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やばい、まじやばい! 我が家の小人捕獲作戦

やばい、まじやばい!
何がやばいって、俺んちに小人が出る。
それだけでもやばいのに、俺は連中を捕まえた!

息子の健志は今年で4歳になる。かわいい盛りだ。
俺とかみさんは健志を真っ直ぐに育ててきた。
少し甘えん坊だけど、嘘をつくような子供じゃない。

そんな健志が「小人を見た!」と言いだしたのは、一週間前だった。
健志によると、現れた小人たちは5人。
みんな健志のベッドのフレームに腰掛けて、足をブラブラさせながら、健志をじっと見ていたそうだ。

夢でも見たんだろう。子供だから現実と夢の区別がつかない。
よくあることだ。かわいいもんだ。

「そうか。それはすごいな。小人が出るなんて。超ラッキーだよ。」って俺は言った。
「え?そうなの?」 健志は半信半疑だ。
「そりゃそうだよ。小人が出ない家がほとんどなんだから。小人はきっと健志と友達になりたいんだよ。」
かみさんも横でにこにこ頷いている。
「そうなんだ。」
「そうだよ。だから、今度小人が出ても怖がる必要はない。にこにこ笑って小人のやることを見てればいいよ。いいかい?」
「うん、わかった。」

そんな他愛もない会話だった。 その時は・・・

キャーーーーーー!

翌朝、かみさんの絶叫で俺は叩き起こされた。
「あなたーーーー! ちょっと、ちょっと来てえーーー、健志が大変!」

慌てて健志の部屋に飛び込んだ俺が目にしたのは、信じられない光景だった。
健志が、体中を細い紐でがんじがらめにされて、フローリングの床に大の字にはりつけにされていた。

「パパ、助けて。小人さんたちが出たんだけどね、みんなで僕を紐で縛って動けなくしたの。」
健志が目から涙をポロポロ流して泣いてる。
「イヤだって言ったんだけど、針みたいなので僕をツンツン突くの。だから助けてって言えなかったの。」

まじかよ・・・ 小人はホントにいたのかよ。
俺は驚きより、怒りに震えたよ。ふざけんなよ。
それはかみさんも同じだった。

小人を捕まえるぞ! 

こうして、我が家の小人捕獲作戦が始まった。

ネットで調べた限り、小人の捕まえ方というのはさすがに無かった。
仕方がないので、昔おれがやっていたカブトムシ用のスペシャルな罠を仕掛けることにした。

バナナにカルピスと焼酎をかけてぐちゃぐちゃやったやつを、ストッキングに入れる。
すっげー臭いだが、カブトムシならわんさかやって来る。

それを健志の部屋の天井から床上30センチぐらいになるように吊るした。
で、吊るしたストッキングの真下にねずみ捕り用の粘着シートを敷きつめた。
カブトムシならストッキングをただぶら下げておくだけでいいんだが、今回は小人を集めるための囮だ。
吊るされた餌に気を取られて寄って来た小人たちが、敷き詰めた粘着シートに足を絡め取られて動けなくなるという実に頭脳的な作戦だ。

かみさんから「カブトムシ用の餌で小人が来るの?」って真面目な顔で聞かれたけど、そんなこと知るかよ。
健志が連中にやられたんだからな。
親としてここは何かやらなきゃいけないだろ。
ダメかもしれないけど、俺たちが本気で捕まえようとしてるって示すだけでも、連中をびびらせる効果はあるってもんだろう。

健志は俺といっしょに寝ることにして、ダミーのクマモンをベッドに寝かせて掛け布団をかけた。
健志はすごく興奮してて、その日はなかなか寝なかった。
わかるよ。その気持ち。
俺もカブトムシの罠を仕掛けた夜は興奮して眠れなかったからな。

で、その翌朝。

ウギャーーーーー!

またもや、かみさんが大絶叫。前の日より3割増しぐらいの大絶叫。

「あなたーーーー! こっこっ小人がかかってるぅー!」
嘘だろ! まじか。

で、健志の部屋で俺が見たのは・・・ まさに小人だった。
体長10センチぐらいのプータロー風の髭ぼうぼうの小さなおっさん5人が、俺の仕掛けた罠に見事にかかってた。

天井からぶら下げたストッキングには、小さなおっさん3人がへばりついて、ストッキング越しにバナナとカルピスと焼酎のぐちゃぐちゃを夢中になってチューチュー吸っていた。
お前らは、カブトムシかよ!

