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マキエ草枕

 もともと旅行に関する撮影の仕事をしてきたので、さまざまな宿を泊まり歩いているが、この1年てそのバリエーションが広がっている。

 最近よく泊まるのは、古い湯治宿。
 湯治宿とは、温泉地に長期間滞在して、病気の治療をするための宿で、安価に宿泊でき、自炊もできる。
 たいてい質素な作りで、壁も薄く、当然のようにトイレ、洗面は共同だ。廊下や隣の部屋の声や物音が筒抜けなので、お互いに気を使って、静かに過ごしているのが何となく心地良い。
 この頃は、近代的な設備の整った宿など面白くもないなどと思っていたが、先日、勘違いで、湯治宿でも設備の整った旅館部の方を予約してしまった。

 チェックインのときこそ、失敗したと思ったものの、室内にトイレと洗面が付いて、ドライヤーも使い放題というのは、やはり楽だ。物音もさほど気にせずに済むせいか、いつもよりも深く眠れた。
 何より、同じ宿でも湯治部と旅館部では扱いが違う。エコノミークラスとビジネスクラスの違いと考えていただくとわかりやすいだろう。サービスを提供する側なら、差をつけるのは当然のことだ。

 年に頻繁に旅に出れば、一回あたりの費用は押さえたいし、古い建具の部屋の方が作品イメージに合うので、今後も湯治宿を泊まり歩くだろうと思うが、お金で買える満足感というものをあらためて感じた旅だった。

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