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初診で患者さんから信頼を得るための大切な3つのポイント【医】#20

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「患者さんとのコミュニケーション~初診編~」です。

動画はこちらになります。

若いドクターから「初診で患者さんにうまく説明できる自信がありません。どうしたらいいか教えてください。」という声をよく聞きます。

患者さんに治療法など説明している上の先生を見ていると、「自分もどうやったらうまく患者さんに話せるのだろう。」と思う若いドクターは多いでしょう。

患者さんとのコミュニケーションにおいて大事なことは、患者さんに上手に話すこと、なのでしょうか。しかし、実は違うかもしれません。

今日は初診での、患者さんとのコミュニケーションにおいて、大事なことをお話します。先程の動画の中では、初診の診察の悪い例、良い例の実演をしています。この記事ではその文字起こしを載せておきますので参考になさってください

今日もよろしくお願いします。


初診の3つのポイント

結論から申し上げます。

医師-患者間のコミュニケーションで最も大事なポイントは、何を伝えるかではなく、いかに患者さんから聴くかということです。特に初診では、「聴く」ことがとても重要になってきます。

今日はそのことについてお話してまいります。

初診で初めて患者さんと会うときに大切なことの1番目は、どのようにうまく説明するかではなく、いかに患者さんの思いや気持ちを聴くかということです。

初診の患者さんはとても緊張して、不安な気持ちを抱えています。しかもそのことを初診の場で、自分からはとても言えないという人がほとんどです。ですから、医師のほうから、患者さんの思いや気持ちを引き出すように訊ねてあげることで、患者さんは不安な気持ちを医師に話すことができ、とてもうれしい気持ちになります。

初診では、「わかってもらえた」「この先生には何でも言える」と患者さんに思ってもらえることがとても大事です。これが、今後の治療関係がうまくいくコツです。

初診で初めて患者さんと会うときに大切なことの2番目は、事前情報をしっかり知っておくことです。

特に初診の時は、診察の前に紹介状や検査データなどをしっかり見て、把握しておくことで、患者さんの思いや背景がより明確になり、患者さんの気持ちを深く理解することができるようになるのです。

紹介状をもらい、データや数値を把握することは当然行っているとは思います。しかし、初診の際、患者さんとのコミュニケーションを円滑に行うためには、データの奥にある患者さんの思いや背景を、事前にイメージしておくことがとても大事です。そのことで、患者さんの話を実際に聞いた時に、より深く患者さんを理解できるからです。

初診で初めて患者さんと会うときに大切なことの3番目は、患者さんの感情面の配慮をすることです。相手の気持ちを大切にすることは、患者―医師間に関わらず、人間関係を円滑にするうえで大切なことですよね。

患者さんは医師の心遣いをうれしく思います。とりわけ日本人は情緒的なコミュニケーションを尊び、人から気持ちの配慮をされたらうれしいと思います。

特に上下関係になりやすい、患者-医師間において、医師に気持ちを配慮してほしいと思う患者さんが多いという報告もあります。

(Fujimori et.al Psychooncology 16:617-625 2007)

もう一度、初めての患者さんに接するときのポイントをまとめます。

①面談への十分な準備
②患者さんの思い・考えを聞く
③感情面を配慮する

この3点です。

それでは、その点に注意して、次の初診の例をご覧ください。


よくある初診の例

ある診察場面で

52歳、女性の患者さんの吉田さんは2週間前、近医で子宮がんの疑いがあると言われ、A大学病院産婦人科を紹介され本日受診しました。受付してから1時間以上待たされています。担当医のDr. Ashは、今朝入院患者が急変し、対応に追われていました。

Dr. Ash:吉田さんお入りください。何か変わったことはありませんか。紹介状、CDは持ってこられましたか。(ややイライラした口調で)

患者:あ、はい、受付にお渡ししてると思いますが。

Dr. Ash:えっ。あーこれか。うーんと、ちょっと待ってね。ふんふん。はいはい。子宮頚がんですね。CTだけじゃあちょっとねえ。明日MRI撮りますから。

患者:治療はどうなるんですか。手術はできますよねえ。(心配そうな表情)

Dr. Ash:手術は難しいです。おそらく抗がん剤治療とかになると思いますよ。荒井先生(紹介医)からは聞いてませんでしたか。

患者:荒井先生からは、がんとは言われましたが、手術ができないとは聞いていません・・・・。私どうなるんでしょうか。(思いつめたような表情)

Dr. Ash:うーん、もう少し詳しい検査をしてみないと何ともねえ。明日もう一度来てください。それじゃあ、お大事に。

患者:・・・・


この面談での問題とは

このやり取りを観て、皆さんはどう感じましたか?

患者さんは開業医の荒井先生から紹介され、治療を受けるために受診しました。その初回面談です。問題は何でしょうか?

Dr. Ashはその日は外来担当で、大勢の患者さんの診察が控えていました。ところが朝から病棟の患者さんの急変の対応に追われ診察が大幅に遅れていました。予定よりも1時間以上遅れ、その中での初診診察だったのです。

外来患者さんは大勢待っており、診察を非常に急ぐ必要があったのでしょうが、まず最初の問題は、紹介状や検査結果などを見ずに患者さんを診察室に入れてしまったことです。もし事前にしっかりとした準備ができていれば、もう少し患者さんの置かれた状況が把握できたかもしれません。

2つ目の問題点は、患者さんが聞きたいこと、心配なことに全く配慮せず、自分の要件だけを患者さんに伝えている点です。更に患者さんは不安な表情をしていますが、患者さんの感情に全く気が付いていない点も大きな問題です。

このままでは、患者さんは医師に対して信頼感を持てないまま治療に進んでいかなければならないでしょう。

それでは次に、先ほどお話した3つのポイントである、面談への十分な準備、まず患者さんの思いや考えを聞く、感情面を配慮する。この3点に気を付けたらどんな初診になるでしょう。


