。それからクリスマスから正月にかけて1週間事務所がクローズするので、祭日の他に、合計25日ほどの”PAID VACATION"すなわち有給休暇がある。年末の休みは特にありがたい。クリスマスから正月のまとまった休みはアメリカでは一般的でないが、BIGヨーロッパ事務所がクローズのため、ニューヨーク事務所もそれにあやかっている感じだ。大晦日まで仕事をするのは、日本人としてどうもしっくりこないのだ。
今年は春、日本に2週間半帰国し、夏に数日休みをとった。そして来月10日間ほどアメリカを出ようと思う。残りは、オリンピックを是非日本でテレビ観戦したいので、来年まで使わずにとっておこう。

これでもヨーロッパの方は「少ない!」と言うかもしれないが、私にしてみるとBIGの休みの条件は悪くない。というか、黒川紀章事務所、スティーブンホール事務所と来てからのBIGであり、有給などの働く条件は、今までで一番いいと断言できる。

スティーブン・ホール事務所での1年目は、有給がたった5日だった。最初は嘘だろうと思ったぐらいだったが、これも憧れの事務所で働く代償、そんな気持ちだった。有給は数年後には10日になり、5年目ぐらいには晴れて15日になった。が、そこはBIGとは違うスティーブン・ホール王国、それには「条件」があった。
それは1週間以上の休みは7月か8月の”夏”か、クリスマスの年末年始のみOKというもの。これは私にとってはかなり痛手だった。というのは、遠い日本に帰国するには最低2週間ほしいから、必然的に帰国は夏か正月の一番飛行機が高額な時。お陰でスティーブン・ホール事務所で働いた8年間、日本が一番いい春や秋に帰国することができずにいた。BIGに入社して日本で久しぶりに見た桜は、かなり感慨深いものだった。

”事務所の文化”でも書いたように、こんな「条件」や決まり事は、ホール事務所では彼の一声である日突然できてしまう。これはある所員がちょうど今頃の季節、2週間の休暇に出たのがきっかけだった。この休みの申請は数か月前には承諾されていたのだが、スティーブンはすっかり忘れていて、突然居なくなったことに激怒しこの条件が生まれた。
代休も条件付きで、2週間連続土日出勤すれば(すなわち2週間以上休みなく働けば)1日代休を与えられた。日本の建築事務所の労働条件からみればいい方なのかもしれないが、今振り返るともうあの労働条件には戻れない。

BIGも黒川紀章やスティーブンホールのように個人の名前を出す建築事務所としてスタートしたわけだから、「ビアルケ王国」になりえたわけだ。が、私の視点から言うとそうはならなかった。会社組織として所員を守り、一人ひとりの建築家としての向上をサポートしようとする努力が見れる。彼はもともと有名建築事務所OMAで働いていたのだが、過酷な労働条件だったようで、自分の事務所は所員のQuality of Lifeを重視しながら、同時に良い建築を創る事務所にしたいと思ったと聞く。デンマーク人のメンタリティなのかもしれない。もちろんたまには激務だってあるが、その後はしっかり休ませてくれる。締め切りの後は会社から支給される一人60ドルの予算で、お疲れ様会をするのが習わしだ。子供や犬を連れて仕事に来る人もいたり、4か月の産休もアメリカの建築事務所では悪くないはずだ。

ハッピーな所員=良い建築=事務所の成功

これが鍵ではないか。

BIGはとうとう所員600人の建築集団と成長した。これからも末長く所員の幸せを守り、人々にとって「ギフト」となる建築を造り続ける建築集団であってほしい。

つづく

PS:先日ビアルケの45歳の誕生日を祝いました。ケーキはこの1年で竣工しいたプロジェクトたち。「これからも自分たちの建築概念に賛同してくれるクライアントたちとたくさん仕事をしたい。」と言っていました。一緒に良い一年にしましょう!

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