「作業所製品の価格の違い」
以前、作業所製品を買うと、作っている人たちにどう還元されるのかという事や、それら製品がいまだに当然のように安い値段で売り買いされる、という事がどういう意味を持つのか書かせてもらいました。
ただし、それは主に福祉作業所が自分たちで直接お客様に販売するケースとして、の話でした。
では、自分たちで直接お客様に販売するのではなく、マジェルカのような外部のショップなどを通して販売しているモノを買う場合はどうなのでしょう?
「福祉作業所」(作り手)→「マジェルカ(のような外部のショップ)」(売り手)→「お客様」(買い手)の流れの場合です。
今回はその辺を整理してみたいと思います。
作業所から直接買う場合とマジェルカで買う場合の違い
お客さまが作業所から直接買った場合、支払った代金は材料代などの製造経費を引いた全てが利用者さんへの工賃となります。
では、作業所から直接ではなく、マジェルカを通して作業所製品を買った場合にはどうなるのでしょうか?
この場合は、マジェルカがお客様から受け取った商品代全てを作業所に渡すのではなく、一部は私たちマジェルカが頂いています。
言い換えると、商品の売り上げを作業所とマジェルカでシェアします。
それを、作業所では、材料代などの経費と利用者さんへの工賃に充て、
マジェルカでは運営経費(家賃・人件費その他諸々)に充てます。
さて、マジェルカが売上を全て作業所に還元せずに自分たちが取っているという事実を意外だとする方がたまにいます。
それは、障害者施設の製品を専門に売るお店は、運営資金は”障害者支援活動”としてどこか別からもらっていると思われている場合があります。
確かに全国に数ある行政が運営している福祉ショップでは、運営費用は予算が出ているので、売り上げから運営費を生みださなくても良いのですが、マジェルカの場合は拠点としている東京都からはもちろん、どこからも支援は受けていません。
そのため、売り上げで得られる利益から家賃や人件費、その他諸々全てを賄う必要があります。
逆にいうと、買ってもらえないとそもそも活動が続けられないという事でもあります。
しかし、ただの必要性からだけではありません。
障害者が作る製品でも買い手と作り手、売り手、全ての人に利益をもたらすほどの価値を持っている、という事を実証するというウェルフェアトレードの観点からもマジェルカでは当初からこういう方法を取っています。
話を戻して、
では、そんなマジェルカは売上で得る利益から、どれだけを自分たちの取り分とし、どれだけを作業所に還元しているのか。
それを説明するには、双方でシェアする利益の元となる販売価格をどうやって決めているかの説明も必要です。
マジェルカでの販売価格はどうやって決めてるか
価格設定の根拠となるのは「仕入れ価格」「市場価格」です。
マジェルカでの「仕入れ価格」というのは、作業所に商品代としてマジェルカが支払う価格です。
これは「作業所側の取り分」です。
この「仕入れ価格」に「マジェルカ側の取り分」を乗せたものがマジェルカでの「販売価格」=お客様が買う値段となります。
そして「この商品ならこの位出してでも欲しい」「これならこの位の値段でもいいか」と、”お客様に納得して買ってもらえる価格”というのが「市場価格」といえるものです。
マジェルカが儲けたいと考えて「マジェルカの取り分」を多く載せて販売価格を上げてしまうと、今度はお客様に納得して買ってもらえる価格ではなくなってしまいます。
だから、価格設定は「仕入れ価格」を元にしながら「市場価格」も見定めて決めます。
作業所とマジェルカでの価格の違い
次に、”作業所が自分たちで販売する時の価格”と”作業所がマジェルカに販売する価格(卸価格)”そして、”マジェルカがお客様に販売する価格”の関係性をお話します。
段々ややこしくなってきましたね💦
しかも3パターン考えられるので図にしました。
マジェルカで販売されているのと同じ商品を、作業所さんが自分たちで販売する際にいくらで売っているかの比較です。
※前提として、マジェルカが作業所さんから商品を買い取る価格は、基本的に作業所さん側が決めています。