で、床に敷いた粘着シートには、小さなおっさん2人が絡め取られていて必死にもがいていた。
一人はパンツがシートにくっついて脱げてしまって、尻とチンコが丸出しだ。しかもチンコは見事に包茎。
二人とも身体や顔に小さな足跡がいくつも残っているところをみると、ストッキングにへばりついている3人の踏み台にされたようだ。
お前ら、仲間意識とかないのかよ。

でも、驚いた。
ホントに小人が捕れたよ。

ストッキングにへばりついてるおっさんを引き剥がそうと身体を掴んだら、手足をバタバタさせて、がぶりと手に噛みつきやがった。
小人は噛みつき亀以上に凶暴だ。

俺が思わず手を離したもんだから、小さなおっさんはそのまま真下に落下。ゴンって鈍い音がして、仰向けに大の字でびたっと粘着シートに貼り付いた。
大の字のまま、ぴくりとも動けない。
だけど、すっげー敵意のある目で俺を睨む。
キーーーってネズミみたいな甲高い声で叫ぶ。叫ぶ。
うるせーーーーー!

ストッキングに貼り付いてぐちゃぐちゃを吸うのにまだ夢中な他の2人のおっさんの方は、また噛みつかれたらたまらんので、手で引き剥がすのはやめて、焼肉用のトングを使って、粘着シートの上に落とした。
そいつらもキー、キー、キー、キーうるさい。

ルーペを持って来て、おっさんたちを拡大して観察してみた。
見事にどいつも完全な人間。完全に人間のおっさんのミニチュア版。
どの身体のパーツも細部にわたってちゃんと出来ている。
パンツが脱げたおっさんの包茎具合なんか完璧。
で、チンコの周りにはちゃんと陰毛も生えているし、腹毛まで生えてやがる。尻には赤いぶつぶつまである。
すっげーリアルなフィギュアみたいで、超気持ち悪い。

もがきながら殺意のこもった目でこっちを睨みつける5人のおっさんは、童話に出てくるような温和な小人さんなんて感じじゃない。
これはどう考えても無邪気な健志には見せたらダメな連中だ。

区役所の駆除係でも呼ぶか・・・と考えていたら、いきなり背中がチクチク痛い。
振り向くと、いつの間にか俺の背後に弓で武装した小さなおっさんが50人ぐらいた。
いったいどこから湧いて出たんだよ。お前ら。
その連中は体長は5センチぐらい。罠にかかった連中より小型だ。
小人には亜種がいるのかよ。
で、そのチビおっさんたちが、俺に向かって次々にちっちゃな矢を射って来る。

これはまずい。
俺は健志の部屋からいったん退却することにした。

で、ドアを閉めようとしたら閉まらない。
俺を追いかけてきた小いさいおっさんが一人ドアに挟まれてもがいていた。
閉まらないドアの隙間から他の連中が外に出てきたらまずい!
俺は迷わずそいつを部屋の中に蹴り込んで、ドアを閉めたよ。

やばい・・・ 小人が増殖した。俺の背中に汗が伝った。
とにかくあいつらをなんとかしなきゃいけない。

もう罠を仕掛けるとか悠長なことは言ってられない。
捕虫網であいつらを片っ端から捕まえてやる。
俺はバイクで使っているフルフェイスに革ツナギ、手にはグローブ、足はブーツで完全武装した。
右手に健志の捕虫網、左手には捕った連中をぶち入れるポリバケツを持った。

で、意を決して再び健志の部屋に飛び込んだ・・・ら、なんと小いさいおっさんが3000人ぐらいに大増殖していた! ありえねー!
それも体長1センチぐらいのミニおっさんばかり。
さらに小さいのがいっぱい湧いて出て来てた。

既に500人ぐらいのミニおっさんが粘着シートにひっついていて、必死でもがいていた。
で、その5倍ぐらいの数のミニおっさんたちが、そいつらを平気で踏み台にして、ストッキングに夢中になって群がっている。
地獄のような光景だ。

みんなストッキングの中のぐちゃぐちゃを吸うことに夢中で、完全武装して部屋に突入した俺のことなんか目に入らない。
こいつら知能はないのか?

