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ずいぶん前に長い間片思いしていた人から、
突然連絡がきた。

『突然連絡してごめんね。
元気にしてるかなと思って。』



彼との出会いは、高校に入学してすぐの頃。

同じ学習塾の同じクラスだった。


初めて彼を認識したのは、
たしか高校一年生、4月の寒い雨の日

塾の教室、一番奥の前から二番目に座っていた。

金髪で(ノリで先輩と染めたんだと後から聞いた)、
それを隠すためにグレーのパーカーのフードを深く被っていた。

先生に「お前頭どうしたんだー」とか言われて、
みんなで笑った。

背が高くて、黒縁のメガネをかけていた。


彼自身は派手なタイプではないけれど、
友達が多く、目立つグループに所属していた。


5月の体育祭のチームが同じで、
初めて彼と話した。




彼は、優しくて家族を大切にする。
とても頭が良いし、努力家。
真面目で、いつも照れた笑顔。

独特の、彼のペースがあった。
話す時は一呼吸置いてから話すし、
決して早口になったりせず、
ゆっくり、言葉を選んで、低い声で、
いつも控えめに話す。

こんな私のことをいつもよく見てくれていて、
些細なことも褒めてくれたりした。

私は彼をとても尊敬していた。
彼はいつも私に『尊敬してる』と言ってくれた。

ずっとサッカー部で真っ黒に日焼けしていて、
でも練習は嫌いで『ヘタレ』と弄られていた。

成績はいつもオール5で、
私立最難関の大学に推薦で進学した。

その後は、
誰もが知っている超有名企業に就職したと
人づてに聞いた。

三人兄弟の長男で、
パパは外科医。

育ちが良い、おぼっちゃまだった。


私は、ずっと彼にぞっこんだった。


毎日、本当に毎日、
長文のメールをやりとりした。

時々、勉強を教えてくれたし、
塾が終わった後に公園で話したりもした。
学校で話せた日には一日中幸せだった。
今日会えたね、なんてメールが届いたりした。

旅行に行くと必ずお土産を買ってきてくれた。
彼からもらったぬいぐるみが増えていった。

バレンタインにはチョコレートをあげたし、
ホワイトデーにはドロドロに溶けたチョコレートが返ってきた。




『いい感じ』のまま、高校二年生になった。





思いがけない、刺客が現れた。


高校二年の5月になった頃に、
ダンス部のショートカットで明るい女の子が、
突然 彼の「彼女」になっていたのだ。



私は、それを知った日、
ずっと泣いていた。




彼からは、
『応援してくれるよね?』
とメールが来ていた。



まさか!応援なんてできるわけない!



泣きながら、

『応援するね』

と返信した。



いつの間に?
そんなに急になびくことがあるの?



ずっとのんびりしていたのは
自分だったことに気付いた。


高校二年生のクリスマス頃、

二人が別れたと聞いた。



バカな私は、

チャンスが来た、と思った。



ほどなくして、
彼と私は、
あの、『いい感じ』に戻ったのだ。



元に戻った。




この話には、もう続きがない。


彼と私の話は、
この『いい感じ』で終わってしまったのだ。





私は彼に、好きだと伝えることなく、
ずっと同じ『いい感じ』のまま
高校を卒業して、会わなくなった。


正確に言えば、
好きだったということは伝えた。

春休み、彼と会わなくなってから、

『ずっと、三年間好きだった』
『これからも元気でね』

こんなメールを送った。

彼からの返事はこうだった。

『ずっと気持ちは分かってたよ。』
『なのに、弄ぶようなことしてごめん。』





そうだよね、私もそれを分かっていた。

もう返事はしなかった。



その後は、
成人式と同窓会で会っただけで、
特別な気持ちもなく、
連絡を取り合うわけでもなかった。


連絡がきただけで、
ここまで一気に蘇ってきた。




そして、
気付いてしまった。

なんてことだろう。

この彼とのエピソード、
好きな人とまるで同じだ。



今のんびり好きな人を眺めているのは私だし、

『いい感じ』であることを良いことに
弄んでいるのが好きな人なのか。




この話にも続きがない。

このまま、もう、この先はないのだ。




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