炭素は唯一無二の美しい概念です。綺麗なストーリーだけでなく、好きを極めまくって全てを捧げる。-Mao
”高校1年生の時に、炭素に恋しました。”
簡単に自己紹介をお願いします。
岡部真央です。体温と冷たい外気の温度差で発電でき、充電不要な健康管理デバイスの開発をしています。
デバイス開発のきっかけを教えてください。
2つのきっかけがあります。1つ目は、私が中学2年生の時、父が突然死してしまったことです。何もできなかったのが悔しくて、もし24時間健康管理ができていたら、この突然死は防げたのではないかと思い、24時間健康管理ができるデバイスを作りたいと思いました。
父の体調が急変したのは私が部活をしている時でした。なので、全然気づかなかったですし、体調が悪いことも知らなかったので、もし遠くにいても体調急変を察知できていればよかったと思いました。
2つ目のきっかけとして、高校1年生の時、炭素に恋しました。そこで、自分の好きな炭素の性質と、突然死・孤独死をなくしたいという想いが重なり、充電不要なデバイス開発に至りました。
“炭素やばいなと。ただの元素じゃないんですよ炭素。”
炭素に恋をした、というのは?
高校1年生の時、父の件があり、24時間健康管理できるデバイスを作りたいと思っていました。しかし、自分にできることが特にない、技術も能力もないと思い、普通の学校生活を送っていました。
そうしたら、学校の教室に「大学で研究しませんか」のようなプログラムのポスターが貼ってありました。面白そうだったのでとりあえず参加してみたら、そこで炭素愛を語る大学教授の方に出会いました。
そこでなんだかもう、炭素やばいなと。ただの元素ではないんですよ炭素。他の元素とは比べ物にならないくらい、多様性と強さと繋がりの力がある、非常に面白い物質で、好きになってしまいました。
大学の教授は、スーツを着てビシッとしているおじいちゃんというイメージを勝手に持っていたのですが、そうしたら、ピンクの半ズボンに白いTシャツを着ていらっしゃって、「今日は僕の推しであるカーボンナノチューブについて教えます」といったテンション感で、ちょっとびっくりしすぎて。
その先生だったからというのも、私が炭素に恋した理由の一つだったかもしれません。今は、炭素への愛は先生を超えている自信があります。しかし、まだ知識量が全然足りていないので、もっともっと詳しくなって、先生を超えたいです。
”カーボンナノチューブという、日本人が発見した炭素の同素体の非常に小さい素材があって、それが特に愛おしくて。”
それから炭素について研究を続けているのですか?
そうですね。カーボンナノチューブという、日本人が発見した炭素の同素体の非常に小さい素材があって、それが特に愛おしくて。
カーボンナノチューブは、地球と宇宙を繋ぐ宇宙エレベーターのロープとしても検討されていて、もうこれは、このカーボンナノチューブを使って自分のやりたいことをやらないと駄目だと思って、カーボンナノチューブと一緒に歩んでいます。
炭素を24時間体調管理にどのように活用するのですか?
先ほどお話ししたカーボンナノチューブは、温度差を与えると発電ができ、その電気でセンサーを24時間動かすことができるので、24時間健康管理ができるデバイスを今作っています。
進捗はどうですか?
3月にMAKERS U-18に参加した時は、カーボンナノチューブだけで糸を作っていて、それを服に縫い付けようと思っていました。しかし、試してみたら全然うまくいかなくて、もう味噌汁の具ですか?みたいなカーボンナノチューブのゴミのようなものしかできませんでした。
そこから色々試して、カーボンナノチューブだけでゼロから糸を作るのではなく、普通の糸にカーボンナノチューブを入れて、カーボンナノチューブ糸の状態で服に縫い付けていきたいと考えています。
温度差で発電するデバイスを実現するには、色々な大変な工程があり、今はまだ第1段階として、普通の糸をカーボンナノチューブで電気が通る糸に変える段階なのですが、まだあと2~3段階ほどあります。
それができたらデバイスを服に付けられるのですが、デバイスも今ちょうど作っていて、カーボンナノチューブ糸ではまだ動かせていないものの、普通の熱電発電機で発電できるデバイスで代用してセンサーを動かしています。
完成したらどんな人に使ってもらいたいですか?
やはり、突然死のリスクが一番高いご年配のおじいちゃんおばあちゃんに使ってもらいたいです。しかし、突然死のリスクは誰にでもあるものなので、いつかは全人類が安心して生活できるようにしたいと思っています。
計画としては順調ですか?
