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作家の壁

 2016年に50歳で作家として活動を始めた私が、作家として最初に心したことが「作品を見せる相手を選ぶ」ということだった。
 それまでは請負仕事のカメラマンだったので、自分で自分の撮りたいものを撮るのではなく、依頼されたものを撮影するだけだった。当然、自分の撮影したものを見せる相手を選ぶなど考えたこともなく、提示された予算内で、仕上がりに支障が出ない限りは、クライアントの望むものを、クライアントが望むように撮影していた。
 作家として活動を始めるまでは、仕事を引き受ける相手は選んでいたけど、基本私はクライアントから言われることにノーということは滅多になかった。その自分が「見せる相手を選ぶ」という選択をすることは大きな変化だった。
 そして、2018年に編集者島本脩二さんに出会い、作品集を企画編集していただくこととなったときに言われたのも「作品を出す場を選べ」ということだった。

 出す場を選ぶ。見せる相手を選ぶ。
 それは私が作家として作品を発表していく上でもっとも気を使う事柄となった。ギャラリーの選び方、メディアからの依頼の対応は島本さんに言われた「場を選ぶ」という言葉を念頭に置きながら進めてきた。
 作品に力があれば、どんな相手に見せても評価は変わらないのではないか。そう思うこともあったが(私の少ない経験での現実ではあるが)どんなに良い作品を作っても伝わらない相手には伝わらないのである。
 私はこういうことを考えるときに「オルセーのま●こ」を引き合いに出す。
有名なクールベの「世界の起源」という作品のことだ。
 写実主義作家クールベが女性の局部だけを描いた作品だが、あの作品の周りに群がっている男性の表情、あれこそがクールベの作品なのだと私は思っている。

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