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簡単ではない夢にこそ、燃え続ける。日本初ジェットパックの開発を通じ、人類のエアモビリティの可能性を拡張する。-Taiga

MAKERS U-18 PEOPLE シリーズ。今回は、日本初のジェットパック開発を実現し、航空技術全体における人類の可能性拡大を目指す、9期生 磯大雅さん。

幼少期から映画などの影響で航空技術に憧れていた磯さん。抱いていた壮大な夢を、MAKERS U-18に参加したことで実現に向けて動き出す決意を固めました。

日本ではまだ前例がない、一見不可能に見えるジェットパック開発への「狂気」を今、どのように形にしているのでしょうか。

技術も資金もなかった頃からどのように行動し、駄目だと言われてもまず行動してみる信念、そして自分自身が大切にしていきたい生き方について伺いました。

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”人類の可能性を拡張するモビリティを創造したい”

簡単に自己紹介をお願いします。

 磯大雅といいます。株式会社ZENON AeroGenesisを立ち上げ、次世代航空機の開発を行い、日本初のジェットパックの開発に取り組んでいます。

 ジェットパックは、超小型ジェットエンジンを背中に装備し、自由に飛行できる新しいテクノロジーです。映画『アイアンマン』をイメージしてもらうと、わかりやすいと思います。

 海外では軍事、救助、レジャーなど、様々な用途で使われています。私たちは日本初の安価なジェットパックを開発し、民間市場で普及させることを目指しています。そして最終的には、救助活動に特化したジェットパックを開発し、革命的な救助活動の実現を目指しています。

From Gravity Industries Jet Suit

ジェットパックの開発を始めたのはどうしてですか?

 幼少期から航空技術が大好きで、その中でも特に人類の可能性を拡張するモビリティに強く惹かれていました。それが見事にマッチしたのがジェットパックです。

 さらに、本格的に行動を起こそうと思ったきっかけが、能登半島地震の発生でした。

 能登半島地震では、ここまで技術が成熟した現代であっても、自衛隊が徒歩で山を降りて救助に向かうという非常に前時代的な救助活動が行われていました。しかし、もし映画『アイアンマン』のような技術が現実に存在すれば、飛行して迅速に救助できるはずです。ジェットパックは山岳や海岸での救助に優れていて、南海トラフ地震などの巨大な地震が迫る日本で非常に重要な技術になると考えました。

 小さい頃に『風立ちぬ』という映画を見て、零戦の設計者である堀越二郎氏を知りました。彼は技術的に欧米から大きく遅れていた当時の日本から世界最高峰の航空機を作り出した方で、とても憧れていました。

 今の日本は大戦以降、航空機をほとんど作っていない国です。そのような国から世界に誇れる次世代航空機やエアモビリティを作り出すことを目標に掲げています。

 私は国際ロボコンに出場したことがあり、そこでものづくりへの情熱を抱きました。人類の可能性を拡張するモビリティを創造したいという思いと、自分自身のものづくりへの情熱から、次世代航空機であるジェットパックを作りたいと思っています。

“ジェットパック開発の黎明期を突破するために、自分の会社が存在しているのだと信じています。”

最近ではドローンなどでの物資運送が話題ですが、ジェットパックはどこが違うのでしょうか。

 ドローンは電動駆動なので、飛行時間は連続で30分から1時間程度が限界です。また、重い荷物を運ぶ場合でも50kg程度が上限です。しかし、ジェットパックはジェットエンジンを使用しており、推力が非常に大きいことが特徴です。さらに、人を運ぶ際、空飛ぶクルマやヘリコプターと比較すると、ジェットパックはリュック程度のサイズであるため、圧倒的に汎用性が高いです。

 また、海外企業による救助の模擬訓練では、救助時間を従来の15分の1に短縮でき、コストも救助ヘリ1台導入の30分の1以下に抑えられることが証明されています。他のモビリティと比べても非常に革新的な技術です。

