見出し画像

Seed期スタートアップがITエンジニア採用で強い理由と、新卒採用戦略の反省

中堅エンジニア採用記事の中でも驚きの声が挙がっていた、Seed期のスタートアップが採用に強い理由についてお話します。エンジニアにとって何が魅力的なのか、課題はどういったところにあるのか、他の企業が模倣できるところはあるのか、先のコンテンツで触れた下記を中心にその深堀りをしていきます。

【エンジニア目線】技術選定が自由

一般企業では1-10、10-100といった何かしらの事業が柱として存在するため、その開発に関わるということは「誰かが選定した技術」や「自分ではない誰かによる設計」に従って実装をします。これがどうも我慢ならないらしい。

先のコンテンツではSIer出身者がSeed期のベンチャーに転職する傾向があるとお話しましたが、それなりのサイズの自社サービスでも同様の理由で転職が進んでいるというお話を頂いています。

一方で自由に技術選定を行った結果、尖りすぎた技術選定をしてしまうことでプロジェクトリリースに大幅に影響してしまうことという話も複数頂きました。担当者の習熟度に見合わない技術選定というケースも多々あります。

個人的に忘れられないエピソードとしては

・stableな状態にない出たばかりの言語選定を行った
 当該言語で日本初のリリースを目指したそうです
・マイナーバージョンアップがなされるたびに動作対象外になる環境が発生
・リリース前からバージョンアップとそれに伴う作り直しに見舞われた

結果、リリースできないまま撤退したというものです。

0-1のフェーズはとにかく枯れて調達しやすい言語でリリースし、そのサービスの需要を世間に問うべきなのですが、「技術選定が自由」というのが動機な故に、そこは譲れないというスパイラルに突入します。このエピソードについても「コンサバな言語で実装してみては?」と何度か提案してみたものの、全く受け入れられませんでした。

結果リソースを追加しようとしてもその技術を触れる人材が調達できず、大幅に遅延する、もしくは資金ショートするまで進んでしまうのです。

【エンジニア目線】0から始めるので技術的負債がない

技術選定を自信でできる、0から設計から始められるということで、前任者のソースコードや設計を引き継がなくて良いというメリットを挙げるケースが多く見られます。言い換えると技術的負債がないことが魅力だそうです。

エンジニアは皆さん「技術的負債」という言葉は大好きですよね。「クソコード」を上品に言っているフシもあれば、「難ありデータ構造」の場合もあります。前任者の設計や実装の習熟度が低いケースもありますが、度重なる仕様変更に追従できなかった回避できずに技術的負債になったケースもあり、後者はサービスがグロースするとほぼ不可避です。

私の見解としましては、どうもこの「技術的負債」という言葉がサービス成長、業界成長の足かせになっているように感じられます。1-10、10-100のフェーズにあるのは紛れもなく飯の種となった「技術的負債」のおかげですし、そのフェーズがないと当該求人票ポジションもなかったわけです。感謝しながらリファクタリングのプロジェクトを計画し、弔うべきだと考えています。

サービスローンチ前にリファクタリングに夢中になるケースです。リリースする前にソースコードをより良くするためにリファクタリングし、夢中になった結果、タイムアウトして資金ショートしたサービスを見たことがあります。

0-1フェーズを作り込んでいったら途中で「ここはああすべきだった」「ここはもっと良く出来そうだ」というのは一旦メモをしておき、重大なセキュリティリスク以外はリリースして落ち着いてから別途対応すべきです。自分自身のソースコードもインフラも、良かれと思った技術選定も、サービスが伸びてチームが大きくなれば誰かの技術的負債になるのです。

【新卒採用戦略の反省】企業がハッカソンで0-1を讃えすぎた

2005年頃、楽天社やリクルート社を中心にビジネスコンテストが新卒採用イベントとして始まっていきました。これはやがてアイディアソンと呼ばれる様になりました。

新卒エンジニア採用シーンでハッカソンが拡がっていったのは2016年頃からでした。特にコロナ禍に突入するまでは企業体力がある企業は何かしらのハッカソンをやっていました。今でもオンラインの形でハッカソンをしていたりする企業もあります。