最初に罠にかかった体長10センチの小さいおっさんたちも、その後に出て来た体長5センチの小型のおっさんたちも、もはやどこにいるのか全然わからない。
ミニおっさんの群れに完全に埋もれてしまってんだろう。

餌の入ったストッキングは、群がったミニおっさんたちの重みでみるみる床まで伸び切った。
そしたさらに5000人ぐらいの血眼になったミニおっさんたちがまたどこからかどんどん湧いてきてストッキングに殺到した。
みんな本能のままに殺到するから、おっさん同士の小競り合い、殴り合いがあちこちで始まる始末だ。

唖然としている俺の目の前で、次から次にミニおっさんたちが、床から、壁から、柱からどんどん湧いて出て来る。
いったいどうなってんだよ。

で、ついにその数は多分数万にはなった。もはや大群衆。床の半分がミニおっさんたちで埋め尽くされた。
メッカに集まる巡礼者みたいなカオスな状態。
それぞれがてんでばらばらにキーキーわめいて、うるさいことこの上ない。
子供部屋なのに、小さなおっさんたちのひといきれでむせかえるようだった。

で、数が増えれば増えるほど、連中は身体がどんどん縮んでいくことがわかった。
床が小さなおっさんで埋め尽くされてほぼ真っ黒になった頃は、10万人は軽く超えてただろうけど、連中の体長は2ミリ程度になっていた。
小人は群れとしてのトータルの質量が変わらないように出来ているのかもしれない。
ルーペで拡大すると精巧なおっさんフィギュアみたいなのがひしめき合って、わめき合って、殴り合っている。

俺はかみさんに言って、掃除機とルンバを持ってこさせた。
こんだけ細かいおっさんが増えたらもう吸い取るしかないだろ。

俺はサイクロン掃除機をオンにして、ミニおっさんたちをガンガン吸い取ってやった。
小人が渦巻き状にどんどん掃除機に吸い込まれていくのが良く見えたよ。
掃除機をサイクロンにしておいて良かったとこの時ほど思ったことはなかったな。
ルンバの方も、一直線に小さなおっさんだらけの群衆に突進して、回転ブラシでおっさんたちをふっ飛ばしながら、逃げ遅れたやつをガンガン吸い込んでいった。

小人が死んじゃう? 大丈夫だ。その点は心配はない。
連中はぎゅうぎゅう詰めにされても全然平気。
そのうえ空気とか全然関係ない。密封状態でも平気。
いったいどうやって生きてるのかまったく謎。

なので、掃除機やルンバが、吸い取ったミニおっさんでいっぱいになったら、連中をでっかいポリ袋にどんどん移していった。
で、3時間ぐらいかけてようやく全員吸い取ることができた。
餌のぐちゃぐちゃが無くなって、ミニおっさんの湧出が途中で止まったのも大きかった。

結局、小さなおっさんでぎゅうぎゅう詰めのポリ袋が全部で12個できた。
一袋が10kgぐらいだから、ミニおっさん一人が1g程度とすると、一袋あたり10万人ぐらいぎっしり入っている計算だ。
なので、全部で120万人の小さなおっさんを俺は一気に捕獲したことになる。
人類史上稀に見る大勝利だろ。これ。

で、俺は意気揚々と区役所の害獣駆除係に電話した。小人120万人を捕獲したからすぐ引き取ってくれって。
そしたら、ふざけるのもいい加減しろって言われたよ。
保健所の方はまだ話のわかる若い姉ちゃんだったけど、小人は保健所の対象じゃありませんからって丁寧に断られた。
害獣駆除の専門業者にも何社か電話した。でも、どこも反応はまったく同じ。全然相手にされない。

警察に電話しても、自衛隊に電話しても同じ。
誰も信じてくれない。
自衛隊なんか、小人と言った段階で爆笑された。

俺は120万人の小人をどう処分すればいいんだろうか?
もう4日も小人が袋の中でもぞもぞ動いてるんだよ。助けてくれよ。

誰か教えてくれよ!


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