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あの日の僕(第16話)━ハチガツムイカ

あの日の僕(第16話)━ハチガツムイカ


僕には子供の頃に、この日があったから今があると思う日があります。この日があったから今頑張っていると思う日があります。

みんなにもそういう日ってあるかな?あるとしたらどんな日だろうか。

それは僕にとって忘れられない嬉しい日であり、それは僕の誕生日でもある。子供の頃の誕生日ってそりゃあ楽しくて嬉しい思い出があるのは当たり前、ですよね。

だから僕が子供の頃の忘れられない嬉しい日として、誕生日をあげても不思議とは思わないですよね。そう、それはいたって普通だ。しかし、どうやら僕は普通ではない誕生日を経験してきたらしい、そしてそれを僕が知ったのは高校生になってからの事。

今回は、そのある日について書こうかな。いつも以上に吐き気に一日中支配された夜にこれを僕は書いている。僕はあえては普段書かないが、実は生まれてからずっと吐き気や腹痛と共に生きている。それは普通ではないらしい。けどこれが僕にとっては普通だ。

普通ってなんだろう?

それまでの僕にとっての誕生日は、憂鬱な日であった。何故なら、毎年その日は必ず通院すると決まっていたからだ。

もっと小さい頃は頻繁に通っていた。先天性十二指腸閉鎖症という病気を持って生まれた僕は、生後3日でお腹を手術した。それで終わり、ではなく、その日から僕の、僕たち家族の通院する日々が始まった。よく緑の電車に乗って大きな病院へ行った。お腹を診せて、注射を受け、検査をして、「頑張ったね」とほめられて、喫茶店で甘いホットケーキを食べる、それが僕たちの普通の誕生日。

「いつまで続くの?」

なんて怖くて質問なんて出来なかった。「ずっと」と言われたらどうしよう、だけどずっとは嫌だ。「僕は大人になれるの?」その言葉は喉から何度も出かけた。

注射が痛くないふりを何度も重ねた。検査に慣れているように演じた。

これが僕の小さい頃の誕生日。

それが、忘れられない嬉しい日になるなんて、当日のその瞬間までわからなかった。

いつもの様に検査を終えたと思っていたら、主治医に「頑張ったね、もうここに来なくていいよ」と言われたのだ。

突然の事で、僕はうまく感情を爆発させられなかったのも覚えている。まさか、その普通の日々が終わるなんて、もう検査を受けなくていいなんて、大人になれるなんて、想像出来なかった。想像するのさえ怖かった。

ハチガツムイカ。

普通の日が
忘れられない嬉しい日になった。

この文を今読んでくれている君にとっての、子供の頃の忘れられない嬉しい日っていつかな?会えたら教えてくれないかな。

昨日も今日も吐き気がやばい。生まれてからずっとだから慣れているけど、しんどいものはしんどい。考えても悩んでも解決しないから、考えないようにする。楽しいことしたり、楽しいことを考える。そりゃあ、何があってもホスピタルアートを広げたいって思うよね、闘病してきた当事者だから。


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