【パターンA】自分たちがバザーなどで販売している価格と同じ価格でマジェルカに提供、そこにマジェルカが必要な取り分を載せて販売。
バザーで普段売っているのと同じ値段でマジェルカにも販売するといえばわかりやすいでしょうか。
販売にコストをかけ、売れ残りリスクを負う上にまとまった数量を仕入れる相手に、普通のお客さんに1個から売るのと同じ値段で卸すということは、普通の市場ではあり得ない事ですが、福祉の世界ではよくあります。
これは、まるで「売りたいなら売らせてあげる」という態度にも見えますが、実際その多くは様々な損得を考えてそうしているというより、それ自体あまり考えていない、取引に慣れていない作業所さんが多いと感じています。
では、なぜマジェルカはそんな条件で仕入れてまで販売するのかというと、「それでも売りたい(紹介したい)と思えるモノ」だからです。
加えて、「価格を上げても十分買ってもらえる価値のある製品」だから。
当然この場合、当の作業所さんには、自分たちの利用者さんの仕事を、無駄に安売りするべきでは無く、もっと価値のあるものだと見直して、自分たちで売る際にも価格を上げるチャレンジをして欲しいと考えます。
しかし、それを理解し実行してもらうのは難しいという事もマジェルカの長い経験から知っています。
だからせめて、マジェルカでまずは、価格を上げても売れるという事を実践し、その事を目にしてもらう事で、その作業所さんの意識が少しずつ変わるという事を期待しています。
事実、マジェルカでそれなりの価格でもきちんと売れてる事に自信を持ち、自分たちの販売価格に反映するようになったケースをいくつも見てきました。
【パターンB】自分たちで販売している価格よりも少し下げた価格でマジェルカに提供、そこにマジェルカが取り分を載せて販売。
取引相手の利益(取り分)も多少考えて歩み寄り、取引先へ卸価格として値段を少し下げる、でも作業所で直接買った方が安いパターン。
自分たちの地元を中心に多少は自分たちでも販売の場や実績もあるが、それ以外のお客様に知ってもらうなど、マジェルカで販売することにメリットがあると判断して取引する作業所さんが多いでしょうか。
でも、マジェルカで同じ価格にして販売すると、地元のお客様や旧来のお客様から理解が得られないという声を度々聞きます。
当の作業所まで来てくれる人や地域の福祉イベントなどに来て買ってくれるという人たちというのは、いわば「障害者の為に買い物をする」という意識を持っている人たち、少なくとも障害者に関心を持って関わるタイプの人たちといえます。
片やマジェルカでは、そこまで普段障害者と関わりないタイプの方がそれなりの値段でも喜んで買ってくれます。
障害者への関わりや理解があるとする前者のタイプが障害者が作る製品を安くしないと買ってくれない。
これってどういうことなんでしょうかね。
マジェルカでは福祉外の人たちへの発信が鍵だと実感しています。
【パターンC】自分たち含めどこでも同じ販売価格と卸価格を設定
自分たちでも「市場価格」を見定めて商品価値に見合った販売価格を設定し、自分達の利益(取り分)に加えて取引先の利益(取り分)も考えた上で卸価格設定をしているパターン。
これが出来ているのは、取引にもある程度慣れているところ。
一般的な市場のルールにのっとった、合理的でフェアな方法です。
取引する側にとっても安心で対等な関係ともいえます。
また、内側に対しては、自分たち自身がきちんと自分たちの物、利用者さんの生み出す価値を認められていて、外側に対してそれをきちんと発信していく事とその意味を理解出来ている場合が多いのではないかと考えます。
とはいえ、私たちはこれが最初から出来ていない作業所がダメだとは考えていません。
そもそも製品の製造と販売が作業所の本分ではありません。
実際にマジェルカと関わりながら良い方法を見つけていってもらえば良いと考えていますし、それが作業所製品の価値向上を考えながら常設の売り場を回しているからこそ出来るマジェルカの役割だとも考えています。
他のショップとマジェルカの価格の違い
