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「いなたい」雰囲気にフレッシュな魅力が光る一作~『密輸 1970』感想(ネタバレあり)〜

「今、映画館に行くとしたら何見ればいい?」
と尋ねられたならば、一言
「『密輸 1970』だ。」
と答えておけば間違いない。
そんな一作でした。

本作の白眉は、水中シーンでしょう。海女さんや船乗りの男たちのキャラクターや関係性を描く手際の良さと、プロフェッショナルな仕事ぶりを堪能できるオープニングシーンも見応えがありますが、何といっても、クライマックスの海女さんVSヤクザのバトルシーンが圧巻です。
『ジョン・ウィック:コンセクエンス』において、ファイトコレオグラファーの川本耕史さんがリナ・サワヤマさんのアクションについて「(190cmくらいある敵を倒すために)相手の上か下から崩していく動きを付けた」と語っていましたが、今作も海女さんたちは上へ浮上して頭を狙ったり、下へ潜って脚を縛ったりして相手を倒していたように思います。そういった動きが出来るのは水中だからこそだし、海女さんだからこそ酸素ボンベをつけずに身軽に動くことが可能なわけで、舞台設定・物語設定がつくづく上手だなと感服しました。また、俳優たちが3ヶ月間水中訓練をして、巨大な水槽セットで撮影されたということで、CGに頼りすぎず、「本物」の迫力がスクリーンに出ていたと思います。
そして、そんな迫力ある戦闘シーンの合間に挟まれる、海に潜っていく者と海面に浮上していく者が手を取って押し合い、互いに推進力を与えるシーンには、ハッとするような美しさを感じます。映画全体を貫くシスターフッドの精神が、その一瞬のシーンにこめられているかのようでした。

当時の韓国の雰囲気を表す音楽や衣装なども大変魅力的でした。
挿入歌はどれも、いわゆる「いなたい」雰囲気が心地よく、歌詞の内容と流れているシーンの内容がリンクする選曲センスにも唸らされます。ファッションも、西洋の影響を受けていながらも、当時の韓国で独自の発展を遂げたことをうかがわせる味わい深いセンスに目を惹かれました。

オールドスクールな画面分割の演出も本作には合っていたと思います。

登場人物についても、「女の敵は女」のようなステレオタイプに則ったキャラクターが登場せず、徹底して女性同士の連帯が描かれていたのも良かったです。

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