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家族が余命3ヶ月と言われた時、みんなが希望を持って生きるには? #36

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

今日のテーマは「大切な人が余命3か月と言われた時」です。

動画でご覧になりたい方はこちらをご覧ください。

想像してみてください。

がんで闘病を続けてきた患者さんのご家族であるあなたに、主治医から、患者さんの余命は3か月です。と言われた時、あなたならどうしますか?

何をしていいか、どうすればよいかわからない。
自分自身も不安になる。
大事な人がいなくなることは考えられない。そのことが怖くて前に進めない。

などと思われる方は多いのではないでしょうか。

今回は、大切な人が余命3か月と言われた時、あなたがすべきことは何なのかについてお話したいと思います。

この記事をご覧になることで、あなたの悩みが少しでも軽くなれば幸いです。


まず一番に考えてほしいこと

医師から、余命3か月と言われるとき、大きく分けて2種類あります。

1つは、進行がんが見つかり、何もしなければ3か月と言われた時

もう1つは、ずっと抗がん剤治療を続けてきて、これ以上の抗がん剤治療が困難で、患者さんが人生の最終段階に差し掛かった時です。

前者の場合、これから治療を行えば、余命が変わることは十分考えられます。

今回お話しするのは、後者の場合で、患者さんが人生の最終段階に差し掛かったと思われる時のご家族に対する、私からのアドバイスです。

以前の記事で「治療中に言われた余命とは中央値のことが多く、数字としてはあいまいです」とお話しました。記事はこちらです。

しかし治療が終了し、終末期に差し掛かってきたと思われるこの時期になると、3か月の余命が1年、2年に延びる例は少ないです。

ところが、3か月よりも実際の余命が短くなることはしばしば起こります。この時期の患者さんを良く知っている医者なら比較的正確に予測できますが、残念ながら違う場合もあるのです。また、急変という事態も往々にして起こりえます。

したがって、3か月と言われた余命が、数週間、場合によっては数日ということも実際にはありえます。

ですから、治療が終了し、終末期に差し掛かったと思われる患者さんが家族にいるあなたには最大限の希望を持ちながら、しっかりとした準備をするということを考えてほしいのです。


何を準備するのか

それではこれからあなたが準備すべき事についてお話します。

①患者さんとこれからのことを話す

もし患者さんが余命を知らされていない場合、本人にもお伝えした方が良いと私は思います。

余命3か月の場合、患者さん自身が元気な場合は多いです。余命3か月と聞いても、実感はわかないと思います。実際に元気がなくなってくるのは、亡くなる数週間くらい前だからです。

ですので、まだお元気なうちに、患者さんご本人と残された時間をどう過ごしたいかについて話しあうことがとても大事です。

どんなことがしたいのか、最期をどこで過ごしたいのかなど、患者さんが自分自身で決めることが可能となります。

残された時間でどう生きていくことが自分らしく生きることなのか、ご家族にどうサポートしてもらいたいのか、是非患者さんと率直に、これからのことを話し合ってみてください。

②つらい気持ちを我慢しない

大事な人がいなくなるかもしれない、これほどつらいことはありせん。気持ちがつらくなったり、不安になることは当然のことです。

しかし、なかなか本人の前では感情をありのまま出すことはできませんよね。多くの日本人がそうです。かといって我慢して、つらい気持ちを抱え込まないでください。そうすると場合によっては、うつになったり、倒れてしまうこともあります。

あなたの気持ちを、何でも言える人に出してみてください。もしそのような人がいなければ、緩和ケアチームなどの専門チームにご相談下さい。

③サポーターを作る

あなた一人で最後まで頑張ろうとしていませんか?

できればあなたを支えるサポーターを作ってください。もちろんあなたのご家族以外でもいいです。ご友人もサポーターになってくれるでしょう。

主治医、看護師などの医療スタッフ、ケアマネージャー、ソーシャルワーカーなどの福祉スタッフ、そして緩和ケアチームもあなたのサポーターになります。

その際ポイントとなるのが、サポーターを有効に使い分けることです。サポーターには3種類あると言われています。ぜひ覚えておいてください。

1つ目はあなたのかわりになって患者さんを助けてくれる人です。食事を作ってくれたり、患者さんを病院などに運んでくれたりする人です。

2つ目は、あなたの知らない情報を教えてくれる人です。医療者はその時その時の患者さんの病状をあなたに教えてくれます。今の治療、ケアの状態、そしてあなたがなすべきことを教えてくれるでしょう。また、相続のこと、葬儀のことなども、相談に乗ってくれるような人を予め決めておけば安心できると思います。

3つ目は、あなたの気持ちを癒してくれる人、情緒的な部分のサポーターです。繰り返しますが、つらい気持ちはその人に話して、手放しましょう。

この3つの観点で考えてサポーターを作ってください。

④大切な人へメッセージを届け、受け取る

今までお話してきた3つのことは、とても大切なので、ぜひ準備してもらいたいと思っています。しかし、私があなたに1番してほしいこと、それは、大切な人へメッセージを届け、受け取ることです。

あなたの大切な方が人生の最終段階に差し掛かった時、あなたがその方に伝えたいメッセージは何でしょうか?患者さんがあなたに伝えたいメッセージは何でしょうか?患者さんは、あなたにとって大切な人だと思います。今しか時間が無いとしたら、本当の気持ちをお互いシェアしませんか。

今まで言えなかったメッセージがあるのなら、お互いに伝えあってください。ご両親になら、産んでくれてありがとう、でしょうか。ご夫婦なら、今までありがとう、またはごめんなさい、でしょうか。あるいは愛してる、でしょうか。

「大切な人へメッセージを届け、受け取る」、これがあなたにしてほしい事の4番目です。

私は、遺族ケアも行っています。そこで、遺族の方々から様々な後悔を聞いています。私は、この記事に出会ってくれたあなたに、そのような思いをしていただきたくないのです。

色々な事情はあるかもしれませんが、あなたの大切な人をできるだけ一番の優先順位にしていただきたいと思っています。

ぜひ、これらのことを考え、準備をしてください。


大切な人からのメッセージ

さきほど、私は、大切な人へメッセージを届け、受け取ることをしてほしいと言いました。今から、それをされ、生きる希望を持った方のお話を紹介いたします。

ご主人をがんで失った女性のお話です。
彼女のご主人は最期の時をホスピスで過ごそうと思い、入院されました。
彼女も最期の時をご主人とともに過ごそうと、仕事も辞めて、ほとんどの時間をご主人の介護に献身的に尽くしました。
それから2か月後、ご主人は亡くなりました。
彼女は死後の様々な手続きを終えた後、岬の先端に立っていました。
ご主人の後を追って死のうとしていたのです。
彼女にはご主人との生活が全てでした。
海に飛び込もうとしたその時、ご主人の「俺はがんで死ぬが、命のある限り生きた。お前も命のある限り生きなあかん。」と言った言葉を思いだしたのです。
それにより、彼女は自殺を踏みとどまったそうです。
彼女は私に言いました。「主人は命のある限り生きました。主人と生きた時間を大切に、これからも命ある限り生きたいと思います。」
彼女は大切な人からのメッセージを受け取りました。それが彼女の生きる糧になったのです。


緩和ケアには

“Hope for the best, Prepare for the worst” 

「しっかりとした準備をしながら、最大限の希望を持って生きる」

という言葉があります。

あなたの大切な人が人生の最終段階に差し掛かった時、しっかりとした準備をしながら、最大限の希望を持って生きるという選択をしていただきたいと思っています。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん、ご家族、医療者向けに発信をしています。

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