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64.はじめっからコトバが意味を道連れに音楽してるから、読んでると愉快になる。

 詩集を出そうと思ったのは、2019年の2月だった。横浜で歌人の石井辰彦氏と会って相談をした。凡庸な読者として、1982年に歌集『七竈 』を出版されて以来、最新の『逸げて來る羔羊』まで、石井さんの本を美しく過激だと感じていたので、どうしたら詩集が出せるものかアドバイスが欲しかったのだ。
「じゃあ、ヒカシューの詩がたくさんあるだろうから、テキストをまとめて渡して欲しい」とのことで、いざまとめようと思ったけれど、思いがけず散乱していて、データにうつしていないものも多かった。忙しいのもあって詩のまとめはのんびりしていたが、9月の終わりに書肆山田の鈴木一民さんと大泉史世さんが興味を持っていただけたということで、鬼子母神のカフェで打ち合わせがあった。その時にやっと、いままでの歌詞などをプリントアウトして、渡すことができた。
 書肆山田は、詩の出版社として有名だ。ぼくも家の書架を眺めたら、けっこうたくさんの本を持っていた。石井辰彦氏はもとより、白石かずこ、吉増剛造、ガートルード・スタインなどなど。
 ぼくはどうしてもヒカシューのアルバムを作った過程があるので、詩をバラバラにできないのだけど、詩集として読まれる時、どうなのか、それを大泉さんが大胆に選んで、目次を作ってくれた。
 最初の1ページ目の詩は「はなうたまじり」である。どこか懐かしい言葉で言うとライト・ヴァース(軽妙でナンセンスな詩の形式)的な趣のある詩である。そういえばである。ぼくはライト・ヴァースを書肆山田の本で知ったのである。「煖爐棚上陳列品一覧」という日本のライト・ヴァースのアンソロジーが確かに家にある。調べてみると、1980年の12月に初版が出ている。それもこの度、ぼくの詩集の帯文を書いてくれた谷川俊太郎さんが編者である。

はじめっからコトバが意味を道連れに音楽してるから、読んでると愉快になる。
悪戯っ子みたいに自由な、思いがけない現代詩の登場だ! 谷川俊太郎

 谷川さんには、ぼくがプロデュースしているJAZZ ARTせんがわに谷川賢作くんと出てもらったのが縁で、ヒカシューのアルバムのリマスタリング紙ジャケット盤発売の時にも言葉をもらうことができた。誰もが書いてもらえるわけではないだろうから、これは本当に感謝する次第である。
 それにしても、この詩集は、ヒカシューデビュー40周年の締めくくりに相応しいのではないか。もちろんなかなか困難なことはわかっていた。詩のコーナーは一般書店から消えつつあったし、もとより現代詩集が売れる様子はない。そんな中、詩集がだせた事は大きな喜びだ。

巻上公一詩集『至高の妄想』書肆山田
2019年12月20日発売予定 B6変 216ページ 2970円(本体2700円+税) 付録=町田康 帯=谷川俊太郎

現在、第二詩集編集中 来春発売予定です。
書肆山田の大泉さんが亡くなり途方にしばらくくれていました。


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