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負けたくない

■故郷忘じがたく候

 10年選手の愛車を車検に持って行く日、ハッチバックの中の経年荷物を片付けていたら、文庫が4冊出てきました。いずれも司馬遼太郎さんの中短編で「故郷忘じがたく候」「草原の記」「ひとびとの跫音(上)(下)」という渋い顔ぶれ。

 本は焼けて黄ばんでいて、「草原の記」と「ひとびとの跫音」は中のページが茶色い染みでびっしり。ところが「故郷忘じがたく候」だけは、カバーをかけたせいか奇跡的にキレイなまま。と言ってもこの本、実は買い直した2冊目でカバーも書店でもらえる無料の包装紙なんですが・・

 そんな「故郷忘じがたく候」の書き出しは、司馬さんらしい佇まいの描写からです。

 ―― 雨が壺を濡らしている。

 以降、何度も壺、壺、壺と語っておきながら、最後は壺ではないと落とします。

 もう、それだけで読み手のココロは震えます。


■14代 沈寿官少年に見る、「一番になるほかなか」

 物語は、苗代川村の陶匠=日本語で言う陶工の14代目沈寿官さんが主役で、彼らは代々同じ「沈寿官」を名乗っています。その14代の生い立ちを歴史考察と交錯しながら、最後は壮大な国と国のお話に広がっていきます。

 14代目沈寿官さんは、名前が表すように朝鮮の血を引いた方ですが、それは遥かかなたの先祖の話。彼は生まれも育ちも日本であれば、新しい朝鮮語を話すこともできません。

 地元の小学校を卒業し、鹿児島の旧制中学に入学しますが、入学したその日に在校生による激しい暴力に遭います。

 帰り道、父である13代翁と母は、その初登校の出来事を予想したかのように門前に立って待っていました。翁は言います。

 ――  一番になるほかなか、けんかも一番になれナ、勉強も一番になれナ、そうすればひとは別な目でみる、いじければ向こうから(かさ)にかかってくる。

 ―― 撥ねかえすほかなか

 跳ね返すしかないのだと、言います。



■嵩に懸かられたくない

 イチローの「オンリーワンの方がいいなんて言っている甘い奴が大嫌い」という発言は、どこか沈寿官さんの物語とシンクロします。

 叩かれない出過ぎた杭になりたい願望

 は、少なからずわたしの心の中にもあります。ケアマネの仕事をとことん突き詰めたい。そのためにはもっと介護保険制度や社会保障を勉強して、嵩に懸かられないように生きたいのです。

               * * *

 今回は「故郷忘じがたく候」の舞台である鹿児島・錦江湾の画像をお借りしました。遠くに桜島。

 お盆が過ぎて、少しは暑さも和らぐかな。



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