 ここ2年ほどで急速に広がりを見せているこの技術をさらに拡大させれば、救助に活用される日もそう遠くないのではないかと考えています。ジェットパック開発の黎明期を突破するために、自分の会社が存在しているのだと信じています。

世界的にはジェットパック開発は進んでいるのでしょうか。

  ジェットパック分野で最も力を持つ企業は、イギリスのGravity Industriesです。同社のリチャード・ブラウニング氏が発明した技術では、両手に小型ジェットエンジンを2基ずつ、さらに腰にもエンジンを搭載し、飛行を可能にしています。

 現在、この技術は3カ国以上の軍で実証実験が進められており、救助活動ではイギリスやルーマニアの山岳地帯で実験が行われています。また、レジャーやスポーツ、レース分野でも大きな広がりを見せている技術です。

 リチャード・ブラウニング氏自身、ジェットパックによって三つのギネス記録を更新しており、人類の可能性を拡張する素晴らしい功績を収めています。今後、燃料効率の良いエンジンが開発されれば、ジェットパック技術はさらに大きな広がりを見せていくのではないかと思っています。

ご自身が開発しているジェットパックは、どこまで進んでいるのですか?

 インタビュー時点で、ジェットパック開発に着手してから約10ヶ月が経過しました。初期段階では、本当に飛行できるかすら分からない設計でしたが、数十回にわたる設計の見直しを繰り返し、現在は植松電機さんと協力して開発を進めています。

 今後は資金調達を完了させ、海外から高価なジェットエンジンを輸入し、現在設計中のパーツと組み合わせて飛行実験を行う予定です。そのため、ハードウェア面ではジェットエンジン以外の設計がすでに完了しており、現在は実験に向けて開発を進めている段階です。

小型エンジンは海外のものを輸入されるのですね。

 そうですね。海外の大型ラジコン飛行機用ジェットエンジンを複数使用することで、人が飛行可能な推力を得られます。制御系統も整っているため、初期段階ではそれらを用いて飛行します。「その後、資金調達を進め、救助活動に特化したジェットパックを自社で開発したいと考えています。

 イギリスのGravity Industries社では、退役軍人の方が5年間、自己資金だけでジェットパックを作り上げたというエピソードがあります。資金は約360万円で、全くの素人が一から作り上げました。私もそれに続いてプロトタイプを作ろうと思っています。

 以前参加した国際ロボコンでつながったMITやカリフォルニア工科大学の友人がいます。また、植松電機さんは民間で初めてロケットを作った日本企業であり、人員や実験場所をサポートしていただいています。

実験を重ねていく段階なのですね。

 プロトタイプ段階には早く到達できるのではないかと考えています。しかし、イギリスのGravity Industries社はアメリカやイギリス軍と提携して資金調達と開発を進めており、軍事技術では確実に劣ります。そのため、差別化を図り、民間市場に特化し、研究機関と協力して技術を応用し、安価な民間用ジェットパックを開発したいと考えています。

“「ジェットパックを作りたいという人はこれまでにも何人も来たが、実際には一度も成し遂げられていない」”

どんなところに意義を感じていますか?

 カプロニというイタリアの航空設計家がいました。当時、まだ飛行機が飛び立ったばかりの頃に、乗客100人を連れて大西洋を横断するという壮大なビジョンを掲げていました。結果的にカプロニは大西洋を横断することはできませんでしたが、世界最大級の航空機を作り上げました。このように、大きなビジョンを描いて挑戦し作り上げる姿勢、これこそが現在の日本に足りない部分だと考えています。

 半世紀以上も航空機が作られていない中で、現在進行中の100年に一度のモビリティ革命を逃してしまえば、日本は将来的に立ち直れないのではないか、失われた30年間がさらに延長されてしまうのではないかと考えています。航空技術が弱い日本だからこそ、それを復活させることに自分自身が関わりたいと考えています。