去年の冬に研究計画を立てたのですが、遅れています。すごく遅れていますが、楽しいのでいいかなと思っています。
ずっと悔しい思いはありますが、炭素も好きなので、糸を作ること自体が楽しいです。
今年の冬に研究発表する機会があり、年明けの1~2月に実証実験したいと思っています。そこまでに普通の糸をカーボンナノチューブで電気が通る糸にして、熱電発電機の形にしたいと思っています。
”研究では炭素は元素として扱われていますが、私の場合は唯一無二の美しい概念と捉えています。”
改めて聞きますが、炭素って何ですか?
炭素は、元素記号でいうCですね。
原子には他の原子と結びつくための手があり、他の原子と結びついて違う性質に代わるのですが、Cはその手が四つあって、色々な原子とつながれるんです。
つながりたい原子とつながりたくない原子があって、意思があるように感じます。研究では炭素は元素として扱われていますが、私の場合は唯一無二の美しい概念と捉えています。
どのあたりが美しいのでしょうか?
たとえば、ベンゼン環という6個の炭素原子(C)が正六角形で結びついた分子構造があります。かわいいんです。六角形だからこそ発揮される性質が美しくて、六角形をひねったりすると、めちゃめちゃ面白いものになるんですよ。
先ほどお話ししたように、炭素は手が4本あります。その4本の手の繋ぎ方次第でどんなものとでも繋がれたり、繋がり方も多様だったり、繋がったら性質がコロッと変わったり、想像していないような物質が出てくるんです。
グラフェンはどんな波長の光も吸収するため真っ黒ですが、カーボンナノチューブは特定の波長の光を吸収・反射するので、虹色のように多彩な色彩を見せるんですよ。
構造によって無限の可能性を秘める多様性が面白いなと思ってます。
炭素の魅力はまだ他にもありますか?
炭素は身近にありますよね。私たちの命や身体、今周りにあるほとんどのものは炭素に関連しています。
身近にあるのに、見えないのがまた面白いです。めちゃくちゃ小さいんですよ。その小さいところも何だか可愛くて。
熱を与えるとプルプルって動くんですよ。それもめっちゃ可愛くて、ぜひ見てください。
また、カーボンナノチューブは温度差で発電できる性質がありますが、一般的な温度差で発電できる物質は、大抵、金属や半導体などの硬いものなんです。でもカーボンナノチューブは丸めるし、結べる。でも絶対に切れないという性質があって、それがめちゃめちゃ面白いです。
地球と宇宙を繋ぐ宇宙エレベーターにも使えるくらい強くて、強度が鉄の100倍200倍ぐらいなんですよ。軽いし小さいのに鉄と同じぐらい強くて、最強だと思います。
カーボンナノチューブ以外に関心があるものはありますか?
炭素の同素体である、グラフェンという物質があります。カーボンナノチューブも面白いですが、最近はグラフェンにもハマっています。
カーボンナノチューブはチューブ状なのですが、グラフェンはそれを紙状にしたものです。
グラフェンは蜂の巣状の六角形構造を持っていて、この構造のシンプルさから想像できないくらい面白い特性があります。たった一原子層でありながら、鉄の200倍の強度を持ち、紙のように柔軟で透明で、電気や熱を高速で伝える性能も持っています。
あと、グラフェンを2枚重ねて回転させると、モアレパターンというすごく綺麗な幾何学的な模様が現れるんです。このモアレパターンは、数学的な美しいだけでなく、超伝導や異常な電気特性を発揮します。普通の物質ではありえない現象が次々に起こるんです。
炭素はよく聞く言葉ですが、カーボンナノチューブやグラファイトはあまり聞かないですね。
今、脱炭素と叫ばれていて炭素は敵扱いされていますが、実は炭素で環境問題の解決もできるし、人の健康管理だってできる。
カーボンナノチューブも炭素だけでできていますが、鉛筆の芯とは違って、めちゃめちゃ強くて、電気も通すし、熱も伝えてくれる。もう、神物質なんです。
カーボンナノチューブも実は、近年発見されたフラーレンという炭素の同位体が発見された時のゴミだったんですよ。ゴミだと思われたものが、実は最強の物質だったのも面白いですね。
炭素に対してどんな感情を抱いていますか?
