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やみくもちゃん


なんだかみんな、ソワソワしてる。
いつも喧嘩してるお姉ちゃんと弟も、
いつも話をしないお父さんとお母さんも、
なんだか楽しそう。
相手に凄く優しい。
いつもこうならいいのに・・・

ご馳走が並んで、ケーキが来て、プレゼントが贈られる。
今日はクリスマスだったんだなー。
みんな、この日が好きみたい。
でも、私は大嫌い。
みんな揃って楽しく過ごすなんて、ちっとも面白くない。
だって、私はずっと一匹ぼっちだから。

私はクモ。
薄暗い部屋の隅から、ここの家族を眺めている。
私は好かれてない。
見つからないように、薄暗い隙間に住んでいる。
私は自分のことを「やみくも」と呼んでいる。
薄暗いのが好き。
だからやたらキラキラしたクリスマスは居心地悪い。
やたら、淋しい気持ちになる。
クリスマスなんて、無ければいいのに・・・

今日はこの家を離れよう。
クリスマスの無いところへ行って、クリスマスが過ぎるのを待とう。
私は夜の街に飛び出した。


飛び出してもやっぱり違う。
灯はチカチカしてる。

点いたり、消えたり。
人間も点けていいのか、消していいのかわからないみたい。
じゃあ、消しとけば。
安らげるし。

聞こえてくる音楽も変。
鈴の音嫌い。
いい音だと思えない。
ほんとにいい音なら、年中聞こえてくるはずじゃない。

サンタクロースが町中にいる。
ビラを配ってるサンタクロース。
看板を持ってるサンタクロース。
スクーターに乗ってるサンタクロース。
でも、トナカイに乗ってるサンタクロースはいない。
全部ニセモノよ。

みんな、何浮かれてるのかしら?
私は明るい光に背を向け、暗い方に歩いて行った。


歩き疲れたので、人の家に入ってみた。

「サンタクロースなんていない! 」

と言う男の子がいた。
口でそう言ってるくせに期待してる。
ちゃんと靴下と手紙を用意してたし。

一人暮らしの男の人は、全くクリスマスに興味ないような感じだったけど、おもむろにケーキを食べだすし。
まあ、いつもそんなことする人なのかもしれないけど。
でも、可愛いキャンドルに火はつけないわよねー。

ある女性は家に帰ったのに、プレゼントを買ってないことを思い出して、また出て行った。
一人暮らしなのに。
自分にプレゼントを送りたくなったらしい。

人間はクリスマスに呪われてる。
だからクリスマスに束縛されてるんだ。

大昔に生きてたキリスト。

どこにもいないサンタクロース。

空を飛べないトナカイ。

これの何を信じるの?
誰も信じてないわ。
クリスマスセールのためにクリスマスがあるだけよ。
人が楽しそうにしてるのが気に入れないから、自分も楽しそうにしてるだけ。

そんなクリスマスから遠くに行くわ。

クリスマスの無い家に行ってひっそりとクリスマスが過ぎるのを待つ。
空き家でもなんでもいい。
一晩だけ私がいるべきところをみつけたい。
それだけ。



やっと人気のない家を見つけた。
クリスマスの夜に真っ暗。
きっとここに住んでる人達もクリスマスが嫌いで、クリスマスのないところに身を隠してるに違いない。
よし、今晩はここにいることにしょう。

巣を作る。
ちょっと大きめなものでも、20分もあればできる。
巣があれば落ち着く。

なんで、みんな、クリスマスだからと言って浮かれてしまうんだろ?
ずっとそのことを考えていた。
チカチカした明るい照明の何がいいのか?
暗闇の方がずっと落ち着ける。
人間だってそれがわかってるから、寝るときは真っ暗にするんだろう。

めでたいめでたいと言っても、人の誕生日など祝ってやる必要がない。
まして、キリストという人と会ったこともない。
なぜ、祝わないといけないのか・・・
誰も私の誕生日なんて祝ってくれたことなんてないじゃない!!!!!

クリスマスはつまらない。

クリスマスはつまらない。

クリスマスはつまらない。


そう口走ったとき、パッと灯りがついた。
住人が帰って来たようだ。
ガサゴソと大きな音を立てて、部屋に入ってきた。
大きな白髪のおじいさん。
あたたかそうな赤い服を着て、顔中白いヒゲだらけ。

「ホーホッホッホー」

と声をあげて笑っている。

「サンタクロース?」

そのあとからたくさんのトナカイ達がドヤドヤと入ってきた。

私・・・サンタクロースの家に入って来ちゃったんだ。
私は見つからないように、部屋の隅に隠れた。


サンタクロースは、キョロキョロするとすぐに私を見つけた。

「さあ、怖がらないで、出ておいで。一緒にお祝いしょうじゃないか。」

私はおずおずと出て行った。

「お留守番ご苦労さま。ここの席においで」

サンタクロースは、自分の席の隣を指さした。

「私、結構です。」
「遠慮しなくていい。」
「私・・・クリスマスが嫌いなんです。」
「おや、どうしてだい?」
「私、誰にも祝われたことないのに、どうしてキリストとかいう人の誕生日を祝わないといけないの?」