日本で開発が進んでいない理由はあるのでしょうか。

 市場開拓のハードルが非常に高いことが一因だと考えています。

 日本で唯一、小型ジェットエンジンを販売している代理店を訪問した際、「ジェットパックを作りたいという人はこれまでにも何人も来たが、実際には一度も成し遂げられていない」と聞きました。ジェットエンジンは1機で数百万円もする非常に高価な技術である一方、市場が確立されていません。さらに、本気で取り組むスタートアップも少ないのが現状です。こうした状況に危機感を持ち、大きなビジョンを掲げて挑戦していけるのは、自分しかいないのではないかと考えています。

今後の展望はありますか?

 1月頃までにプロトタイプを形にし、植松電機さんで飛行実験を行います。その実験で飛行が成功すれば、大々的にメディア向けにリリースを行い、来年4月以降に開発をさらに加速させていきたいと考えています。

“MAKERS U-18に参加し、同世代ですでに起業している人たちを見て世界観が大きく変わりました。"

開発を思い至ってから、どこからどういう順番で進めていきましたか?

 一番最初は、自分でお金を貯めて作るしかないと思っていました。しかし、MAKERS U-18に参加し、同世代ですでに起業している人たちを見て世界観が大きく変わりました。合宿後に荒削りながら事業計画ピッチを作り、VCやエンジェル投資家の方々にTwitterでDMを送り続けました。

 返信をいただいた方々と毎日のようにZoomで話す中で多くのフィードバックをいただき、事業計画が具体化しました。マネタイズや開発計画も明確になり、その時期に現在の共同創設者とも出会いました。その後も継続してVCやエンジェル投資家と話を重ねました。

 並行して設計も進め、最初はジェットエンジンをそのまま背中に装着するような形でしたが、重心位置や制御システムを考慮する必要があると分かり、海外の技術を参考にしてプロトタイプ作成に取り組むことにしました。

どんなところが特にハードルでしたか?

 元々全く知らない分野だったため、すべてがハードルでした。

 事業内容が曖昧だった段階で最初に投資家さんと話した際には、ビジネス用語がほとんど理解できず、社会の厳しさを痛感しました。ただ、親身なアドバイスも多くいただき、それを糧にスキルを磨いていきました。それを繰り返して、自分自身のスキルも上がっていきました。

 すごくハードルが高いことに挑んだのですが、今までの自分もそうで、高校1年生の時にはMITに行くと先生に宣言したり、その時の自分の能力よりもその後の可能性だけを信じて突破するタイプでした。失敗を恐れないタイプだと思います。かつ高い山に登りたいって思うような。

 自分自身の能力はそこまで高くないですが、自分より能力がある人をどんどん仲間に巻き込んでいく。MAKERS U-18で佐俣アンリさんからも、人を引き込める人間にならなくちゃいけないとフィードバックをいただいて、そこにフォーカスしてやってきました。

“無理だと思うようなことでも「できる」って自分自身を騙して、失敗も上等でとりあえずやってみる。”

それらを経て、自分の強みはどこだと思いますか?

 本当に小さい頃から航空技術が大好きで、ジェットパックを作り、航空設計家になるという夢を実現しようとしているワクワクや、未知の世界に飛び込むドキドキ、さまざまな感情が入り交じる中で、情熱を芯にできていることが自分の強みだと思っています。

 また、不可能だと思えることも、まず「できる」と言って挑戦するところも強みだと思います。その結果、色々な痛い目にもあい、国際ロボコンではリーダーシップの欠如を痛感したこともありました。しかし、ロボット班の代表となり、多くの失敗を経験しながら、最終的にはリーダーシップも自分の強みの一つになったと思います。

 最初は必ずできるわけないだろってところから始まるんですよね。ロボコンのチームに入る前も、ロボット製作は未経験でした。興味があって入った後に親に、できるわけないだろ、やめろと言われて、しかし最終的には世界最大級の国際ロボコンに参加することができました。