3つのポイントに気を付けた初診

Dr. Toshは、面談時間はかなり過ぎていましたが、紹介状をしっかりと読み、検査データはもちろん、家族背景なども把握していました。

Dr. Tosh:吉田恵子さんお入りください。大変お待たせして、本当に申し訳ありませんでした。(待たせたことをまず詫びる)

私は担当する産婦人科医、Dr. Toshと申します。はじめまして、よろしくお願いします。(氏名を名乗る)

患者:吉田恵子です。こちらこそよろしくお願いします。

Dr. Tosh:今日は少し冷えますね。体調はいかがですか?(患者さんの気持ちを和らげることを話す。)

患者:ありがとうございます。今のところ大丈夫です。

Dr. Tosh:そうですか。先ほど荒井先生からの紹介状を読ませていただきました。今後こちらでの治療を希望されておられるのですね。

患者:はい、そうです。

Dr. Tosh:わかりました。それでは治療のことをお話する前に、何か心配なことがあればお聞きしたいのですが、いかがですか。(患者さんの思いを聴く)

患者:荒井先生から子宮がんであることは聞いています。どんな治療になるかはまだ聞いていません。治るのであれば、手術をして子宮を取ってもらっても良いと思って来ました。先生、手術してもらえますよね。

子供は2人いますが、まだ未成年なのです。特に下の子は今年高校受験が控えています。また英会話教室もしてまして、生徒たちのためにも絶対治したいんです。

Dr. Tosh:お子さんたちのことが心配なのですね。治療のことも心配ですよね。(感情への配慮)

患者:はい、そうです。心配です。私はこの年になるまで大きな病気になったことがないんです。がんと聞いてびっくりしたけど、家族のためにも治るんであれば頑張って治療しようと思います。先生、治りますよね。(患者の思い、気持ちを語ってもらう)

Dr. Tosh:がんと聞いてびっくりされたんですね。(反復)

不安になりますよね。(感情への配慮)

そして、ご家族のためにも頑張って治したいというお気持ちなのですね。よくわかりました。

それでは、今から治療法など、今後について相談していきたいのですが、よろしいでしょうか。(一方的なものではなく、双方向性であるというメッセージ)

患者:はい。

Dr. Tosh:子宮頚がんの治療法は手術だけではなく、抗がん剤や放射線治療が有効なことが多いんです。ただし、これらの治療法を決める際、がんの広がりが問題になってきます。吉田さんの治療法を決めるためには、もう少し検査が必要です。ここまでで何か質問はありますか?

患者:いいえ。今のところありません。

Dr. Tosh:それでは、検査内容の説明を具体的にしていきます。まず、荒井先生のところでCT検査はしていますよね。・・・・・・(検査内容の説明)

よろしいですか?

患者:はい良く分かりました。まずは明日MRIを受ければいいのですね。

Dr. Tosh:何か他に気になることはありませんか。

患者:実は先ほどお話した英会話教室を家でやっていまして、生徒たちの都合を聞いてからでないとすぐには入院できないんです。

Dr. Tosh:わかりました。そのことも配慮しますね。検査がすべて終わった時点で、治療法も含めた今後のことを相談したいと思います。来週、来院できる都合の良い日を教えていただけませんか。またその日はご主人など家族の方の同席もしていただければありがたいのですが。

患者:ありがとうございます、主人と相談してまたご連絡いたします。

Dr. Tosh:これから長いお付き合いになると思います。頑張っていきましょうね。


より良い関係性を持つための9か条

以上コミュニケーションの重要なポイントをお話してきました。
ポイントをまとめます。

①あいさつ
診察の最初は、必ず自分の名前をしっかり名乗り、患者さんの名前を確認しましょう。当たり前の礼儀ですが、忘れがちになりやすいので注意しましょう。

②ノンバーバル・コミュニケーション
第一印象はとても大事です。患者さんの目線や、仕草などのノンバーバルなコミュニケーションにも留意しましょう。

③アイスブレイキング
本題に入る前に天気のことや身体の状態のことなど、患者さんの気持ちを和らげる話題で、お互いの緊張を取りましょう。

④心配事を聴く
患者さんが心配に思っていることを尋ねましょう。こちらが話し合いたい話題の前に聞くことが重要です。心配に思っていることを話すことで、聞いてくれたと患者さんに安心感が生まれるからです。また、患者さんの思いを知ることで、何をどのように伝えるか、どんなことに配慮しなければいけないかなどの心づもりができるからです。

⑤反復のコミュニケーション
感情が表出されたらまず受け取り、受け取ったことを言葉で表現しましょう。
そのことで、患者さんに安心感が生まれます。

⑥こちらからの説明
患者さんの気持ちを受け取った後に、こちらが話し合いたい事柄を説明します。
説明の前には「よろしいですか」と聞いてください。患者さんが不安や心配な気持ちでいる場合、話を聞く余裕がないことが多いので、注意を引く意味で重要です。

⑦理解度の確認
話は患者さんとともに、一歩一歩進めていきましょう。話し終わったときには患者さんの理解度を確認しましょう。紙に書いて渡すことも有効です。

⑧最後の質問
最後に患者さんの気がかりを再度尋ねましょう。ここで重要な内容を話してくれることもあります。必ず聴いてください。

⑨同席の勧め
ご家族は患者さんにとって、とても大切なサポーターです。また、ご家族自身も患者さんのことを心配し、知りたいと思っています。大事な面談にはご家族の同席を勧めましょう。

慣れていないドクターは、この9か条を机に貼っておいてもいいかもしれませんね。私は若い頃そうしていました。

以上の点に留意して、初診での患者さんと良い関係性を結んでください。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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