なんだろう。自分の知らない炭素の一面を知ろうとするときに、なんていうんだろう、好きな人に告白するときと同じような感情になりますね。(笑)
炭素をずっと追いかけていたいです。
”綺麗なストーリーだけでなく、自分の好きなことや大事にしたいことも忘れないようにしたい”
研究・開発を進めていく中でしんどかったことはありましたか?
開発や研究は楽しいのですが、人前で話す機会が増えました。でも、学校でも父のことなどは全然話していませんでした。同情されたり、かわいそうな目で見られるのがすごく嫌で、苦しかった時期がありました。
最近になって、わざわざ隠すのは違うなと思うようになりました。自分と同じように苦しんでる人もいると思いますし、本当はお父さんが好きなのに友達の「マジ父親ダルいんだけど」のような発言に合わせてしまったり、そういうことが自分としてはすごく嫌だし、嘘をついているのも良い気分ではなかったので、最近は、こうやって色々なところで話すようになりました。
自分の活動や思いを発信していく上で大事にしていることを教えてください。
もちろん同情されるのも嫌ですし、物語や綺麗なストーリーだけ切り取られてしまうのはあまりいい気分ではないですが、伝えるべき人、伝わる人がいるかもしれない。綺麗なストーリーだけでなく、自分の好きなことや大事にしたいことも忘れないようにしたいです。
研究の時は色々な人に炭素大好きなんですと話しているのですが、お話しする場所によってはストーリーや自分が思っていることをよく聞かれるので、そこの使い分けを大事にしていきたいです。
ご友人など周りの人には炭素の話はしますか?
MAKERS U-18に参加するまでは隠して普通の女子高生をやっていました。けどMAKERS U18に参加して、同じように好きなこと、やりたいことを極めてる人たちに出会い、こういう人もいるんだと実感できてからは友人、家族、お会いした人に炭素を布教したり、語らせていただいています。
”孤独死・突然死をなくしたい想いも大事にしています。でも、その想いだけだと苦しくなってしまう。炭素への愛情も大事にしていきたいです。”
「炭素」と「ヘルスケア」という2つの想いは、自分の中で分けて考えていますか?それとも合わさっているのでしょうか?
今は合わさっていますが、時間がたつにつれて変わるかもしれないと思っています。
どちらが大きいなどはありますか?
今は優先順位として、孤独死・突然死をなくしたい想いも大事にしています。でも、その想いだけだと苦しくなってしまう。炭素への愛情も大事にしていきたいです。
好きという気持ちで取り組むのと、悔しいという気持ちで取り組むのでは、好き・楽しいの方がメンタル的に長続きすると思います。炭素が好きな気持ちを大事にしつつ、突然死・孤独死をなくしたい気持ちも同時に進めています。
炭素を研究し続けるのか、炭素から離れて健康管理デバイスを作るのかでいうと、現時点ではどのように考えていますか?
今と変わらないことも取り組みたいですが、健康管理デバイスだけでは孤独死・突然死は防ぎきれないと思っています。孤独死・突然死を防げる、炭素を使ったまた新しい研究も、デバイスが完成したら取り組んでいきたいなと思っています。
その中で、今後作ってみたいものは何かありますか?
カーボンナノチューブで包んだお薬を身体に運ぶ技術があるのですが、カーボンナノチューブには発がん性があります。そういうところを改良していければ日常的に使われるものになるのではないかなと思っているので、その分野にも手を出したいです。
ずっとカーボンナノチューブを引きずっていたいですが、今後私が生きていく上で、カーボンナノチューブよりもっと魅了される、もっと美しくて面白い炭素の仲間に出会うかもしれないですね。
”好きを極めまくって全てを捧げる、そんな人生でも面白いんじゃないかなと思います。”
3年後の自分を想像するとどうですか?
ずっと研究していたいです。
高校を卒業したら大学に行くつもりですが、高校生では入れない研究場所にどんどん踏み込んで、炭素の研究を極めていきたいです。
そこからさらに先はどうですか?
炭素の博士になりたいです。
炭素をずっと愛しながら、海外の研究室も交えて、カーボンナノチューブで、世界で面白いことができたらと思っています。
自分の生きていきたい人生を「ゲーム」に例えるなら、どのような「ゲーム」を創っていきたいですか?
私の人生のゲームタイトルはやはり「炭素」になりますね。内容としては、好きを極めまくって全てを捧げる、そんな人生でも面白いんじゃないかなと思います。
[取材日]2024/11/04
©Mao Okabe & ETIC. All Rights Reserved.
<最後に>
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