ここまで、作業所で売る価格とマジェルカでの価格の関係を書きましたが、次は、同じ外部の販路(売り場)でも、マジェルカとマジェルカ以外の売り場の違いについて。。。
今、かつて無いほどに作業所製品を売る場が増えていますが、ここでは、マジェルカとの比較として、期間限定のPOP UPショップや、webショップだけの活動、また、他の活動や製品がメインで一部作業所製品を置いているというショップさんではなく、作業所製品を専門に販売する事をメインとし、なおかつ店舗を持って運営しているショップと比較してみたいと思います。
そうすると結局、行政によるものしかないのではと考えるので(もし他に情報あれば教えてください)、全国に数ある行政によって運営されている福祉ショップとマジェルカの違いを比較・整理してみます。
ここ2、3年でしょうか、それらの福祉ショップがこぞってオンラインショップを開設するようになったため、製品や価格を目にする事が簡単にできるようになりました。
それらを見ていると、マジェルカで扱っているのと同じ作業所の同じ製品を見つける事も出来ます。
そしてその多くでは、同じ物なのにマジェルカで販売しているよりも安い価格で販売されていることがあります。
一体なぜそういう事になるかというと、価格設定の話で述べたように、マジェルカでは作業所からの「仕入れ価格」に「必要経費」を乗せて販売しているのに対して、それらショップでは「必要経費」を乗せずに販売出来るからです。
そしてなぜそれが出来るのか、という理由は下のマジェルカとそれら福祉ショップとの比較を見ればわかります。
マジェルカの場合
運営費(家賃・人権費・広報費・その他諸々)は自分たちの売り上げから
製品の多くは買取っているのでマジェルカが在庫として抱えている
上記2点の理由から、売り上げがないと赤字になる
運営は民間のマジェルカ(株式会社・一般社団法人)
製品の売り上げが無いと活動継続できない
他のショップの場合
運営費(家賃・人権費・広報費・その他諸々)は全て公的な予算から
製品は委託で預かり売れた分だけ支払うので在庫リスクは負わない
上記2点の理由から、別に売れなくても赤字にはならない
運営は行政から委託(入札だったり随意契約などで)を受けた団体や業者が行う
製品が売れなくても活動できる
製品の売り上げから運営費(=必要経費)を作らなくても良いので価格に反映されないのはおわかりでしょうか。
ただ、経費が必要でないから安く売るという事には強い違和感を持っています。
”障害者が作る製品は安くて当たり前”というアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を取り払うべくマジェルカは「ウェルフェアトレード」を15年前に始め、今日まで継続してきました。
ウェルフェアトレードには障害者が作った物を「不当に安売りしない」「価値あるヒトやモノには相応の評価を」という意思を持った活動であって、作業所製品をオシャレにする事や、それらを集めて多少オシャレに売る事自体がウェルフェアトレードではありません。
マジェルカで価値を高め、その価値をもっても売れるようにしたその同じ物を、価値を下げた安い価格で売るという事。
その理由が必要経費を乗せる必要がないからというのでは、そこには、「不当に安売りしない」「価値あるヒトやモノには相応の評価を」という意思は存在していません。
”障害者が作る製品は安くて当たり前”というアンコンシャス・バイアスが生まれたのは、決して受け手である人々の側からではなく、福祉の側の発信からです。
そして、今の状況を見ても、その感覚は数十年前の福祉ショップの時から本質的には変わっていないように感じます。
しかも、以前のどこかでひっそりと運営していた「知る人ぞ知る」福祉ショップではなく、多少目立つスペースやロケーションで運営し、オンラインショップも駆使して、”障害者が作る製品は安くて当たり前”というアンコンシャス・バイアスを、より強く発信するようになっている事に多少怖さを感じています。
もしかしてマジェルカが求め進めてきた「ウェルフェアトレード」は今、後退してるのかもしれません。