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アラフォーからの読書

去年読み返してとてもよかった本の中に、サマセット・モームの「月と六ペンス」がある。

「月と六ペンス」は、ゴーギャンの人生に着想を得た「チャールズ・ストリックランド」の物語。彼の人生はある日を境に「絵画」へと捧げられることとなり、その後、彼と関わった人たちは彼の「絵画至上主義」に振り回されることになる。彼はあまりにも多くの人を傷つけ、恩を仇で返し、数々の暴言を吐いた。そして彼の絵は生前成功することはなく、極貧を極めた。ただし最後までストリックランドは、意に介さなかった。
その首尾一貫さが私はたいそう気持ちよくて、そして何より、ストリックランドのような人を、好意的に受け止められる今の自分が嬉しかった。

この本を最初に読んだのは確か高校生の時だ。その時の「月と六ペンス」はイギリスの人気作家、サマセット・モームによるおさえておくべき有名な作品、ということ以外にあまり興味はなく、物語自体も「ヨーロッパ文学によくある天才と天才に翻弄される周囲の人々の物語」といった捉え方をしていた。ストリックランドについても、迷惑な男という印象が強かった。

それが、約20年の時を経て読み返すと、なんとも面白い作品になった。これはきっとこの20年の間に、手に入れた安定を犠牲にし、「夢」への一歩を踏み出すことが、どれほどの重みがあることなのかを知ったからだろう。

10代の小娘だった私には「月と六ペンス」が理解できなかった。つまりその頃に触れたたくさんの小説、映画、絵画といったものが、アラフォーの今、再び手にとったら同じような「再発見」がある気がして、私はなんだか、すごくわくわくしている。

女性にとって、歳をとっていくというのは、切ないものである。アラフォーになってからよく思い返すセリフに

何故 神は まず 若さと美しさを 最初に与え そしてそれを 奪うのでしょう?
「へルタースケルター」岡崎京子著

というのがある。「若さ」は強力な武器だっただけに、それがすっかり尽きたアラフォーという現実から目を背けたくなることがある。
ただ神は若さと美しさを最初に与え、ただそれを奪うのではなく、それを成熟させていっているのかもしれない。少なくとも10代の私より、今の私の方が分別もあり、情緒も安定し、そして賢い。
「月と六ペンス」を楽しめるほどに充分に。

さあ、今日は何を読もう。

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