ハッカソンでよくある形式が、何かしらのお題がありそれに対してチーム単位でディスカッションし作りたいものを3日から長くても2週間くらいで作るというものです。特に採用目的のハッカソンの場合はコンテスト形式で各社のCTOクラスや名物有名エンジニアが批評をし、表彰をするというものでした。交通費支給、宿泊費企業持ち、豪華賞品も多々ありました。

私もやったことがありますが、この採用目的のハッカソンはいかんせん目的が採用なので参加者を褒めざるをえないのです。気持ちよくなってもらって自社について好印象で帰ってもらわないと行けない。なんなら学校に持ち帰って周囲の友人に「あの企業楽しいよ!」と言ってもらわないといけません。

加えて半分徹夜しながらチームでわちゃわちゃとものづくりをするので、学園祭実行委員のような状況になります。学園祭当日に向けて追い込みをかけ、終了後に泣きながら乾杯をしている学園祭実行委員とかを見たことがある方は居られると思いますが、似たような状況がハッカソンで発生します。

こうしたハッカソンを夏休み中に数件ハシゴするので「0-1、超たのしー」となる人は必然的に多くなります。私はこれを「ハッカソンハイ」と呼んでいます。

ハッカソンを起点にした採用と、「新規事業できるよ」とフックする採用の共通点は入社後の1-10や10-100フェーズとの乖離です。0-1の経験が楽しくて入ったのに1-10や10-100ばかりの業務とのギャップは不可避です。ハッカソンのときのように褒められもせず、要件は他部署から降ってくる。こう見えてしまうと楽しかった0-1を求めてSeed期スタートアップに向かってしまいます。

ハッカソンをやりすぎた。そのためにマインド設定が0-1志向になってしまったというのは企業が反省する必要があるように思えます。採用イベントのコンテンツとしては非常に難しいですが、1-10や10-100に絡むようなものを提供できれば事態は変わっていたかも知れません。

一方、データサイエンティストだと大型メディアの生データを元に実習をするケースをよく目にするのでマインド設定事情は変わりそうです。0-1にデータサイエンティストが求められるようなログはありませんからね。

【エンジニア目線】煩わしい評価や制度がない

1企業の新規事業と、Seed期ベンチャーの違いはここです。

トップダウンで指示がない自由。規則がない自由。制度がない自由。

別の機会に譲りますが、フリーランスの増加の背景にも同様に「自由」が存在します。Seed期スタートアップの場合は企業体なので「自由」の言い換えである「裁量」が高い優先順位として存在します。

1企業の新規事業であれば予算集めする手間や、失敗した場合に路頭に迷うリスクは低いものの、評価や制度があるのが疎ましく感じられるようです。

現在はスタートアップに対するVCなどの出資も盛んなので過去よりも資金集めのハードルは下がっています。となると1企業の傘下より独立して自由になる方が選ばれやすい傾向にあります。

【転職市場目線】提示金額が強気

資金調達しやすくなった背景と「良いエンジニア採用にはお金がかかる」という観点が世間に認知、「内製化しなければいけない(らしい)」という先人の口伝を聞いていることもあってSeed期スタートアップは結構な提示金額を出してきます。

2010年代はベンチャーというと夢と希望(ビジョン)、愛と勇気(パッション)、使えるかどうか分からないSO(紙)くらいしかウリがありませんでした。ほぼアンパンマンの世界でした。

一方でサインアップ時には結構な給与を出すのが2021年です。給与が続くとは言ってないです。

現在の中途エンジニア採用シーンでは、オファーの提示金額が吊り上がっていくネットオークションのような形式になり、ポロポロと中小企業が脱落し、最後に残るのはコンサルとSeed期スタートアップのみという状況が確認できています。前年収1.5倍の殴り合いにSeed期スタートアップが出てくることもあり、(その場では)ライバルながらBS/PLが心配です。

