見出し画像

【特集】自分の子どもになぜ会えない?5、産後うつで実家に帰っている間に 子どもに会えなくされたママの話

離婚後の親権の問題をめぐって、産後うつで子どもから離れて実家に帰っている間に子どもに会えなくなってしまったひとりのお母さんの話を紹介します。共同親権導入を考えるにあたっては、多くの場合、母親が子どもと一緒に家から出ていき、父親が子どもに会えなくなるケースを想定して議論されます。しかし、実際にはその逆の例もあり、日本の家族制度そのもののあり方を問う、どこまでも広がる大きな問題であることがわかります。育児に悩む女性たちにもぜひ一緒に考えてもらいたいと思います。

産後うつで 心も体も疲れ果て…

あやさん(仮名)は、5年前に長男を出産。抱っこの仕方、授乳、おむつ替え、寝かしつけ、どれも初めての体験にとまどいながらも、試行錯誤の生活を送っていました。産後3週間を過ぎたころから、夜眠れないことが多くなり、精神的にもとても辛くなってしまったため、夜間のミルクだけは夫に代わってもらうようになりました。

それでも精神的な不安定から一睡もできない日が何日も続き、夫に「眠れなくてつらいよ…」と助けを求めました。夫は「眠らせてくれ。話しかけないでくれ」と面倒臭そうな態度。あやさんはどんどん追い詰められていきました。

夫に「二人分の面倒は見られない。一人で実家に戻って休んだらどうか」と言われたため、あやさんはこのままうつ状態が続くよりは、早く心身の健康を取り戻すほうを優先したほうが、この子にとっても、今後の夫婦関係にとってもいいのかもしれないと、数日間ひとりで実家に帰ることにしました。長男・翔くん(仮名)がまだ寝返りを始める前、産後1か月のことでした。

実家に戻ってすぐに、夫に翔くんの様子を尋ねるメールを送っても返事がなく、ようやく1週間後に電話で話すことができたものの、「昼間も泣きっぱなしで困る」「子どもの湿疹が酷くなったのはアンタのせいだ」などと怒鳴られ、電話を切られてしまいました。

あやさんは翔くんのことが心配になって、あわてて自宅に戻りました。しかし、夫はあやさんが自宅に入ることを拒否。「子どもを置いて出て行ったと、近所や会社の人にも言ってある。ここは俺の家だぞ。話し合うなら代理人を連れて来てくれ。こちらはもう依頼している」などと一方的にまくし立てられ、翔くんにも会わせてもらえないまま追い返されてしまいました。その後、一方的に荷物を実家に送り返され、自宅の鍵を替えられました。

命がけで産んだ愛おしい息子と 月に1度だけしか会えない

あやさんは「一時的な療養のために実家に帰っただけ。高齢出産で、しかも初産だったから、出産後は想像以上に大変で迷惑をかけてしまったけど、少しでも良くなったら自宅に戻るつもりだった」と説明しても、夫からは、「出産後に家事ができないなんておかしい」と責められ続け、子どもの写真1枚すら見せてもらえることはできませんでした。

別居約半年後、産後うつが治癒したと医師に診断され、そのことを告げた直後に夫と連絡が取れなくなってしまいました。ますます子どものことが心配になり、あやさんは家庭裁判所に監護者の指定と子どもの引き渡しをする審判を申立しました。その審判の中で裁判官が、「最低でも月に1回、1時間はお子さんを申立人に会わせてください」と暫定的に夫に指示を出しました。あやさんが翔くんに会えるのは双方の代理人が付き添ったうえで月に1度1時間だけと、ここで暫定的に決められました。

自宅を追い出された後、翔くんと再び会えたのは、10か月後のことでした。寝返りをはじめて、首が座り、ハイハイやつかまり立ちを始める瞬間を、そばで見ることができなかったあやさんは、「赤ちゃんが母親を最も必要な時期に何もしてやれなかった」と悔やみました。

翔くんが1歳8か月になった時から、会える時間が月に1回、5、6時間となりました。午前11時頃に待ち合わせて、昼食をはさんで夕方までというスタイルが続きました。「お腹空いた」と言う翔くんに、あやさんが作ってきたおにぎりを食べさせていると、終了時間ぴったりに「もう時間だ!帰るぞ!」と翔くんの腕を引っ張って、まだおにぎりを食べている翔くんのことを泣かせてしまいました。

また、夫は翔くんの前でもあやさんを罵倒したり、足蹴りしたり、大声で非難されたりすることもあり、そんな時翔くんは、あやさんと夫の顔を交互に見て不安そうな表情をしていたといいます。


子どもが お父さんも お母さんも大好きと言えるように

貴重な月に1度の面会交流でしたが、夫側が拒否すればそれすらもかなわないこともありました。あやさんは、日本の裁判実務では、一方の親と子どもを引き離すこのような決定が普通なのだと知った時、「地獄に放り込まれたような気分だった」といいます。

現在、翔くんは5歳に成長。おしゃべりも上手になり、体を動かして元気よく遊ぶのが大好き。とても甘えん坊で、会えた時は「いつ帰るの?」とあやさんに不安そうに尋ね、一時も離れたくない様子でぎゅっと抱きついてくるといいます。「もっと一緒にいたい」という翔くんの気持ちに答えてあげられないことに、あやさんはつらい気持ちになります。

共同親権制度を導入している海外の例では、離婚後に子どもと別居することになった親でも子どもの年齢に応じて、面会交流の様々なプランが決められており、「子どもの利益」を中心に取り決めがされているといいます。日本では、何歳であっても「月に1回がスタンダードのような感じで、私のケースのように乳幼児期の成長が著しい時期を全然考慮してもらえない」とあやさんは訴えます。

また、「そうした国では、子どもの年齢に応じた面会交流のプログラムを裁判所が主導して作っています。例えば身体や情緒面の発達が著しい乳幼児は、離れて暮らす親との時間も密に取ることが推奨され、週3回、3~5時間または、週2回、6時間面会するプランに加え、長期休暇はさらに別途面会時間を設けるというオプションを付けることができるそうです」といいます。
あやさんは、翔くんがもう少し大きくなって「なぜ自分は母親と好きなだけ会えなかったんだろう」と疑問を持つようになった時、「父親が制限していたことを知ったら、息子は傷つくでしょう」と想像します。

そのうえで、「本当に子どものことを考えたら、片方の親を排除するような制度の運用は止めるべきです。子どもがどちらの親に気づかうこともなく『お父さんもお母さんも大好き』と素直に自分の気持ちを表現できるようにしてあげたいです」と訴えます。

今の制度が改められ、翔くんの意思のもと、あやさんが長男とより自由に会える日はいつ来るのでしょうか。その時、翔くんは何歳になっているでしょうか。それを考えると、この問題が今の日本全体の喫緊の課題だということがわかります。



この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
note.user.nickname || note.user.urlname

みなさん、サポート本当にありがとうございます! サポートいただいたみなさんのおかげで取材を継続することができます。これからもどうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

merci!
13
記者 / Journalist

こちらでもピックアップされています

親子断絶・子供連れ去り問題 / 共同親権・共同養育 について
親子断絶・子供連れ去り問題 / 共同親権・共同養育 について
  • 21本

親子断絶・子供連れ去り問題 / 共同親権・共同養育 の記事・コラムなど

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。