サンタクロースは、また

「ホーホッホッホー」

と笑いだした。

「笑いごとじゃないわ。」
「いや、すまない。ただクリスマスは、イエスの誕生日じゃないんだ。」「えっ?誕生日じゃないの?」

サンタクロースはコクリとうなづき、白いヒゲを触りながら喋り出した。

「イエスの誕生日はいつだかわからないんだ。いろんな説があるが、クリスマスじゃないことは確かなんだよ。」
「じゃあ、何を祝ってるの?」
「イエスといろんな生きてるものたちの誕生日さ。」
「イエスといろんな生きてるものたち?」
「一生出会うことのない人、動物、魚、植物、もちろん君も入ってるよ。」
「私も?私も祝ってくれてるの?」
「ああ、そうだとも。君が他の誰かを祝ったら、他の誰かが君を祝ってくれるんだ。ワシはクリスマスはそういうもんだと思っているよ。」

私は勧められた椅子に跳び乗った。
サンタクロースの言う通り、祝ってもいいかな?
と思ったから。

でも・・・

「私、祝い方わからない。」
「誰かを思い浮かべて、メリークリスマスと言えばいい。」

誰かって、誰?
誰を思い浮かべればいいの?

「お父さんでも、お母さんでも、兄弟のような身近な誰かでも、遠くから見かけた誰かでも、思いついた誰かでもいいんだよ。」

じゃあ、私は・・・決めた。

「・・・メリークリスマス」

この部屋の温度が少し上がった気がした。
サンタクロースは、ジーッと私を見つめている。

「なぜだろう?ワシの胸が暖かくなったよ。君は誰を思い浮かべたんだい?」

私はゆっくりと足を動かし、サンタクロースを指した。

「えっ、ワシかい?どうして?」
「初めて私に話しかけてくれたからよ。」

サンタクロースは、

「ホーホッホッホー」

と笑い出した。

「今日は特別なクリスマスだ。ありがとう。何かプレゼントをあげないとなー。」

それを聞いて、トナカイたちは騒ぎ出した。

「私たちにもプレゼントちょーだい。」
「わかってる。わかってるから。」

と言ってサンタクロースは、手を叩いた。
すると小さな小さな星が降ってきた。
それぞれトナカイの元へ。
トナカイの木の枝のような角に引っかかり、キラキラ光ってる。
トナカイたちは、うっとりと眺めてる。
最後に一段と小さな、まるで米粒ほどの赤い星が降ってきた。
それは私のところへ。

「君の星だよ。」

私のおなかに貼りついた。
ボンヤリ輝いている。
他の誰にもわからないけど、私だけわかる明るさ。
暗闇も好きだけど、ほんの少し明るいのも嫌いじゃなくなった。
初めてのプレゼントだ。

「でも、私、プレゼント、なにもないわ。」

サンタクロースは、首を激しく横に振った。

「私はもうもらってるよ。」

サンタクロースは、指をパチンと鳴らした。
するとさっき私が作った巣が光りだした。
私の巣は、雪の結晶の形で光っている。

「こんなに素敵なプレゼントは始めてもらったよ。ありがとう。」

ありがとうと言われたことも初めてだった。
あまりにも嬉しくて、お礼を言いたくなった。
でも、お礼の言葉も私は知らない。
なので、さっきの言葉をもう一度言うことにした。

「メリークリスマス。」

サンタクロースはニッコリ笑って、

「メリークリスマス!!!!!」

もうクリスマスは嫌いじゃなくなった。
凄く好きになったわけでもないけど。
思いを込めて

「メリークリスマス」

一度、口にするとまた言いたくなる。

「メリークリスマス
メリークリスマス
メリークリスマス」

ずーっと言い続けた。

「気にいったみたいだね。ホーホッホッホー」

サンタクロースは笑った。
トナカイはつられて笑った。
私は、笑いながら

「メリークリスマス」

さっきまで静かだったこの家が世界で一番賑やかな家の一つになった。


次の朝、目覚めるといつもの家だった。

「夢だったのかな?」

でも、どっちでもよかった。
そこまでクリスマスが嫌いじゃなくなったから。

来年、この家で過ごすか?
またサンタクロースの家に行こうか?
悩んでる。

またサンタクロースの家に行けるかな?
今度はトナカイの角に巣をかけてみようかな?
雪の結晶の形喜んでくれるかな?

でも、いつも一緒にいる家族と過すのもいいかな?
あの4人が穏やかに一つのテーブルを囲んでいるのを見ておきたい気がする。
だって、なんでクリスマスが楽しいかわかったから。

どっちにしょうかな?

まだまるまる一年あるからゆっくり考えよう。

あれ?何か目がチカチカするなーと思ったら、おなかにくっついた小さな赤い星がキラキラ輝いてた。
キラキラキラキラ、まぶしいぐらいに。


おしまい

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