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【シブレス#01】麗郷(台湾料理/渋谷道玄坂)/男の「手」に欲情することが多い

男の「手」に欲情することが多い。

その手で体に触れられた時、自分はどう感じるだろう、と想像する。たとえば骨がゴツゴツとして、皮膚の感触もざらついていて、爪は大きめでいびつな正方形。

服はできれば荒々しく、剝ぎ取られるような形で脱がされたい、だけど、その後はぐっと、丁寧なのがいい。
それでも時折手に力がこもって、私の肌に爪が少し食い込んで、痛いって顔をしかめるとはっとした顔でごめんね、て言って、だけどすぐにまた力が入って、そんな風に抱かれたい。

***

「ごめんなさい、普段こういう店来ないですよね、もっとオシャレな店がよかったかな、ほんとごめんなさい」

さっきからタケオはしきりに店の雰囲気を気にしている。
え、全然そんなことないよ、こういう店好きだよ、何がおすすめ。私はタケオの手をちらと見て、それからメニューの字面をぼうと目で追いかける。

この店はタケオが選んだ。よく行く美味しい中華があって、そこで軽く飲みませんか、そんな風に誘ってくれたのは彼だ。

確かにムーディとは言い難くて、床は何だかべとついている。茶色いテーブルもどこか古臭い。だけど、気取らない店も、嫌いじゃないし、そんな気のおけない店によく行くというタケオが、好ましくみえた。

「ここはしじみが美味しいんです」
「しじみ?」
「しじみのニンニク炒め。ビールに最高に合うんです」
「じゃあそれ」
「何か食べられないものありますか?」
「ううん、タケオくんは?」
「僕もなんでも。じゃあ他は適当に頼みますね」

すみません、とタケオは店員を呼びつけ、すらすらと注文を言う。注文は野菜、肉、魚、とバランスがよくて、第一何を食べるか、を自分で決められる男はいいなと思う。

***

男の「声」に欲情することが多い。

その声で耳元で囁かれた時、自分はどう感じるだろう、と想像する。
たとえばよく通る声で、だけどどこかかすれていて、そしていつもより何だか、ゆっくりと話す。

卑猥な言葉を浴びせられるのは好きじゃない、だけど、どうして欲しいの?とじらされるのはいい。
言葉にしないと先に進まなくて、だけど私は口ごもって、言わないと先にいけないよ、そんな風にかすれた声でたしなめられて、意を決して私はどうして欲しいを伝えようとして、だけど口を開きかけたら、唇をふさがれて、そんな風に抱かれたい。

***

「手で食べちゃいましょう」

タケオは運ばれてきたしじみをひょいと指でつまむと、直接貝殻に口をつけ身をすすった。
私も彼に倣った。しじみの滋味が口の中いっぱいに広がった。べとついた指先を唇でなめた。美味しい、と私は言った。タケオはよかった、と胸に手をあてて笑った。

彼の「手」が目に入る。
骨がゴツゴツとして、皮膚の感触もざらついていそうで、爪は大きめでいびつな正方形。
彼の「声」が耳に残る。
よく通る声で、どこかかすれていて、そしていつもより何だかゆっくりと話す。

しばらくして、この後どうします?とタケオが言う。
酔っちゃったみたい、少しどこかで休みたい、と私は言う。

麗郷 渋谷店 
https://tabelog.com/tokyo/A1303/A130301/13001805/ハチ公から道玄坂方面へ徒歩5分、京王井の頭線神泉駅からも徒歩5分ほど。
ホテル街すぐそば。
予約は10名以上からのみ。カード不可。
満席で入れないことも多い。名物の「シジミ」は必食。


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