【しかし】BizとDevの狭間で苦労する

ビジネスをやりたいプロダクトオーナー(PO)が居るとします。コンセプトはある。画面イメージも紙になら描ける。

先のように高い金額で提示したエンジニアメンバー(PG)も居るとします。コードは書ける。

ではこの二人でビジネスは進むかというと進みません。そのままPOとPGが意思疎通をしようとしても育ってきた背景が違うので同じ日本語を話してもうまくいきません。経験上、POがエンジニアでない限りはBiz側から歩み寄るのは期待できず、エンジニアの視座を上げてBizに寄せていくのが現実的です。しかしこれには年単位の時間が必要です。

ここにベイカレント・コンサルティングの方々によって書かれた一冊の本があります。これが非常に良い本でして、現在作成している研修資料でも随分と参考にさせて頂きました。Biz側から見てエンジニアの喋り方やふるまいの仕方のどこが腹が立つのか、どう直して欲しいのかがエゲツないくらい書いています。Biz側との意思疎通に課題を感じている方にオススメです。私自身、インフラの研究者というビジネスに一番遠いところからやってきたので克服した点もある一方で耳が痛い所も多く、「随分と好き放題言ってくれるじゃないか」と怒りすら思えるほど学びが多い一冊でした。

教育や育成の時間が惜しい、あるいは適性に問題があるとなると、POがやりたいことをシステムに落とすために課題を整理し、要件を定義し、画面設計をし、事業の方向性を合わせていく人が必要です。

しかしエンジニアメンバーでお金は使ってしまった。勢い、CTOやPjMを副業などのスポット人材で入れます。そうするとフルタイムではないのでスピードがまどろっこしい。

それだけであればまだ良いのですが、先にお話したように技術選定や上下の自由を求めて入ってきたエンジニアには非常に面白くない。居た堪れなくなり再度別のSeed期に行くか、フリーランスになって別の角度の自由を求めるかのどちらかをしがちです。0-1のフェーズが終わった段階でPGが去り、CTOだけになった1-10フェーズのスタートアップが目につくのもこうした背景があります。

【だがしかし】0-1が終わると不人気に転落する

プロジェクト的にリリースが終わってしまえば、新しく来る人に取っては「技術的負債」です。そこに「技術的な自由」はありません。

尖りすぎた技術選定にはフリーランスも手を挙げません。

社員数も20名を超えれば制度などが出来始めるので「不自由」です。

これらのことからSeed期は人が集まったのに、急に不人気になります。プロダクトが良ければM&Aされます。

0-1のフェーズにある経営者の皆様におきましては、0-1の自由さ、それなりにある資金、獲得できたエンジニア、それなりに幸せを感じられるフェーズだと思います。しかし1-10でいきなり崖が現れることを意識して頂ければと思います。これは数年前の1-10フェーズより唐突に起きる傾向にあります。

【Seed期以外の企業】自社で新規事業単位で小会社を持てば良いのか?

相談ベースで頂いたケースです。理屈から言うと良さそうな「新規事業単位で子会社を持つ」というのは良さそうに見えます。

親会社は子会社に投資をし、技術選定以降を任せる。制度も0から任せてしまう。いわゆる「お金は出すけど口は出さない」を作る。

これにより人は集まる可能性があります。そこから(若干名だと思われますが)0-1に飽きた人を親会社に引き上げることも可能でしょうし、次の0-1のための異動も可能でしょう。ただ上記のようなBiz-Devのギャップ問題は残ります。何よりそこまで任せきれる度量があるかどうかという話もあります。

うまく干渉しすぎない形で親会社が相談相手として存在できれば可能性があるでしょう。高度で人間臭いコミュニケーション力が親会社に求められます。

執筆の励みになりますので、記事を気に入って頂けましたらAmazonウィッシュリストをクリックして頂ければ幸いです。
https://www.amazon.jp/hz/wishlist/ls/COUMZEXAU6MU?ref_=wl_share


頂いたサポートは執筆・業務を支えるガジェット類に昇華されます!