 そのような感じで、一番最初は自分には縁もゆかりもない、無理だと思うようなことでも「できる」と自分自身を騙して、失敗も上等でとりあえずやってみる。自分のスキルを上げる前に、とりあえず行動して結果で見せるような、非難を原動力に変える行動力がすごいなとも周りから言われますね。

 ビジョンを語る前にまず行動してしまっています。そして、行動した結果を見せていく。最初は必ず否定されますが、自分はひねくれ者なので、否定されることをやって後から結果として見せるのが楽しくて、自分の行動の指針にもなっています。

”やってはいけないと言われたことはとりあえずやって、人に求められていることとは違うことをやってしまうような子どもでしたね。”

そういう気質はいつ頃からありましたか?

 小さい頃から、やってはいけないと言われたことはとりあえずやって、人に求められていることとは違うことをやってしまうような子どもでしたね。

 例えば、小学生の頃に図画工作の絵で「100年後の未来はどうなっているか?」というテーマに対して、僕は人口爆発で人が満ちあふれている世界を描いたり、中学生の時には、SDGsについて学年全体で行うプレゼンコンテストがありましたが、そこで僕はSDGsを批判する内容を行いました。その機会でプレゼン能力を向上させるために努力し、内容も合理的に構成したことで学年代表として選ばれたりしました。

 何かそうしたくなってしまう気質なんですね。

 その感情は元々みんなが持っていると思います。小さい頃に「駄目だ」と言われたことをやりたくなるように。でも多分それがいつの間にか、駄目だと言われたことは駄目なんだと信じ込んでしまって、大人になっていくのだろうなと思います。

 僕自身はその流れがなかったですね。駄目だと言われていることもとりあえずやってみて、でも何も悪いことが起きなかったじゃんと証明し、そのまま突き進む。なので、おそらくこれからも無理だと言われたこともどんどんやり続けると思いますし、やってみて自分自身の結論を出してみる。相当なひねくれ者なんでしょうね。

では、逆に自分のウィークポイントはなんだと思いますか?

 エンジニア気質が強すぎて、何でも1人でやってしまうタイプです。分担するのではなく、全部自分でやった方が早いじゃんと思ってしまいます。

 ロボコン時代に学んだことなのですが、チームでやる以上、分担した方が圧倒的に効率的なんですよね。でも全部1人でやってしまおうとする部分は、弱みになってしまうかもしれません。

 ただそれも、技術的な難点などを全部自分で調べたり、デザイン性も自分の納得するものを追求したり、経営方針であったり、全部総括的に自分でやろうとする部分が自分自身の首を絞めながらも、高い目標を目指すために活かせたらと思っています。長所と短所が混じっているような感じですね。

“ロマンあふれる、情熱を持てることに最後まで燃え続ける人生にしたい”

最終的な野望や、大事にしたい価値観はありますか?

 このジェットパック事業も、入口でしかないなと思っています。

 僕の夢は実際にはもっと大きくあり、エアモビリティ全体、また、航空技術全体における、人類の可能性を拡張するという、そういった夢を掲げています。

 なので、このジェットパックを入口として、ロマンあふれる、情熱を持てることに最後まで燃え続ける人生にしたいなと思っています。

 本当にゴールはいらないなと思っています。自分にとって一番幸せな生き方は、自分が成し遂げたいことを目指して切磋琢磨することだと思っています。なのでゴールをすぐに達成できるような夢は本当の夢ではなくて、永遠に手が届かないような壮大な夢を追い続けて、走り続けて、最後には次の世代にバトンタッチできるような形で、人生を終えられたら最高かなと思っています。

磯さんの想いや願い、そこから湧き出る行動や挑戦、いかがでしたか?
引き続き、応援しています!

[取材日]2024/10/25
© Taiga Iso & ETIC. All Rights Reserved.

<最後に>

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