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あなたは残された命を知りたいですか? #35

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

今日のテーマは「余命の話」です。

動画でご覧になりたい方はこちらもよろしくお願いします。

いきなりですが、1つあなたに質問があります。

あなたががんになったとき余命を知りたいですか?知りたくないですか?

余命を知りたい方は、どうして知りたいのでしょうか。仕事の整理をしたいからですか?家族にご自分の思いを伝えたいからですか?

余命を知りたくない方は、どうして知りたくないのでしょうか。死ぬかもしれないことを考えるのは怖いからですか?最後まで「生きる希望」を持ちたいからですか?

いずれにせよ、この記事をご覧になられている方は、余命について考えたときに、思い悩まれる方は多いのではないかと思います。

この記事をご覧になることで、がんになって、余命宣告されたとしても、希望を持って、自分らしい人生を歩まれる方が増えたら嬉しいです。どうぞ最後までご覧ください。

余命とは

さて、皆さんは、余命をどのように捉えていますか?

結論を言うと、医者には正確な余命宣告はできません。

では、余命とは何か、そして余命についてどのように考えればいいのでしょうか?

多くの方は、「余命」とは、同じ症状のがん患者さんが生きられる平均的な時間と思われているのではないでしょうか。

例えば余命半年と聞けば、半年後には多くの患者さんが亡くなっており、それ以上は生きられないと思う方が多いのではないでしょうか。

しかしそれは間違いです。実は、余命とは「残された命の時間」ではありません

余命とは、あくまで「これくらいの期間は生存しているだろう」という推測でしかありません。余命1年と言われて、それ以上生きている方もおられますし、1年より短くしか生きられない方もおられます。

医学的に残された命の時間を正確にいい当てることはできない、という事実をまずは知っていただきたいと思います。


余命の算定の仕方について

それでは、医者はどのように余命を決めているのでしょうか。

実は余命宣告には決められたルールはありません。とはいえ、勘だけで、余命を伝えているわけではなく、根拠となるデータはあります。

いくつかある中の1つをご紹介しますと、生存期間の中央値というものがあります。

同じタイプのがんである治療を受けた人を5人集めたとします。そして、その人たちの生存期間の短い順番に横一列に並べます。その真ん中の人の値を中央値といいます。

例えば、1か月、2か月、1年、7年、10年だったとしましょう。

その場合の中央値は1年です。

この中央値を余命と伝えている医師は多いのです。余命1年と言われても実際は1か月かもしれないし、10年かもしれないということです。つまり、自分がどこにあたるかはわからないわけです。

結論的に言うと、正確な余命宣告は困難なのです。

がんと診断され、医師から余命1年と言われても、それは非常にあやふやな数字でしかないという事実を知ってください。

もし、あなたが余命について思い悩んでいたとしても、その数字に振り回されることはないのです。


人の中にある「リバウンド力」

冒頭でもお話しましたが、余命を知りたい、知りたくない、というようにがん患者さんは色々な思いを持っておられると思います。

しかし、どんな方であっても、がんが治ってほしいという希望を持っていると思います。そして、たとえ末期がんであっても、がんが消えるという奇跡を信じたいと思っておられる方は大勢おられます。

私は実際に余命宣告された方で、がんが完全に治った人を何人か知っています。

でも、私は、ある特定の方法でがんが消えたとしても、その方法をとることで全ての人のがんが消えるとは思っていません。正直に言うと、消える人もいるし、消えない人もいるというのが本当のところだと思っています。

私は長年緩和ケアに携わってきて、患者さんのこころの中に変化が起こり、その結果全ての人や出来事に対して感謝の気持ちでいっぱいになった人を多数知っています。そして、そのような方は、がんが治る、治らないに関わらず、皆さんそろって「がんになったことにすら感謝」しているのです。

人は誰でも必ず死にます。

けれども、普段の生活の中で「死」を意識する機会は少ないです。ところが、どんなに初期であったとしても、がんにかかった人は皆さん死に直面することになります。

死に直面することで人は大いに苦しみ、悩みます。余命を知りたい、知りたくないと思う葛藤もその1つではないでしょうか。

しかし、全ての人の中には困難に直面してもまた再び立ち上がれる、柳の木のようなしなやかな力があるのです。それを「リバウンド力」とよびます。もちろん、あなたの中にも必ずあります。

人は苦しみからこのリバウンド力によって立ちなおっていきます。その過程において先ほどお話しした、こころの成長が得られるのです。

このこころの成長こそが私は本当の奇跡だと思います。

あなたの残された命の時間を言い当てることはできません。余命に振り回されるのではなく、あなたの中のリバウンド力を信じましょう。

どうか、あなたもこの奇跡を信じてみて下さい。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん、ご家族、医療者向けに発信をしています。

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